岸のない河 (全)

(詩)岸のない河

せまい入り口をはいっていくと

奥には

岸のない河がひろがっている

さざ波もなく 

流れる音もなく

ぼくもなく

あなたもなく

光さらさら

あふれかえる

 

 

岸のない河(1)

abhisheka様

こんにちは。

突然のお手紙申し訳ありません。

このことはかくかかかないかとても迷いました。

けどあの頃のことを含めてまたいろんなことをお話したいとおもい、本当のことをいうことにしました。

わたしがペンネームをつかってるので先生はきづいていないかもしれませんが私は、写真をみてあれ?と思ったのですが、アリスにええぞカルロスの記事があったのではっきりとわかりました。一条先生ですよね?

まさかこんなところでお会いできるとは思ってませんでした。

ゆうそらというなまえで

きづいてなかったとおもいますが、高校生三年生の時に担任をしてもらってた美紅です、覚えていますか?

先生にとってはクラスでてのかかる生徒だったかもしれませんが、一条先生のおかげで友達も少なかった私ですが、卒業までなんとか高校生活を送ることができました。

先生は覚えていますか?

私が一度不登校になりかけた時、先生が私に諦めず何度も電話してくれたこと。

何度も話をきいてくれたこと。

あのときの先生の支えがあったから私はいまここにいるんだとすら思えます。

先生とまたこうして会えて嬉しいです。またいろんなお話をきいてもらいたいな、とも思いお手紙をかいてみました。

アリスで車イスのこともかいておられたのでおからだを壊されたのかなと、心配してます。

もう梅雨に入り、雨でじめじめする日々ですが、ご健康に気をつけてお過ごしください。

先生もお忙しいとはおもいますが、

お返事いただけたら幸いです。

                                                                     美紅

 

岸のない河 (2)

美紅へ

お手紙読みました。
卒業生が覚えてくれて、手紙をくれるのは、とてもとても嬉しいです。
ありがとう。

美紅たちの学年のことはよく覚えてるよ。
僕が卒業させた最後の学年だから。
美紅たちが卒業してもう7年だね。

卒業式の日に皆がくれた想い出写真のコラージュと、寄せ書きは今でもダイニングキッチンに飾っています。

それは僕の宝物です。
それを眺めながら時々、あの頃のことを思い起こしていました。

はっきり言って美紅たちは「問題児」(それは今の学校に適応してないというだけで、僕の中では褒め言葉ですが)だっただけに、

その後、どんな風にやっているのか、
仕事とか恋愛とか、うまくいっているのか、時々コラージュの写真を眺めながら考えていました。
 


ところで、体のことを心配してくれてありがとう。

実は美紅たちが卒業した次の年、一巡りして、今度は一年生の担任をしていました。

その年度の終了間際の2月、心室細動という瀕死性不整脈で倒れました。

私立恵比寿中学というアイドルグループの松野莉奈って知っているかな?
あの子とほぼ同じ心臓発作です。

13分間、心肺停止して、昔だったら確実に死んじゃってました。

幸い、到着した救急車のAEDの電気ショックで、13分後に心拍だけは戻りました。

でも呼吸と意識は戻らなくて、そのまま病院に搬送されました。

その病院が、循環器系に強い病院だったのもよかったのです。

心拍が停止したときは、脳に酸素が行かなくて、どんどん脳細胞が死んでいくのが危ないんです。
脳細胞は一度死ぬと再生しないから。

病院のICUでは、脳の低温療法で、できるだけ脳細胞の破壊を防いでくれました。

それでも、医師は家族に
「このまま意識が回復せず亡くなる可能性が高いです」
「もし医療が順調にいっても、植物状態のままになる可能性が(次に)高いです」
と説明していたそうです。

それが10日後には意識が回復しました。

身体障碍が残ったものの、またこうして手紙を交わしあうことができるまでになったのは医者も驚く奇跡だったんです。
「宇宙の限りなき働き」に感謝してます。

退院してからは、暫く病休しました。
でも身体障碍が固定と診断されて、車椅子で仕事を続けることができず、退職しました。

首から下には特に身体障碍が見つからないのだけれど、脳の運動系の働きが破損していてすぐ転倒するんです。

好きだった山登りはもうできません。
富士山頂、倒れるまでに登っておいてよかったぁ♪

卒業後すぐ、僕がまだ心室細動を起こす前に、4人で遊園地に遊びに行ったことがあったよね。

あの時、美紅が「先生、メテオに乗ろう」と言ったよね。
あの、椅子に座ったまま垂直に落下するやつ。

僕はあれに乗ったことがなかった。
高いところは苦手だし、あれはジェットコースターより怖いよ。

でも美紅が、「私が隣の椅子に乗るから〜」と僕の腕を引っ張ったよね。

あの時、僕は、考えていた。
子どものときから何度も来たこの遊園地に今度来るのは、いつだろう。
孫がメテオに乗れる身長になった頃かもしれない。
その時僕はおじいさんで、もうメテオには乗れない可能性もあるな。

だから、二つずつ椅子が昇っていくメテオの、美紅の隣に乗ることにした。

椅子はぐんぐん上昇して行って、僕らは二人で空に突き刺さったようだった。

乗らないと言った二人が下で手を振っていたね。


真っ青な空は眩しくて、隣を見ると美紅がこっちを見て笑った。

僕はいつ落下するのかわからなくて、今か今かと思っていた。
カチャンと金属音がした。
その時美紅が「先生、行くで!」って言ったよね。

落下はすごく爽快だった。
美紅以外、どうせ誰にも聞こえないんだから、

僕は思いきり「わあああー」と叫んだ。

美紅、今、思えば、あれが僕がメテオに乗る最初で最後のチャンスだったんだ。
あの時は「また孫と来よう」と考えていた。
でもあれから半年もすると、僕は二度とあの乗り物に乗れない体になったんだ。

でも、驚かないでよ。
僕は旅を諦めていない。
若い時から世界放浪が大好きだったからね。

電動車椅子で北海道や沖縄に行き、自信を得たので、韓国にひとりで行った。
「この電動車椅子で? 日本から、ひとりで来たの?」って、韓国人もびっくりだったよ。

そして今年の二月に台湾に行った時のことは、ALISにもいっぱい記事をあげているよ。

 

もちろん、もう行けないところ、できないことはある。

学校の教員もやめるしかなかった。

 

でもね。

代わりにたっぷりの時間を与えられた。

それに、脳の破損を調べる心理テスト、知能テストでは、言葉の能力がまったく破損していなくて、

年齢平均が100だとすると、130だというんだよ。

僕はこの与えられたたっぷりの時間と、残された言葉の力は、宇宙からのギフトだと思っている。

 

だから、死ぬまでに、たくさんの物語や詩やエッセイを書いて、多くの人たちと分かち合いたいんだ。

 

だから、今は早い晩年だと思って、読み書きに専念しています。

 

とにかく、めげない性格なので、身体に障碍があっても、心は元気にやっています!

 

でも、若い君たちと一緒になって青春気分(笑)で過ごしていた頃の、卒業生の手紙は本当に嬉しいです。

 

本当にありがとうね。

 

また、お互いの「あれから」を報告したり「これから」を語り合ったりしようね。

                              一条賢治

 

岸のない河 (3)
 

一条先生、お返事ありがとうございます。

とても心のこもったお返事で

やっぱり私の知ってる一条先生だなと思いました。

こちらこそお忙しい中ありがとう。

もう七年もたつのですね。

そう思うと人生ってほんと

あっという間に感じます。

私たちが先生に

心をこめて贈ったコラージュ

今でも大切に飾ってくださっているんですね。

大切にしてくれてありがとうございます。

あれはみんなで色々知恵を絞りながら

本当に楽しい一年だったって伝えたくて作りました。

学校ではうるさいクラスと評判だったけど、

本当に楽しかったから。

私たちは、先生が担任として

他の教科の先生に苦情を言われないようにと心配して

そのためには授業中静かにしたりしていましたけどね。(笑)

そんな楽しい一年間のことを表現したコラージュ、

気に入ってもらえていて、私もとても嬉しいです。

私はとりあえずは元気でやっていますよ。

お話を聞いて私は先生のことの方こそ

心配です。

先生の心臓発作と

命をとりとめられたことを聞き、

奇跡ってほんとに起こるんだなと思いました。

だって13分間なんですよね?

それだけの間、息を止めていることを想像するだけでも

とても苦しいのに

心臓が止まっていたなんて。

先生はそのように

生きるか死ぬかの境を

乗り越えてこられたんですね。

そして今があるのですね。

その時に私が駆けつけられたならと、後悔の気持ちもあります。

知らせが届いていたら、何をおいてもお見舞いに行きたかった。

過去のことだから今さら言っても変えることはできないけど、

でも読んでいて、私はこんなことも知らずに過ごしていたのかと

勝手に涙が溢れました。

でもこうして一条先生と

また繋がれてわたしは

ふだんは特に信じているわけではない神様に感謝しました。

先生の命を救ってくれてありがとう。

奇跡を起こしてくれてありがとうって。

先生にはこれからも

ずっと健康で、長生きしてほしいと思っています。

先生のことを大切に思ってるひとはたくさんいると思うし。

遊園地のこと先生覚えててくれてたんですね。

メテオにのったときの先生の顔は今でも忘れられないです。

叫んでた先生をみて私実はこっそり笑ってました(笑)

先生あのときは強引に乗せちゃってごめんね?

でも後悔はしてないです。

先生の思い出になったのならほんとに良かったな。

って、お手紙を読んで思いました。

先生はいつでも前向きで

みんながこれは無理でしょっていうことでもできる!って信じる人だし

諦めないし、、そうゆうところもとても尊敬していました。

もちろん今もです。

だから先生の書く記事や

先生の言葉、考え方、

強い言葉を発している時にもにじみ出ている優しさ

そうゆうのを見て

私はほんとに高校生のとき一条先生に受け持ってもらって

ラッキーだったなって

今さらながら思います。

ここでの記事を読んでもいつも

あ、私の知ってる一条先生だ!って感じています。

だって、車椅子でしか外出できなくなったら

とにかくまずはひたすら落ち込む人が多いように思います。

いや、私が知らないだけで先生は色々な思いを乗り越えてこられたのかもしれません。

しかし、文章から感じられるのは、

自分の今を受け入れて、むしろそれをバネにして

前に進もうとする意志です。

車椅子でひとりで韓国に行かれたときの

「無数の見知らぬ手」というエッセイもとても感動しました。

なにげなく書かれていますが

その行動力はすごいと思います。

韓国の人たちもとても親切だったと思いますし、

それを引き出したのは先生の側でもあると思います。

素直に助けを求めたり

少しでも相手の言葉を覚えてコミュニケーションしようとするような

その態度が相手にも心を開かせることがよくあるのではないでしょうか。

外国人と先生の接している様子を文章で読むとよくそう感じます。

何にたいしてもすぐに

諦めないこと。

マイナスに見えることがあっても

そこから何かをつかんで前に進むこと。

それが私が先生から学んだことです。

一言では言えませんが

私も色々辛いことがありました。

知ったら、叱られてしまうようなこともあるかもしれません。

女性としての自分をもっと大事にしなければならなかったと

反省していることもあります。

ひどい目にも遭いました。

(今はまだ全部書く勇気はありません。)

先生、こんな私だけど

あれから離れていて色々な事情も知らずにいた分、

私たちの卒業後のこと、

もっともっと教えてください。

わたしも一条先生に伝えきれてないことや

お話ししたいこと、聞いてほしいことが

まだまだたくさんあります。

本当は言ってはいけないのかもしれない、心の奥の思いも。

お忙しいとは思いますが

もしよろしければ

お返事楽しみに待ってますね。                                                                                                                      美紅



岸のない河 (4)

美紅へ

あれから、
美紅に会うなら、
思い切り楽しいスペシャルな日にしたいなと思って、
色々考えていました。

そしたらちょうど、
友達のタヒチアンダンサーから、
パーティーの案内が来たんです。

ここらではちょっと有名な
花火大会の夜に合わせて
近くのライブハウスで
音楽とタヒチアンダンスの夕べを催す。

その途中で
花火大会が始まる八時になったら
皆で河川敷に出て
打ち上げ花火を見ようという企画です。

花火のあとライブハウスに戻って
宴は続きます。
ラストがタヒチアンダンスです。
彼女たちのダンスは、鍛えあげられていてとても美しいよ。

美紅も高校の時から
Kpopダンスのコピーとか
けっこう踊りこんでいたよね。
今でもダンスが好きなら
きっと勉強になると思います。


その花火の日のライブハウスの料理は
極上のステーキディナーです。
店長も知り合いだけどとてもおいしいよ。
各種ワインが揃っているから
店で一番いいワインのボトルをあけよう。
もちろん、全部奢るから、美紅は安心して食べて飲んでね。

ただ、アンコールとか続いて
終幕が少し遅くなるのが心配です。
うちは、タクシーでも帰れるんだけど
美紅が終電に間に合うかどうか。

うーん。
今、駅スパートを調べてみたら
なんとかなりそうですね。

もしよかったら、
一緒に行きましょう。

              一条賢治

友達のタヒチアンダンサー


 

 

岸のない河(5)

一条先生へ

お返事ありがとうございます。
最近おからだはどうですか?
そろそろ梅雨があけますね、
やっと青空が見られると思うとうきうきします。

パーティーのお誘い
とっても嬉しいです。
タヒチアンダンスは
見たことがないのでぜひ
見てみたいです。


 

先生私がダンスよく踊ってたの

覚えてくれてたんですね。
嬉しいな。

あの頃は未だK-POPのはやりはじめで
KARAや少女時代を踊っていたのが懐かしいな。
今もよく鏡を見て練習しているので
最近のTWICEとかの曲もたくさん踊れますよ。
機会があれば見てほしいな。

 

その上、花火も見られるなんて。
わたしは昔から花火が
大好きです。
なのでとても楽しみに思います。
ありがとうございます。
ぜひ、一条先生と空いっぱいに広がる花火が見たいです。

おいしいステーキにワイン。
とってもゴージャスですね。
 


でも、全部、奢ってもらうなんて、、、
まあそれはその時に一緒に
決めましょう。

 

楽しみで今からドキドキしてきます。

きっと一条先生との時間はあっというまにすぎるだろうな。

あと、駅スパートを調べていただきありがとうございます
そうですね、、、
帰りが確かに遅くなるかもしれませんが
 

わたしは終電がなくなってしまっても

平気です。
とても楽しみにしています。
当日はよろしくお願いします♡

                              美紅     

 

岸のない川(6)

 

一条先生へ

先生、この間のパーティーと花火、とても楽しかったです。
何から何までお世話になり本当にありがとうございました。


 

タヒチアンダンス、
はじめて間近で見ましたが
とっても魅力的ではじめから終わりまで
目が離せなかったです。


 

やっぱりダンスはいいですね。
またわたしも家で練習
しようかなと思いました。


 

でも、K-POPダンスとかとは

彼女たちは筋肉の鍛え方が全然違いますね。
全身から漂うエネルギーに

女である私も酔うような感じがしました。
特に教室主宰の由美さんはとても綺麗な方ですね。
なんだかその美しさに少し嫉妬してしまいました。

先生が由美さんとツーショットで記念撮影しているときも。

あの方は、車椅子の先生の傍らにしゃがみこんで

膝をついてまで背丈を合わせて、笑顔で寄り添って

とても気のつく、やさしくて輝いた方だなと思いました。


 

花火大会も規模が大きくて

豪華でしたね。
最後に連続で大輪の花火がばんばん上がって空を彩ったときは

圧巻でした。

先生はそれを見上げながら

「花火って

今ここで一瞬輝いて消えるからこそいいんだよ」

って意味深なことを言ってましたね。
その時私はこっそり
花火に照らし出される先生の横顔を見てました。

明るくなったり、暗くなったり、また照らし出されたり。

そうか、今この時も、一瞬で永遠なんだなって

なんだか私もそんなちょっと哲学みたいなこと

考えちゃった。

やさしく笑ったかと思うと、すぐ難しいことを言う先生のせいかも。
 


 


帰りに人混みに揉まれてはぐれそうになった時、
先生が電動車椅子を止めて
私に真横から肘掛けの上の手を握っているように

言ってくださったので、はぐれずにすみました。
電動だから押す必要はないけど

後ろから取っ手を持っているのでもはぐれないのに

どうして手を握っているように言ってくれたのかな。
でも、なんか嬉しかったです。
 


 

ステーキディナーも
肉汁がジューシーで口いっぱいにおいしさが広がるようでした。

こんな充実した日は
久しぶりで
一条先生には感謝、感謝です。


 

でもやっぱり、一条先生との楽しい時間は

あっという間に過ぎていくのが

楽しいようなせつないようなでした。
先生はどうでしたか?
 


 

あと、一条先生にどうしても聞きたかったことがあって、、、

先生はどうして私を
誘ってくれたのかなって。
先生は人脈もとても広い方だし、お友達とか知り合いの方とか多いはずなので

あの宴も誰と行くこともできたのでは?

私を誘ってくれたのは、なんでなのかなって。

それが気になります。
先生すみません。

こんな詮索するような質問して、、、
あ!特に深い意味は
ないですよ!
そこは気にしないでくださいね。
またお手紙のお返事で、教えてくれたら嬉しいです。

それと、最後、遅くなったのに駅まで送ってくれて
ありがとうございました。
先生も帰るの遅くなりましたよね。
ごめんなさい。
先生が計算した電車に乗せてくれたおかげで

無事家に帰りつきました。

でも、あのとき、

駅でちょっと駄々をこねるような態度を見せてしまって、
ごめんなさいでした。
せっかく送ってくださったのに

私不機嫌な顔をしてしまいまったように思います。

先生は気づいてたかな?
先生にとったら「なんで?」ってなりますよね。

実はあの時はちゃんと言えなかったんですけど、
私、ほんとはまだ帰りたくなかったんです。
なんていうか、、、
わがままかもしれませんが
久しぶりに一条先生と会えて、

それがとても嬉しくて。
時間もほんとにあっという間にすぎてしまって。
楽しい時間ってこんなにも
早く過ぎてしまうものなんだなって思うと

胸がしめつけられるような感じがして。


 

私、一人でいるときや、仕事してるとき、
日常生活で毎日たくさんの人と関わってます。
もちろんそれは先生も、みんな、同じだと思います。
でもその度に、人って冷たいなとか、思いやりがないなってそう思うことが多くて、、。

私自身ももちろん完璧ではないし
完璧な人間なんていないとは思います。


 

でも一条先生と1日過ごして、

険悪な日々とかを忘れてとても幸せな気持ちだったんです。
だから、あの時駅で、時間がこのまま止まってしまえばいいのになって
思ってました。


 

それと7年ぶりに会えたんだし、先生も名残惜しくしてくれる
かなって思ってましたけど、、、
本当は内心、名残惜しかった、とかなら嬉しいな。

先生、またわたしと会ってくれますか?


 

今度は水族館とか映画とか、

あと六甲か生駒の夜景を見に行きたいなあなんて思ってます。


 

ってこれってなんか
恋人どうしがするデートみたい
ですね。(笑)
それだと先生が困っちゃいますよね。(笑)
ごめんなさい。
ただのわたしの願望なので気にしないでください。

わたしは別に先生と恋人に間違えられても
困ることはないですけどね!

色々長くなってしまってごめんなさい。
いつも読んでくれて、忙しいのにお返事ありがとうございます。
いつも先生からの返事、楽しみにしています。

もう梅雨明けしたみたいで
これから暑くなってくるので、水分補給をしっかりして
おからだにお気をつけてお過ごしください。

 

では、また、お会いできますよう。
                
                                                      美紅

 

 

岸のない河  (7)

美紅へ

こないだは
一緒に特別な夕べを過ごせて僕も楽しかった。
美紅の浴衣姿、初めて見た。
ドキドキするほど、かわいかったよ。

僕の娘は二八歳になるけれど
妻と離婚してから娘には年に一回ぐらいしか会ってなくて
娘より三つ年下の美紅を僕はまるで娘のように思っているのかもしれません。
娘はグループ会社の広島県の統括にまで出世していて
レオパレスに一人暮らしして広島中を毎日車で回って各店の指導をしています。
出世が早い。
でもそのせいで周囲の男性は皆、娘の部下なんです。
僕にしてみれば自慢の娘なんだけど
男たちは自分の方が地位が低いのを気にするみたいで
彼氏ができても、男として部下でいるのが嫌で
転職してキャリアアップしようとして
まあこんな世の中だから
余計にキャリアが悪くなって
ごちゃごちゃして別れてしまったりしているみたいです。
いっそ早く本社勤務になれば周囲に上司がいる状態になるんだけど・・・。

話がずれました。
なぜ美紅を誘ったかだよね。
それは卒業してからのこと、ずっと気にしていた生徒のひとりだからだよ。

放課後の教室ではいつも、
うちの高校で強かったバレー部で大活躍している女の子たちが
教卓の周囲に集まってひとしきり僕と話していたよね。
その間、美紅たちの三人グループは
いつも教室の後ろの隅のそうじ用具入れの前あたりに居残って
時々ちらちらと教卓の方を見ていたよね。
そしてクラスでもリーダー的な位置にいた彼女たちがコートのシフトの時間になって
体育館に行ってしまってから
おもむろに教卓に近づいてきてよもやま話をした。
話が尽きずに、僕はよく放送で他の先生に呼び出された。
「一条先生。すぐに職員室にお戻りください」って。
さすがの僕も職員会議は忘れていなかったけど、学校にはいろいろな委員会とかあって
そういうの忘れて教室で過ごしているとすぐ呼び戻されてしまう。
よくないよね。
せっかく楽しく過ごしているのに。

美紅たちはクラスの中心的なグループの少し周辺にいるような感じで
でも小説を書いたりギターを弾いたりダンスをしたり
芸術的なメンバーだったね。
僕もどっちかというと中高時代、体育会系ではなくて
そっちだったから
美紅たちとの時間はとても楽しかった。
中でも美紅はなんていうか、ちょっと天然っていうか、
繊細なところと抜けているところが自然に入り交じっていて
純粋で危なっかしいというか
世の中に出て大丈夫かのかなあってすごく気になっちゃうようなところがあったよ。

だから卒業してからどんな風に過ごしているか時々ふと思い出してた。
バレー部のあの子たちはツイッターとかやってて、鍵アカにしているんだけど、近況なんかけっこう正直に書いてるよ。
上司やお客さんにセクハラまがいのことをされた話とかけっこうハラハラさせる。
そんなのを読んでいても、いやいや君たちより
もっともっと美紅が一番、危なっかしかったけど大丈夫かなあと思い出したりしてたんだよ。

だから、こないだ花火会場でキャバクラで働いてる話を聞いたとき
それ、美紅のキャラでは危なすぎるやん!って思った。
大丈夫かなあ。
男にだまされないかなあ。
いや、もう何回かだまされたんじゃないかなあ。
もう、ハラハラドキドキやん。

美紅。
僕は心臓発作の後遺症で正式に退職するまで、
教育公務員の信用失墜行為禁止義務というやつに
けっこう縛られていて
夜の街のことはあまりよく知らないというのが正直なところなんだ。
だけど、美紅のことめちゃ心配だし、
今度会うとしたら、水族館とか映画とかではなくて
美紅のお店に行ったらダメかな?
どんな風に働いているのか、知りたいよ。
もちろん元先生だということは店に隠して、レッツ視察。
美紅がドレスアップして働いている姿も見てみたいな。

ちょっと唐突かもしれないけど
海の底とか、スクリーンの中とか、どこか別世界を一緒に覗き込むんじゃなくて
美紅の普段の様子をもっと知りたいな。
恥ずかしい?
もし、よかったら今度は美紅のお店で会おう。
色々事情もあるかもしれないし、ダメならダメって言ってね。

お返事待ってます。

                一条賢治
 

 

岸のない河(8)

 

一条先生、こんにちは。


その後、お怪我の具合はどうですか?
道に引き倒されてしまって顎を地面に打ちつけられた時、頚椎を痛めたことが
MRIでわかったと知り、とても心配しています。

この間はわたしが働くお店に
来ていただいてありがとうございました。
一条先生が来てくれたおかげでいつもより
楽しく働くことができました。
ありがとうございます。

でもわたしのせいで
一条先生にけがを負わせてしまいました。
あのお客さんたちには、わたしもふだん困っています。
帰り道で先生と一緒の時、会ってしまったのは、本当に不運でした。
先生は自分の気が短いのがいけないとおっしゃってましたが、
わたしがああいう絡み方をされているのを見て、
烈火のごとく怒り出した先生の気持ちは、痛いほどわかります。
先生の怒りは当然なのに、複数で暴力を奮ったあの人たちのことを、わたしは許せません。
店長にも相談し、出入り禁止にしてもらいました。
またしばらくは必ず店のすぐ前からタクシーで自宅に帰るよう、厳命されました。

わたしが病院に同行したとき、検査を終えて戻ってこられた先生は、
たいしたことなかったから心配いらないよって笑顔で言ってくれましたね。
でも、わたしは悔やんでも 悔やみきれません。
一条先生の笑顔をみて
余計に気持ちがおさえられなくなりました。

わたしは一条先生にけがをおわせてしまった
自分を許せないです。
どれだけ一条先生が大丈夫だよといって
いただいてもその 気持ちは消えることはないです。

一条先生とはずっと仲良くしていきたいし
ずっと関わっていきたいなって思っています。

だけど今のわたしじゃ
また先生に負担をかけてしまうかもしれないし、
心配させてしまうと思うんです。

なのでわたしはよく考えて心に決めました。
一条先生とはもう会わないと。

少なくとも、わたしのなかで
わたし自身がもっと自立して
自信をもって一条先生の横に立てるくらいになるまでは。

勝手なこといってごめんなさい。
あと、けがをさせてしまって、本当に
本当にごめんなさい。



一条先生、もう手紙も書かないと、

もう会わないと決めたので 、

最後に
どうしても伝えておきたいことがあります。

わたしは、一条先生のこと、
本当に尊敬しています。
一条先生の優しさや優しさの中に思いやりがあって、
でも相手のことをちゃんと思ってくれてるからこそ
怒るところはしっかり怒ってくれて。

ずっと生徒のときから
先生のこと見てたのでわかります。
たまにみんなに平等に優しすぎて妬けちゃうときもあったけど、、、

でもわたしはそんな一条先生が
大好きです。

生徒のときからずっと
そう思っていました。

先生はきっとそう言っても
ありがとうっていつもの笑顔で笑ってくれるんだろうなって
思います。

でも、実は気づいてもらえていないことがひとつあります。
それはわたしは、もちろん先生として、
人として、一条先生のことが好きですが、

一人の男性として一条先生のことが
大好きだということです。

お返事はいりません。

だけど一条先生を
困らせるってわかっていても、この気持ちだけは
伝えておきたかったから。

今まで本当にありがとうございました。

これからも元気で頑張ってください。

わたしもがんばります。

一条先生のことは、絶対に忘れません。

 

 

岸のない河 (9)最終回

美紅へ

心のこもったお手紙ありがとう。
お手紙というか、今回のものは、はっきり「ラブレター」と受け止めました。
戸惑いがないと言えばウソになりますが
実は僕自身とても嬉しく思いました。

 

ここに詳しく書くつもりはないのですが、
妻とは人生で大事に思うものの優先順位の折り合いがつかなくて
10年ぐらい前に別居に踏み切り
6年ほど前に離婚が成立しました。
心室細動で倒れたのはその直後です。

僕の子どもたちは30歳の息子も27歳の娘も
就職して遠方で暮らしています。
息子の方は結婚もしています。

僕は以前の手紙(「岸のない河(2)」)に書いたように
心室細動の後遺症で転倒しやすいため
教員を退職して、今は物を書いたり、本を読んだりしながら「早い晩年」を過ごしています。

そんな「おじいさん」のことを、美紅のような若くてかわいい女性が
「男性として好きです」と言ってくれること自体、ひとつの奇跡のようなものです。
何度も読み返しては、熱いエネルギーのようなものが、お腹から喉元に駆け上ってくるのを感じました。

美紅。
僕は美紅の気持ちにまったく気づいていなかったわけではありません。
花火とタヒチアンダンスショーに行ったときも(「岸のない河(6)」)、
こないだ美紅の働くお店に行ったときも(「岸のない河(8)」)、
ちょっとした発言や仕草に時折り、ドキっとすることがあって、
あれ? もしかして? と思いました。

いや、もっと正直に言いましょう。
それよりも何よりも、実は今回手紙をもらった初めから(「岸のない河(1)」)
美紅の気持ちに気づいていたというべきかもしれません。

なぜなら、美紅はその手紙に、わざわざ「岸のない河」という標題をつけて送ってくれたからです。
僕がALISに発表した詩「岸のない河」からとったことはもちろんすぐわかりました。
以前にその詩にもコメントをくれていたし、
美紅が、あの詩は全部、愛の比喩、もっとあからさまに言うならば男女の睦び合いの比喩であることに気がついていないはずはないと思ったからです。
 

せまい入り口をはいっていくと

奥には

岸のない河がひろがっている

さざ波もなく

流れる音もなく

ぼくもなく

あなたもなく

光さらさら

あふれかえる

国語が一番得意だった美紅は、
この詩から、男女の睦び合いで、時間も空間も消えてしまうような世界
を読み取っていただろうし、
それ以上にもっと色々なものを読み取っていただろうと思います。

人の世には無数の境界線や堤防があって
僕らは自分で決めたのではないシステムに沿って両岸の堤防の間を定められた道筋で流れていきます。

学校というものはその最たるもので、細かい水路が無数に定められています。
そこにこっそり風穴を空けて、子どもと一緒に遊ぶのが、教員時代、僕は大好きでした。
僕がこっそり風穴を空けると、他の先生はあまり気がつかないけど
子どもたちは敏感に気がついて、目配せして笑うのです。
その瞬間が、教員としての僕の一番幸せな瞬間でした。


神智学協会のアニー・ベサントによって
宗教的指導者としての英才教育を受けたクリシュナムルティという神秘家がいます。
彼は「東方の星教団」という宗教団体の代表として救世主として讃えられます。
が、後に自らその立ち位置を否定して「東方の星教団」を解散してしまいます。
その際に彼が語った言葉

「真理は道なき大地だ」

という言葉が、僕は大好きです。

「岸のない河」という詩的イメージも、そのクリシュナムルティの言葉に、刺激を受けて生まれたものです。

束の間生きて死んでいくこの世に、いったいどんな岸が必要でしょう。
宇宙のエネルギーとも愛とも呼べる洪水は、どんな岸も押し流して氾濫し、
世界をびちょびちょにします。

美紅。
先生と生徒という定義もひとつの堤防なら
男と女の恋愛という定義も実は別の堤防に過ぎないって
僕は考えています。

そんなこと定義される必要もなければ、
自ら決めてしまう必要もないと思っています。

真理は道なき大地だ。

愛は岸のない河だ。

だから何も決める必要はないよ。
ただあるがままに今ここを大切にしていれば、
限りなき働きのままにそのまた次の今ここが花開き
花開き
花開きつづけるでしょう。

一緒に見たあの花火のようにそれは一瞬の火花だけど
次から次へと際限もなく、打ち上げられ、
空のすべてを覆い尽くすでしょう。

だから、今回のけがのことで、自分を責めないで。
そして、先生と生徒だとか、男と女だとか、
だからこれでいいとか、ダメだとか、何も定義しないで。

全部の岸をぶちこわそう。
そうでないと、せっかく美紅がこの手紙のやりとりに最初につけてくれた
「岸のない河」という言葉が活かされないまま
しなびてしまうよ。

美紅。
僕からの返事、そしてお願いはひとつです。
一緒に岸のない河に飛び込もう。
あとはあふれかえる水の流れが行き先を教えてくれる。
僕はそう信じています。

美紅。
僕たちは今、終わりを迎えるんじゃなくて、
今、始まったんだよ。
終わらない歌を歌い始めたんだよ。
これからも、どうぞ、よろしくね。

 

(書簡体小説『岸のない河』完)

(次回よりこの小説の舞台裏「メイキング」について二人で対談します。)



 




 

 

 

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2019/09/29 27.46 ALIS 4.47 ALIS
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  • あび(abhisheka)
  • @abhisheka
10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka
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