ヴィーガンとは、完全菜食主義者のことで、動物虐待や大気汚染の原因にもなっている畜産業や酪農業を批判し、動物肉を食べることを拒否する人たちのことである。
彼らは、じぶんたちが動物肉を食べないようにするだけでなく、時によってはヴィーガニズムを信仰しない人にも「動物肉を食べるな!」という場合もあるそうだ。
彼らの思想では、動物虐待や大気汚染の観点から、「動物肉を食べるのは悪」とされてしまう。そして、彼らにとって、野菜や果実のみの生活が人類にとって最も"自然"な生き方だというのだ。
(最近は、動物肉が使われていない"培養肉"を食べる人が増えていて、これからもっと流行っていくとはおもう。)
ぼくは、彼らが勝手にそういう生活を送るのは全然いいとおもう。それを否定するつもりはない。
ただし、動物肉を食べること自体を批判してくるのは、断固として反対したい。ぼくは、彼らに何と言われようが毎日たくさん肉を食べる。(動物肉の代わりに培養肉を食べるという選択肢もあるが、いまのところ培養肉はかなり高いし美味しくないらしいから動物肉を食べる。)
たしかに、いまの世の中の大量生産モデルには、いくつかの問題はあるだろう。アメリカのある場所では、生まれたての子豚を母親から引き離しその母親に次の子豚を産むように仕向けさせることで家畜の数を増やしていた。ある場所では、家畜に無理やり大量の飼料を食べさせ続けていることで、家畜たちを丸々太らせていた。かつてのアメリカなどでは、当たり前のようにそういうことがあったのは事実である。今日もどこかでそういう動物虐待は起こっているかもしれない。
しかし、動物を虐待することが"悪い"のと、動物肉を食べるのが"悪い"というのは別の話である。
しかも、歴史をふりかえると、人類にとって完全菜食生活は、むしろ"不自然"である。そういったこともつらつらと書いていく。
大昔、人類の食事は草や果実がメインだったそうだ。だが時をへるごとに、動物を狩って動物肉を食べたり、ほかの動物が食べ残した動物肉を食べたりするなど、人類も肉を食べるようになった。
それによって、何が起こったか?
まず、食事に費やす時間が大幅に減少した。動物肉を食べるほうが、草や果実を食べるよりもエネルギー摂取効率が高い。そのため、時間を大幅に節約することに成功した。そして、人類は空いた時間を他の活動に費やすようになった。
かつて、手洗いでするものだった洗濯が自動洗濯機の誕生によって"時短"できるようになり、空いた時間を他のことに回せるようになったのと似ている。だから、肉食をやめるというのは、洗濯物を"手洗い"する時代にもどるようなものだ。
(ちなみに、動物園のパンダはイメージの通りずっと草を食べていて、食事時間が1日14時間(?)らしいのだが、これもパンダが肉ではなく草を食べていることが関係している。草だとなかなか栄養が取れないのだ。)
また、さっきのエネルギー摂取効率の話とも繋がるのだが、肉食のほうが草食よりも腸の消化効率が良い。だから、人間は草食動物ほど長い腸をもっている必要がなくなった。
そして、人間は肉食動物と同じくらい腸が短くなったことで、余ったエネルギーを脳に回せるようになり、脳の発達に繋がったのである。
さらに、肉のほうが草や果実より栄養価が高いことからも、肉食は脳の発達を促していたと考えられている。人類の進化には、動物肉を食べることは欠かせなかったのだ。
(ちなみに、パンダは肉食動物並みに腸が短いにもかかわらず肉を食べないから、草を食べることに長時間費やさないといけないのだ。)
そんな感じで、人類は"肉食"によって進歩や進化を遂げたといっても過言ではない。しかも、発達した脳をもつ現代の人類が全く肉を食べないのは、かなり"不自然"であり、危険である。
そういった説明をしても、「人間の進歩や進化が地球環境や動物たちにとって悪影響を与えるならば、今までやっていたことを全てやめるべきだ」と主張し続けるのが、ヴィーガンだったり反啓蒙主義というものだそうだ。
彼らが言うには、問題解決には"忍耐"や"苦行"が必要で、あらゆる場面で我慢したり苦労したりしないといけないそうだ。そして、過去の生活に戻るべきだと。
だが、そんなことをして過去の生活に戻ったからといって解決するわけではない。ホモ・サピエンスは、アフリカで誕生して以来、いく先いく先の大陸でネアンデルタール人や大型動物を滅ぼし、生態系に大きな影響を与えてきた。人類誕生以来、生態系に与える影響が小さかった時代なんてない。
だから、過去の"野菜生活"に戻れば、人類は生態系に影響を与えなくなるというのは、"幻想"でしかない。
ぼくたち現生人類にとって本当に必要なのは、そういった"後退"ではなく、いままで蓄積してきた知見を活かして前に進むこと、すなわち"進歩"が必要なのである。
(家畜にも可能な限り"人権"に近いものを与えつつ恵みをいただくことが良い選択肢なのかもしれないし、美味しい培養肉が開発されて肉食の選択肢を増やすというのが有効なのかもしれない。正解はわからない。)
そして、人類は進歩し続けることができている。完全ではないものの、"疫病"、"戦争"、"食糧不足"といった課題を克服しつつある。そして、人類はつぎの課題に意識が向いていて、生活水準も道徳感覚も生態系への意識レベルも上がり続けている。成果も出ている。
多くの現代人が状況をネガティヴに捉えがちな原因は、ネガティヴニュースの方が視聴率やPVを取りやすく目立ちやすいうえに、そういったニュースのほうが記憶に残りやすいからだ。偏りなく実態を知るためには、数字から判断することが必要である。スティーブン・ピンカーさんの「21世紀の啓蒙」では、そういった数字をふまえて、世界の実態を知ることができる。
まだまだ解決しなければならないことはあるものの、今までやってきたことの全てを止めるというヴィーガニズムや反啓蒙主義には、ぼくは納得できない。(信仰する人はいてもいいと思うけど、「肉を食うな!」とか言ってこないでほしい。)
ぼくたちにとって本当に必要なのは、過去に戻って我慢や苦労をすることなんかではなく、1日1日つぎの未来をつくることである。世界は良い方向に向かっている。