他カテゴリ

映画「カンタティモール」上映会感想

あび(abhisheka)'s icon'
  • あび(abhisheka)
  • 2020/01/05 12:18

2013年 FACEBOOK


 「カンタティモール」。

 総じて言って、いい映画だった。

 だが、あれだけの悲惨な現実を描きながら、後から思うと何か夢でも見たような感じが残るのが気になった。

 現実と出会ったというより、夢を見たという感覚が残るのはなぜなのか。


 そのことをずっと考えていると、作品としてのポジティブさが、底まで行ってのそこからのポジティブさではなく、あるいは命の底が抜けてしまってのポジティブさではなく、どこか観念的なポジティブさと繋がっているという思いが涌いてきた。

 何かグラウンディングしない感じが残るのだ。


 それはティモールの人たちがそうだと言うのではなく、この映画の描き方によってそうなっているという気がしてきた。


 具体的な場面で言うと、最後の方の、シャーマンに会いに行ってシャーマンのご託宣みたいなものをもらうシーン。

 あのシーンは質問も答も、とても観念的に感じた。

 言ってしまえば、ニューエイジ的うさんくささがあった。あのシーンは必要だろうか。

 市井の人々の生の声と歌と踊りだけで終わってはいけなかったか。


 その点、初代大統領となった独立運動のリーダー、シャナナのインタビューはまあまあよかった。

 彼はそつなく話せる人で、きちんと自分の立場からの仕事を果たす話し方をしていたと思う。

 たとえば大地の不思議な力の働きについて聞かれたとき、いつもとは限らないが働くときには働くと答えた時に、ニューエイジ的うさんくささは感じなかった。

 至極まっとうなことを言ったという感じた。ふわふわした感じがなかった。


 ふわふわした感じといえば、上映会のあとの交流会で、来ている人たちのエネルギーを感じていると、なんだかとてもふわふわしている感じがした。

 グラウンディングしていない。

 今ここにいるのではなく、ポジティブな観念の中にいるような人が多い感じがした。


 そのような人と話していると、今ここで何をどう感じているかを話すのではなく、自分のスピリチュアルな活動について話し出す。

 そして僕にも、僕のそういうスピリチュアルな背景、来歴や活動を聞きたがる。だが、僕は聞かれたら話すけど、どちらかというと、その話はめんどくさいのである。


 だが、参加者たちは総じて言って、前向きでいい人たちなのだ。

 この人たちなりと頼りにしないと、脱原発だって、反戦平和だって立ちゆかないよ。

 だけど、僕はこの人たちは、今ここにいるのではなく、ポジティブな観念の中に棲んでいる人たちだと思った。

 だから、上映会を行うことも参加することもそのポジティブな観念を生きる活動の一環なのだと感じた。

 そして、そのことと映画作品そのものに対する印象が符合してきた。


 他の上映会にどんな人たちが来ていたのかは知らないけど。

 僕はこの映画は、かなりよくできているにしても、微妙に「ポジティブな観念」が過剰だと感じた。

 そのひとつの証左が、映画の最後にシャーマンのご託宣を持ってきた点に現れているように思う。

 だが、考えてみれば映画監督は25歳の女性である。

 25歳にしては、上出来だというしかないだろう。20代などというのは観念の生き物の時代であって当然である。


 シャーマンに会いに行く道すがら会ったおじさんと話しているとき、そのおじさんが監督に「あんたは何歳か?」と聞く。

 監督が25歳だと答えると、おじさんはしばらく黙っている。

 そして何を言うのかなと思ったらおもむろに口を開き「子どもじゃな」と言った。

 ここは巧まずしておもしろかった。


 とにかくこの映画はポジティブな観念がやや過剰であるがゆえに、ポジティブな観念に生きる人たちを惹きつける力がまずまず強い。

 これは上映会用の映画としては、成功の道の上にあると思う。

 なぜなら上映会というのは、強い政治的信念のようなもので広がるか、自己啓発セミナー乗りのポジティブな観念の連鎖を引き起こして広がるか、そのふたつが広がりへの近道だからだ。


 映画の中、出てきた数々の歌、子どもたちの表情や動き、教会の中での歌や踊り、田んぼでの牛追いの歌、市井の人々の台詞は、とてもよかった。

 だが、あの村は自然に抱かれているというよりも、中途半端な開発の傷跡の中にあるように見えた。

 たとえば川が護岸工事されてしまっているのも、なんだか痛々しさを感じた。


 そして、どこがどうと指摘するのは難しいけど、東ティモールの人々を微妙に美化している気がした。

 問題の複雑な諸相についての疑問が多く残ったが、それは自分で調べることにしよう。

 映画としては、美しく観念でくるんでしまっている気がするが、それでも伝えなければいけなかったことを伝える媒体となったことはよいことだったと思う。


 いや、本当にそうだろうか? 

 確かに何も知らないよりは伝わった。

 だが、僕は東ティモールの人が経験した悲惨さの核心部分は、伝わらなかったような気がしないでもない。

 そこを自分の想像で補う必要があり、映画のトーンを越えて、グラウンディングする必要がある気がする。

Content image
Article tip 0人がサポートしています
獲得ALIS: Article like 25.22 ALIS Article tip 0.00 ALIS
あび(abhisheka)'s icon'
  • あび(abhisheka)
  • @abhisheka
10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

投稿者の人気記事
コメントする
コメントする
こちらもおすすめ!
Eye catch
トラベル

梅雨の京都八瀬・瑠璃光院はしっとり濃い新緑の世界

Like token Tip token
213.49 ALIS
Eye catch
クリプト

Bitcoinの価値の源泉は、PoWによる電気代ではなくて"競争原理"だった。

Like token Tip token
159.32 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

警察官が一人で戦ったらどのくらいの強さなの?『柔道編』 【元警察官が本音で回答】

Like token Tip token
114.82 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

テレビ番組で登録商標が「言えない」のか考察してみる

Like token Tip token
26.20 ALIS
Eye catch
トラベル

無料案内所という職業

Like token Tip token
84.20 ALIS
Eye catch
トラベル

わら人形を釘で打ち呪う 丑の刻参りは今も存在するのか? 京都最恐の貴船神社奥宮を調べた

Like token Tip token
484.35 ALIS
Eye catch
クリプト

約2年間ブロックチェ-ンゲームをして

Like token Tip token
61.20 ALIS
Eye catch
グルメ

バターをつくってみた

Like token Tip token
124.75 ALIS
Eye catch
ゲーム

【初心者向け】Splinterlandsの遊び方【BCG】

Like token Tip token
6.32 ALIS
Eye catch
他カテゴリ

京都のきーひん、神戸のこーへん

Like token Tip token
12.10 ALIS
Eye catch
クリプト

ジョークコインとして出発したDogecoin(ドージコイン)の誕生から現在まで。注目される非証券性🐶

Like token Tip token
38.31 ALIS
Eye catch
クリプト

NFT解体新書・デジタルデータをNFTで販売するときのすべて【実証実験・共有レポート】

Like token Tip token
120.79 ALIS