ここにいる

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その言葉を初めて聞いたのは中学の時。

 

「あいつ、"しんしょう" かよ」

 

バスで同級生が話すのを聞き、暫くの間をおいて意味を理解した。身体障害者の略称だ。そして”あいつ”は身体障害者じゃない。”あいつ”を揶揄するために身体障害者の略称を使ったのだろう。

 

動揺した。

何かを言わないといけない。でもそれが何なのか分からない。悲しい、いや怒っているのか? うまく言語化できない自分への強い苛立ちを今でも覚えている。

 

そして自問した。

なぜ、私はこれ程までに強い感情を持つのか?

 

そして考える。

なぜ、私の同級生は何も感じないのか?

 

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しんしょう、がいし、アスペ、、、

その後もたびたび似たような言葉を聞いた。どうやら私の住む世界ではそれらの言葉は軽く、何の引っ掛かりもなく通り過ぎていく。何事もなかったかのように会話は続いていく。

その度に耳を疑い、そして言葉を飲み込む。

 

ここにある溝は何なのか。

 

 

一つには、私にとって障害を持つ方が比較的身近だったからだろう。

思えば、私の母は障害者学級の担任だった。叔母は障害者自立支援NGO代表だった。私自身は両親が忙しかったため夏休みは叔母に預けられ、さらに叔母はNGOで忙しかったため障害者向けキャンプに放り込まれた。

私以外の子どもが全員障害者だ。

今思えば不思議な体験だったけど、幼い頃から参加していたためか疑問に思うことはなかった。感銘をうけることもなく、将来設計に影響を及ぼすこともなかった。大好きな友達がいた。顔を見るのも嫌なやつもいた。それはただ夏休みの一コマだった。

 

 

もう一つの理由は、障害を持つ方の苦労を目の当たりにしてきたからだろう。

 

背が伸びない方がいた。

大人になってもずっと小学校低学年くらいの身長のまま。身近にいたのでそんなものなんだと思っていたけど、周りからは奇異に見えたらしい。

 

「電車に乗りたくない」

見知らぬ子供から「宇宙人」、「気持ち悪い」と指さし笑われ、大人達からは不躾な視線を容赦なく投げかけられる。同じように歩き、電車に乗り、学校に通う。同じ空間にいるはずなのに、彼女を取り巻く環境だけがあまりに厳しい。

彼女はそんな世界で生きていた。

 

 

軽度のアスペルガーと診断された方もいた。

日常生活をこなせるよう、幼い頃からカウンセリングを受け学校生活に溶け込んだ。ぱっと見ではわからないと思う。むしろよく笑う感じのいい人なんじゃないかな? 

でも、その裏には血のにじむような努力があった。

本人と家族の必死の取り組み。

やっとの思いでできるようになった事が、周囲の心無い一言で無残に切り裂かれるのを見た。

 

「みんなが出来ることが僕にはできないんだ」

まだ幼かった彼にこんな言葉を紡がせたものは何なのか?彼を悲しみに染めたのはいったい誰なのか? 

 

 

あなたであり、私なのだろう。

 

無邪気にキャンプへ行っていた頃には気が付かなかった。でも段々と理解する。社会人になり、東京に引っ越し、それなりの職に就いた。

 

私の住む世界から障害者が消えた。

 

確信する。

私はこの世界のマジョリティだ。女性ではあるけれど、それでも圧倒的なマジョリティなんだ。

 

そして納得する。

みんなは自分がマジョリティであることすら認識しない。だからマイノリティに気が向かない。気にもしないんだろう、その言葉の先にいる人々を。
 

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生まれ育った環境がどう自分の価値観に影響を与えたのか、正確には分からない。

けれど少なくとも私は人を揶揄する際に他の誰かをカテゴリーとして含み、そして傷つけるであろう言葉を選びたくない。

 

しんしょう、がいし、アスペ、、、

これらの言葉を聞いた時、思い浮かぶのは彼らの悲しみ、家族の憤りだ。

どうしてなんだ? どうしてそんな言葉を投げかけられるんだ? いや知っている。気にもしないんだろうってさっき言ったじゃないか。

それでも思う。人は思いやる生き物じゃないのか?自分以外の人の立場を考えられる生き物じゃなかったのか?

 

 

「過剰反応」だって?

「あなたに言ってるわけじゃない」って?

「京都人かよって言うのと何が違うの?」って?

 

単なる言葉のあやだってばーー。

私の知り合いの障害者は気にしないって言ってたよーー。

 

だから?

だからなんなんだ?

なぜあなたは寛容さを押し付けるんだ?

 

そんな風に捉えられる程にこの世界は穏やかだったのか? 怒りを、悲しみを、そのままぶつけられる程にこの世界は優しかったのか?

 

 

下品なんだよ。

 

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この文章を読むあなたが何を感じるのかは分からない。

 

実は投稿するか随分と迷った。多分、反応を見るのが怖かったからだ。けれどここに記すことにした。

1つだけ知っておいてほしいことがあるから。

 

あなたが何気なく発する言葉。

会話のスパイスとして消費される言葉。

その言葉の先に深く傷つく人がいることを、そしてそんな彼らを思い悲しむ私がここにいることを。

 

MALIS

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2020/01/14 86.86 ALIS 348.64 ALIS
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エネルギー政策専門のコンサルタントです。ニューヨークにいることが多いのでこちらの情報発信が多めになる予定。Twitter: @mari_saita
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