約束どおり20回で終わるよう、今回より、全体的に特に有料部分が長めになってます。
ALISが6円台で安定してくれば、一回8ALISを検討します。
これまでに会った覚えのない親戚にも随分会った。何人かの人とは名刺を交換した。その際、そばにいた友子さんとも名刺を交換した。友子さんの名刺の肩書きには「介護ボランティア」とあった。
通夜の夜が更けると、一人また一人と弔問者も少なくなった。最後に僕と弟、祖母、それに友子さんが残ることになった。母は祖母を会場に置いて帰ることで、一夜の安息を得たいのだった。そして、僕の妻と弟の妻は、それぞれ小さな子どもを連れてちゃんと眠りに帰ったほうがいい。それでこの奇妙な取り合わせになったのである。
友子さんは、通夜客の散らかした食器などをさっきからてきぱきと片付けている。
僕と弟は、焼香順や精進落しを食べる客の名簿をつくったりしている。その中で祖母がひとりでずっと話し続けていた。友子さんが時折り、「そうやねえ」などと返事をしている。その合間には隣の通夜会場に出ていって、線香の煙を絶やさないように取り替えもしている。今夜は母の代わりに友子さんが、父の女房役といった風情であった。
この調子でもう何年か続いたら、母の立場はこの女に乗っ取られていたのではなかったか。そう思わないでもなかった。だが、その危険性を完全に避けようとすれば、母は何もかも取り仕切るというストレスに耐えなければならなかったはずだ。とどのつまり、母の負担を軽減するには、僕と妻がもっと実家に寄り付く必要があったわけか……。
雑用が一段落つくと、四人はそれぞれの布団に横たわった。
「私が二時間置きに目覚ましで起きますから。線香を替えますから」と友子さんが言った。この女に何もかもをまかせていては駄目なのではないかと
いう考えも浮かんだ。が、いっそ甘えてしまえという気持ちも生じた。そう思わせる何かが、この女にはあった。
「どうもすみません」
僕と弟はそんな風に言って、瞼を閉じてしまった。
「おばあちゃん、どうしはったん?」という友子さんの声で、目が覚めた。
上半身を起こして見ると、祖母は自分の後頭部に手をかざしている。
「頭痛いの?」と友子さんが尋ねている。
「宗教ですねん」と僕は言う。
「宗教の手かざし療法をやってるだけですねん」
「あっ」と言って、友子さんは妙に納得してしまった。
僕が再び寝転んで目を閉じていると、祖母と友子さんが話しているのが聞こえてきた。
「わたし、何にも言うてもらわれしませんねん。どこ行くのでも、ちーっとも何にも言わんと黙ってまんねん」
母の悪口のようである。友子さんは適当に相槌を打ちながら聞いている。と、ある瞬間、祖母は「あんさんは、いい人でんなあ」と言うのだった。これには僕は苦笑してしまった。だが、事の成り行きをそれ以上追う気力もなく、また眠ってしまった。
物音に目を覚まして、上半身を起こす。友子さんの布団は空になっていた。また線香を替えに行ったのだろうか。
通夜会場の様子を見に行こうかとも思う。が、面倒なのでそのまま寝てしまう。
だが、気になっていたせいか、またすぐ目が覚めた。友子さんの布団はやはり空のままである。僕は起き上がると、弟と祖母の枕もとをそっとすり抜けて、畳部屋を降りるつっかけを履いた。
通夜会場の正面は豪華な花で彩られ、引き伸ばされた父の写真が笑っている。そのすぐ下に棺桶があり、女は父の棺桶の前に一人佇んでいた。
喪服の女の後ろ姿は、少しずんぐりとしていたがそれが故に却って艶があった。
脂肪がまだらに浮き出たような二の腕や、匂いたつようなうなじのあたりに色気を覚えた。
女は随分長い間、棺桶の前に佇んでいた。と、やがて女は手を伸ばし、遺体の顔のあたりの窓蓋をスライドした。そうすれば父の顔が剥き出しになるのである。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。女の上半身が大きく傾いた。そしてがばりと遺体に覆いかぶさった。遺体の唇に口付けしているのだ。ついに決定的な証拠をつかんだ。
僕は駆け寄って、後ろから女の肩に手をかけた。女はびくりとしたが、開き直ったのか振り返らず向こうを向いたままじっとしている。
「どういう関係やったんや」と僕は問いつめた。女は黙っている。
「ええ、どういう関係やったんや」と両手を肩にかけて揺さぶった。女のうなじが、ほんのりと紅潮している。
ふふふふふっと女は笑った。笑いながら顔だけ振り向いた。どぎつい赤のルージュがすこし溶けて流れていた。
僕は女の肩越しに父の棺桶を覗きこんだ。きゅっと結ばれた父の口元に赤のルージュが付着していた。
女は挑むような目で僕を見た。女のふてぶてしさにふいに残虐な気持ちが湧き立った。僕はくらくらする昂揚感へといっきに突き上げられていった。
僕は女の肩を撫でるようにして両手を下ろし、女の腰をつかまえた。歳の割に崩れていない体の線に沿って手を動かし、量感のある臀部を鷲づかみにした。そして喪服のスカートをたくしあげた。
喪服の下に女は何もつけていなかった。真っ白なお月様のようなお尻が柔らかに突き出していた。
このまま遺体に跨るつもりだったのかと考えた。無性に腹が立つと同時に、ひりつくような欲情を覚えた。僕はズボンのジッパーを下ろした。
「ええ、こういう関係やったんか」言いながら、自分のものをあてがっていった。
女のあの部分はぬるっと湿り気を帯びていた。
「こういう関係やったんか」熱く滾っているものの中に、のめりこんでいく。
「こうか、ええい、こうか!」言い募りながら腰を振ると、ついに女は「そうや! そうや!」と叫びながら、振り返った。心臓が凍りついた。