「次は小山内、停車時間が短いので降りる御準備をしてお待ちください」
「小山内なんて誰も降りないよ。乗って来る人も見たことない。どうして停まるんだろう」
「そんなことを言うんじゃないよ。これは各駅停車なんだよ」
「だから、停まる必要がないって言ってるのさ。要らない駅はなくしちゃえばいいんだ」
「ねえ、ちょっと聞いて、要らない駅なんてあると思う? どんな駅だってそれができたのには何か訳があるのよ」
「訳ってどういう?」
「それは分からないけど」
「どうせ適当に決めたのさ。この辺りがまんなかかなって感じでね。きっとそうだよ」
「駅ができたからにはそれなりの意味があるはずよ。そして、それを作った人の想いも込められているはず。それをないがしろにはできないわ」
「でもよく分からないな。この駅は僕が生まれる前からあったんだよ。その時には必要だったのかもしれないけど 今はもう要らなくなっているかもしれないじゃないか」
「それでもね。それでも停まる必要があるんじゃない。だって何年も何十年も止まり続けて来たんだよ。それが今日からもう停めませんっていうわけにはいかないよ」
「なんかそれ腑に落ちないな。生まれる前からすでに決まっているから変えられないなんて理屈に会わない。そんなことがこの世の中で許されていいものか」
「あら、この世界では大半が自分じゃ決められないことじゃない。私が女で、貴方が男なのだって勝手に決められたことでしょ。前もって希望を聞かれることなく、生まれた時にはすでに女だったのよ」
「それはそうだけどさ。なんか話が違わない?」
「おんなじよ。私たちの人生にはもうどうやったって変えられないことがだらけなの。それをいまさらじたばたしたってダメ。受け入れるしかないこともあるのよ」
「そもそもこんな駅があるからいけないんだ。いっそのこと爆弾でも仕掛けて壊してしまえばいいんだ」
「そんなこと、ダメよ。壊してしまえばその影響ですべての鉄道がおかしくなる。レールで繋がっている駅たちのバランスが崩れてバラバラになるかもしれないわ」
「こんな小さな駅一つで、すべてがマイナスになるとでも?」
「そうよ。その通り。一旦崩れたものをもとに戻すのはとても大変なんだから」