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魂の螺旋ダンス(25)日本における絶対性宗教

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  • あび(abhisheka)
  • 2020/01/17 08:23

・ 日本における絶対性宗教

次に日本についての考察に戻ろう。

前章までで私は部族シャーマニズムから国家宗教としての神道と国家仏教へ、そして鎌倉仏教における超越性宗教の誕生までを考察してきた。


だが、その後の歴史を見るとき、日本製の超越性宗教も「絶対化」という堕落の道を免れることはできなかったが観察される。


戦乱と混沌の中世に産声をあげた日本の超越性宗教は、その後封建的社会の安定と共に、再び国家体制の中に組み込まれていく。

仏教各派は再び国家宗教化し、支配と抑圧の道具に転化していった。


江戸時代の長い安定期を通じて、仏教は檀家制度という形で、宗教というよりもむしろ政治的支配機構の末端の役割を担ってきた。

天下統一までの過程において、数多くの一揆の精神的支柱となってきた浄土真宗ですらその例外とはなりえなかった。


ところで、超越性宗教は絶対性宗教と化していく過程で、部族シャーマニズムをある種劣ったものと見る側面を強化させていくという性質を持っている。

唯一の超越性原理を固定的なものとして強調すればするほど、シャーマニズム的なものを一息に垂直に越えていこうとする運動が働くのである。


日本仏教においてシャーマニズム批判が徹底していたのは、浄土真宗であった。

皮肉なことにその超越的性格の強さ故に浄土真宗は、侵略的な絶対性宗教としてもその先兵としての性格を表すこととなる。浄土真宗はまた天皇家との婚姻を通じて国家と一体化していった。


ちなみにキリスト教においては、カトリシズムよりもプロテスタンティズムにシャーマニズム弾圧の傾向が強かった。

そのため、カトリックが中南米などで、土着のシャーマニズムとの間で様々な習合を遂げていったのに対して、北米に入ったプロテスタントは、アメリカ先住民のシャーマニズムとけっして融合する事はなかったのである。

ただし、この事はカトリシズムが非侵略的であったことを意味するわけではない。

中南米で行われた残虐の限りを思い起こすとき、宗教の習合といったものは、平和裡に進行するものではないという事実が、胸に突き刺さる。


私の考えでは、日本における浄土真宗は、世界におけるキリスト教(殊にプロテスタント)の相似形となっている。

思想上の相似性だけではなく、その侵略性においても、浄土真宗はキリスト教(プロテスタント)と同じ象りを見せる。

キリスト教(プロテスタント)は、世界各地のシャーマニズムを劣ったものと見て、侵略の思想的尖兵となっていった。

同じように浄土真宗は、アイヌ民族の精神文化を劣ったものと見て、ヤマトによるアイヌ侵略の思想的尖兵となっていったのである。


日本の絶対性宗教の侵略的性格が、明瞭な形で浮き彫りになりはじめるのは、なんといっても近代以降である。

なぜなら近代になって初めて日本は、国家という枠を越えて周辺の異民族を吸収していく帝国であろうとする運動を急激に強めたからである。


それは欧米列強の圧力という差し迫った事態における運動であった。

だが、日本には必要に迫られればすぐにでも「絶対性の国家」としての自らを確固たるもとし、外部に向かって拡大していこうとするだけの思想的(経済的・文化的)な下準備が整っていたと見るべきであろう。


近代以降の日本の思想的歩みについては考察しなければならないことが多い。

国家による思想統制とそれに抗する宗教運動や民主主義運動、そして弾圧の諸相・・・。

だが、結果的には数少ない例外を残して多くの思想運動が、侵略戦争を支える働きを担った。


このことからわかるのは、日本で培われてきた思想にはある程度の超越性を有しているものもあったが、その殆どすべてが天皇制の「作られた求心力」を振り切る力は有していなかったということだ。


たとえば日本を代表する哲学者である西田幾多郎の例を見てみよう。

西田幾多郎は自らの禅体験から世界に通じる哲学を作り上げた。

「即非の論理」「絶対矛盾の自己同一」などの思想は超越性と多様性をもろともに成り立たせる優れた哲学的概念である。

だが西田が「我国の歴史に於いて皇室は何処までも無の有であった、矛盾的自己同一であった」とし皇国史観を正統化してみせたとき、禅思想の超越性は絶対性へとみごとな変換を遂げた。


私の考えでは真宗や禅などの超越性が天皇主義と結びついたときにこそ初めて、天皇主義は民族国家主義を越えて、人類普遍の原理としての絶対性を帯びた。

高く超越したものが絶対化されたときにこそ、これは世界を統一する原理(八紘一宇の原理)であるという主張が生まれるのだ。


その意味では神道は実は思想的に力不足であった。

神道は部族シャーマニズム神話が拡大された国家宗教として民族国家を支える理念としてはその役割を果たすことができたが、そのままでは世界宗教となることは不可能だった。

近代日本の国家主義が国家の内側だけに留まらず、世界へ向けて膨張していこうとしたことの背景には、真宗や禅などの超越性宗教が国家や皇室の絶対化に寄与した働きがあるのだ。


そこでここで私は浄土真宗の例をさらに考察してみたい。

日本の超越性宗教の典型として前章で私は親鸞思想の例を引いてきた。

だからこそ親鸞思想の命脈である浄土真宗が、どのように絶対性宗教と化し侵略的性質を帯びていったのかの追求は、本書を流れる一本の筋となるはずである。

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10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka

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