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廊下 #7 青白い光の粒子

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  • 2019/11/19 18:46
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その廊下の先には、

 

忘れる事も、

 

逃げる事も、

 

保留する事も出来ない、ひとつの避け切れない現実があった。

 

 

何が起きても大丈夫・・

 


当時の僕には、そんな高等な哲学は有るはずも無く

 

ただ、

有無を言わさず迫り来るその時に脅え、

そして目をそらしていたのかも知れない

 

 

そんな事が起こるはずがない・・

 

ただ、今でも、実感が残っている。

 

アリアリとして・・

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ある日の夕食

 

新婚。

 

子供なし。

 

とも稼ぎ。

 

夫婦ととは言え、お互い仕事で独身同士のような忙しい二人が、一緒に夕食を食べるのはかなり珍しい事だった。今は、経済力を安定させる為にも、お互い仕事に集中しよう・・はっきりそうしようと話した訳ではなかったが、いつの間にか、自然と、そんな風な、ライフスタイルになっていた。

 

久しぶりに、妻と食べる夕食。

 

彼女は本当に、ゆっくりと話す。

 

健康で元気な妻の姿を思い出すと、今でも不思議な感覚に襲われる。

 

 

「あんな~」妻

 

「コピー機が有る部屋に入ったらな・・」妻

 

「ん、なんて?コピー?」僕

 

「最近、いっつも、ちっさい女の子がおるねん」妻

 

「まじ、その子かわいいん?」僕

 

「でも、なんで、会社の事務室に女の子がおんねん?」僕

 

「おる訳ないやん!って・・そう思たら消えんねん・・」妻

 

「ほんで、かわいないし!」妻

 

「ふーん、え、なにそれ、あかんやつやん」僕

 

「それ、座敷わらしちゃうん(笑)」僕

 

「ほんまやのに・・・」妻

 

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

 

 

何が言いたっかった?

分からなかった。

伝わらなかった。

 

さじが、汁の味を知ることはない。

 

当時の僕には、そんな常識を逸脱した現実にピントを合わせるという事は、とうてい無理なお話だった。未熟な奴ほど、己を未熟だとは思っていない・・

 

よく考えると妻は、何度も、何度も、その話を僕に振っていた。

 

ただ、情けない事に・・

その時の僕は、妻の不安に何ひとつ気づいてあげることが出来なかった。

 

その数週間後、僕は、妻から某大病院の紹介状を渡される事になる。

 

封筒も開けず、その場に置いてくだらぬDVDを見ているアホな僕がいた。

 

僕の、アホさ加減に負けたのか、妻もいつの間にか一緒にDVDを見て笑っている。

 

今でも思い出す・・

 

その時の、えも言われぬ、幸福感。

 

ずっとこんな風に

一緒に笑っていたかっただけなのに・・

 

ただ、一点の闇だけが、

どうしても拭えない

 

そんな、気配を感じていた。

 

 

 

 

 

花を、摘むことに夢中になっている者を

 

死がさらって行く・・

 

 

すべてを終え、

ぼろぼろになった僕に、仏陀は、ここぞとつぶやく

 

僕は、瞬時に、その意味を理解する。

 

舌が、飲んだ汁の味をただちに知るように・・

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

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WakaMinamiさんの癒される人魚。驚きました。

 

青白い光の粒子

 

廊下の先の一番奥の個室。

 

そこは、死を待つ人の部屋。

 

ナースステーションから順番に、

 

奥に行けば行くほど・・

 

死に近い人がいる。

 

それが、癌病棟。

 

その時、妻は、一番奥、死に限りなく近い最後の部屋にいた。

 

毎日、毎日、痛みと戦う日々、

あるいは、もう、死にたかっただろう・・

 

でも、そんなこと口にした事は無い。

 

僕を目の前にしてそんなことは言えなかったと思う。

 

僕は、弱いから

 

すぐ泣くから・・

 

そこには、自立した立派な大人の男だと思っていたバカな僕がいた。

 

もう・・だめだ・・

 

もう妻は、モルヒネを投与されても、もはや効かなかった。

 

後は、量を増やしていくだけ・・

 

命の綱渡り。

 

見てるこっちのほうが、気が狂いそうだ。

 

もう、やめてくれ!

 

そんな時に、ソレは起った。

 

 

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■宿命を先送りに・・

 

 

いつの間にか周りの色が、精妙になる。

現実以上に現実的な世界。

 

部屋の匂いが一変する。

なぜか、花のような匂いが香ってくる・・

 

その時、妻の顔から苦痛が無くなり、

安堵した微笑にかわる。

 

 

手術のため

胸から下腹まで切ったばかりの体を・・

 

絶対に、絶対に

あり得ないことだが、体を起こしたまま、静止した。

 

それは、まるで、

見えない誰かに支えられているようだった。

 

 

驚いた僕は・・・・・

 

 

いや、驚かない。

知っていた?。

 

これは、僕が頼んだ事だと知っていたから。

 

やった。きたんだ!

 

 

 

 

妻の腹の上に青白い光が降りてゆく・・

 

その光は、点(粒)からはじまり、

 

泡のように膨らんでは、妻の病巣へと降りていった。

 

けっこうな時間、奇跡が目の前で数十回も、繰り返される。

 

 

知っている。

 

もし知らなかったら、仰天していただろうに・・

 

やっぱり、できたんだ。

 

 

現実の改変。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

マルチェイサン・・

 

マルチェイサン・・

 

それ誰やねん・・

 

数日前

一人きりの部屋で寝ていた僕は、この声で起される。

 

確かに、その男は僕をそう呼んだ。

ただ、僕は、そんな名前ではない。

 

 

この男の顔も、

話した事の詳しい内容も、もうあまり覚えていない・・

 

ただ、分かっているのは・・

 

妻と死別する事は、この生でこなすはずのカルマであり・・

 

僕の魂のバランスは、それで完全な中立になると言うこと・・

 

この、イベントに僕は、

どれだけの、覚悟で挑んでいるのかと言うこと・・

 

妻もまた、どれだけの覚悟で癌での死別に挑んだかと言うこと・・

 

ただし、僕と妻が二人とも了承すれば、

死別の現実を変える許可がおりるかも知れないということ・・

 

 

もちろん、その男に、病気を治して現実を変えてくれと即答した。

 

了承した。

とだけ言って、その男は去った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

Content image

 

現実の改変が、今、目の前で起こっている。

 

宙に浮くような妻の姿。

 

別次元から降りてくるような青い光・・

 

もしかしたら、その空間の時間は、本当に止まっていたのかも知れない。

 

30分を超えるくらい、光を浴びていたのにも関わらず、

看護婦さんや先生の気配をまったく感じられなかったのだ。

 

部屋の気配が戻り・・

あれほど、痛さで苦しんでいた妻が、目の前でやさしく笑っていた。

 

これが、本当に現実なのかどうかも分からない。

 

おそらく夢だ。

もうすぐ、目が覚めて、闇の現実が現れるんだ。

 

世の中、そんなにも甘くない・・

そうとしか考えられない、そうに決まっている・・

地球育ちの人間らしい僕がいた。

 

 

「明日な、退院するからな。まえ買ったブーツあるやろ・・」妻

 

「へ?」僕

 

「それとな、茶色のコートとな、セーターあるやろ・・」妻

 

「う、うん・・」僕

 

「治ったん?」僕

 

「うん、もう治ったから」妻

 

「信じれんけど、、さっきどうなってたん?」笑いながら僕

 

「信じなあかんやろ、良かったやんか」妻

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

至福のやりとりが続いた・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「8時や、もう面会時間終わりやな」僕

 

「いるもんメールするから、絶対あした持ってきてやー」妻

 

「今まで、いったいなんやってん」僕

 

 

「じゃな。安心したから帰るわ」僕

 

「ちゃんとメール見いや」妻

 

「はいはい」僕

 

「先生には自分で言うから、ついでにエレベータまで見送るわ」妻

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

確かに、僕を9階のエレベータまで送ってくれた。

 

ナースも先生も普通に対応してくれるのが不思議だったけど。

 

もう、疑いようはない。

 

レガシーGTBのボクサーエンジンに火を入れて、

うたぐり深い僕は、念のために9階の窓を見る。

 

 

笑顔で手を振る、妻がいた。

 

メールが届く。

 

当時の携帯電話には、退院する時の服装・などなど・・

詳しく書かれた文章が20年以上経った今でも残っている。

 

奇跡は、起きる。

現実の改変は、可能なんだ。

 

 

こどもの頃よく幽体離脱していたのを思い出しながら運転した。

突然、アノ陰陽師みたいな女の人が言った言葉の後半を思い出す。

 

「ありがとうございました。・・・・・・・・・・・・ね。」

「ありがとうございました。良い方に現実が変わるからね。」

 

色んな記憶が、蘇る。

現実は、柔らかいもんやな・・

 

ひとり運転して誰もいない部屋に帰る。

 

薄暗いはずの部屋の蛍光灯が眩しかった。

 

そこには、もう、希望しかなかった。

 

 

 

つづく・・

 

 

 

#6へ     #8へ

 

このような未熟な文章を最後までお読みいただきありがとうございました。

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