昨日は飲み過ぎて連載飛ばしてしまい、すみません。
(本日の小説本文)
シャワーも浴びずに、丸いベッドの上で獣のようにまさぐりあった。十分に濡れているのを確かめて僕が枕元のコンドームに手を伸ばすと、女がその腕に手をかけた。
「生理はあがっているから。大丈夫よ」
狭い入り口から侵入しさっそく腰を動かそうとすると、女の両手が僕の尻肉を後ろから押さえた。
「動かないで」
女の言うままにじっとしていると、女の内部のぬるぬると蠢く無数の虫がまとわりついてきた。蚯蚓のような長い虫や、イクラのような粒状の虫、また節のある幼虫のようなものが、縦横無尽に蠢きながらやがて僕自身をぴったりと隙間なく包み込んでいく。
この女は相手の男に合わせて自らの内部を流動させ、変型することができるのだ、そういう道具を持っているのだ。
そう気づいた瞬間、ひりつくような嫉妬が僕の胸を苛んだ。それはただ単に父への嫉妬というわけではなかった。この女の、すべてを愛する能力の範疇にある、あらゆる男への妬みだった。僕はこの女を自分だけのものにしたいという想いでぎりぎりと奥歯をかみ締めた。
女は僕の存在に合わせた内部の鋳型づくりを終えると、ゆっくりと両手を僕の尻肉から外した。
僕はすっかり敏感になった先端部を微かに抜き差しし始めた。
僕のその部分もまた一匹の大きな虫ではなく、無数の極微の虫の集合体になってしまったように感じられた。濡れそぼった無数の虫たちは互いに入り混じり、侵入しあい、どこまでが僕の側なのかどこからが女の側なのか、わからなくなった。
やがてその混沌は下腹部から腰のあたりまで広がっていき、下半身がソフトクリームのように溶けて消えてしまう。
目の前に紅潮した女のうなじと耳朶がある。その皮膚の表面は、透明な海底の砂地に映る波の影のように揺らめいていた。目を閉じてそこに舌を這わせた瞬間、二人の体の内部がさーっと液状化した。
合わさった二つの体をひとつに包む蛹の皮。その中で互いの体は完全に溶け合って流動している。ありとあらゆる色彩の絵の具が、水の中で溶け合い、渦を巻く。
色と色は混じりあうほどに濁るどころか彩度を増し、光を孕んで膨らむ。
膨張する体が、蛹の背中を音もなく割り始める。大きな一匹の蝶が生まれ出ようとしているのか。それとも無数の光る蝶たちが羽ばたき出ようとしているのか。
だが、下半身の先端が花火のようにドンと弾けるのが先だった。
何千年もの夢から醒めるように僕は惨めな肉体に戻り、女にしがみついて生き物としてのささやかな快楽を貪り痙攣していた。女も僕の背中に爪を立て、悪魔のようにハスキーな声を振り絞るようにして鳴いた。
バスで富士の五合目までやって来ると、すでに雲海の上にいた。うっすらと棚引く雲の下に遥かな下界が広がっていた。父の遺灰を富士山頂で撒く。やっとのことでこの案を母や弟たちに受け入れさせ、僕はこの地を訪れたのである。
富士なら遠くからでも見える。日本を代表するこの山全体が父の墓標になるのだと僕は母や弟に説明したのであった。