岸のない河 (9) 最終回 告白を受けた先生の返事

 

岸のない河 手紙(1) 美紅より

 

岸のない河 手紙 (2) 一条より


岸のない河 手紙 (3) 美紅より

 

岸のない河    手紙        (4)        一条より

 

岸のない河 手紙  (5) 美紅より

 

岸のない河 手紙 (6) 美紅より

 

岸のない河 手紙 (7)  一条より


岸のない川 手紙(8)  美紅より

 


美紅へ

心のこもったお手紙ありがとう。
お手紙というか、今回のものは、はっきり「ラブレター」と受け止めました。
戸惑いがないと言えばウソになりますが
実は僕自身とても嬉しく思いました。

 

ここに詳しく書くつもりはないのですが、
妻とは人生で大事に思うものの優先順位の折り合いがつかなくて
10年ぐらい前に別居に踏み切り
6年ほど前に離婚が成立しました。
心室細動で倒れたのはその直後です。

僕の子どもたちは30歳の息子も27歳の娘も
就職して遠方で暮らしています。
息子の方は結婚もしています。

僕は以前の手紙(「岸のない河(2)」)に書いたように
心室細動の後遺症で転倒しやすいため
教員を退職して、今は物を書いたり、本を読んだりしながら「早い晩年」を過ごしています。

そんな「おじいさん」のことを、美紅のような若くてかわいい女性が
「男性として好きです」と言ってくれること自体、ひとつの奇跡のようなものです。
何度も読み返しては、熱いエネルギーのようなものが、お腹から喉元に駆け上ってくるのを感じました。

美紅。
僕は美紅の気持ちにまったく気づいていなかったわけではありません。
花火とタヒチアンダンスショーに行ったときも(「岸のない河(6)」)、
こないだ美紅の働くお店に行ったときも(「岸のない河(8)」)、
ちょっとした発言や仕草に時折り、ドキっとすることがあって、
あれ? もしかして? と思いました。

いや、もっと正直に言いましょう。
それよりも何よりも、実は今回手紙をもらった初めから(「岸のない河(1)」)
美紅の気持ちに気づいていたというべきかもしれません。

なぜなら、美紅はその手紙に、わざわざ「岸のない河」という標題をつけて送ってくれたからです。
僕がALISに発表した詩「岸のない河」からとったことはもちろんすぐわかりました。
以前にその詩にもコメントをくれていたし、
美紅が、あの詩は全部、愛の比喩、もっとあからさまに言うならば男女の睦び合いの比喩であることに気がついていないはずはないと思ったからです。
 

せまい入り口をはいっていくと

奥には

岸のない河がひろがっている

さざ波もなく

流れる音もなく

ぼくもなく

あなたもなく

光さらさら

あふれかえる

国語が一番得意だった美紅は、
この詩から、男女の睦び合いで、時間も空間も消えてしまうような世界
を読み取っていただろうし、
それ以上にもっと色々なものを読み取っていただろうと思います。

人の世には無数の境界線や堤防があって
僕らは自分で決めたのではないシステムに沿って両岸の堤防の間を定められた道筋で流れていきます。

学校というものはその最たるもので、細かい水路が無数に定められています。
そこにこっそり風穴を空けて、子どもと一緒に遊ぶのが、教員時代、僕は大好きでした。
僕がこっそり風穴を空けると、他の先生はあまり気がつかないけど
子どもたちは敏感に気がついて、目配せして笑うのです。
その瞬間が、教員としての僕の一番幸せな瞬間でした。


神智学協会のアニー・ベサントによって
宗教的指導者としての英才教育を受けたクリシュナムルティという神秘家がいます。
彼は「東方の星教団」という宗教団体の代表として救世主として讃えられます。
が、後に自らその立ち位置を否定して「東方の星教団」を解散してしまいます。
その際に彼が語った言葉

「真理は道なき大地だ」

という言葉が、僕は大好きです。

「岸のない河」という詩的イメージも、そのクリシュナムルティの言葉に、刺激を受けて生まれたものです。

束の間生きて死んでいくこの世に、いったいどんな岸が必要でしょう。
宇宙のエネルギーとも愛とも呼べる洪水は、どんな岸も押し流して氾濫し、
世界をびちょびちょにします。

美紅。
先生と生徒という定義もひとつの堤防なら
男と女の恋愛という定義も実は別の堤防に過ぎないって
僕は考えています。

そんなこと定義される必要もなければ、
自ら決めてしまう必要もないと思っています。

真理は道なき大地だ。

愛は岸のない河だ。

だから何も決める必要はないよ。
ただあるがままに今ここを大切にしていれば、
限りなき働きのままにそのまた次の今ここが花開き
花開き
花開きつづけるでしょう。

一緒に見たあの花火のようにそれは一瞬の火花だけど
次から次へと際限もなく、打ち上げられ、
空のすべてを覆い尽くすでしょう。

だから、今回のけがのことで、自分を責めないで。
そして、先生と生徒だとか、男と女だとか、
だからこれでいいとか、ダメだとか、何も定義しないで。

全部の岸をぶちこわそう。
そうでないと、せっかく美紅がこの手紙のやりとりに最初につけてくれた
「岸のない河」という言葉が活かされないまま
しなびてしまうよ。

美紅。
僕からの返事、そしてお願いはひとつです。
一緒に岸のない河に飛び込もう。
あとはあふれかえる水の流れが行き先を教えてくれる。
僕はそう信じています。

美紅。
僕たちは今、終わりを迎えるんじゃなくて、
今、始まったんだよ。
終わらない歌を歌い始めたんだよ。
これからも、どうぞ、よろしくね。

 

(書簡体小説『岸のない河』完)

(次回よりこの小説の舞台裏「メイキング」について二人で対談します。)



 




 

 

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2019/09/12 39.73 ALIS 36.30 ALIS
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  • @abhisheka
10代より世界放浪。様々なグルと瞑想体験を重ねる。53歳で臨死体験。31年の教員生活を経て現在は専業作家。https://note.mu/abhisheka
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