どうもこんばんは。
新米心理カウンセラー・あぶです。
先日の記事では、「ALISディスろうぜグランプリ」に便乗して、マーケティング目線で、普段気になっていることを3つ書きました。
その中で、経営学者のクレイトン・クリステンセン氏らが著した『ジョブ理論』について軽く触れました。クリステンセン氏は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) の教授で、イノベーション研究における第一人者です。
今日の記事では、イノベーションを生み出す上で参考になる、この「ジョブ理論」の要点をご紹介しようと思います。
いつもより長いので、あまり興味のない方は、最後の「ミルクシェイクのジレンマ」だけでも読んでもらえると嬉しいです。
ジョブ理論
この理論が目指すのは、顧客が進歩を求めて苦労している点は何かを理解し、彼らの抱えるジョブ(求める進歩)を片づける解決策と、それに付随する体験を構築することである。
なるべく噛み砕いて、解説していきます。
まず、イノベーションを生み出すために必要なことは、「顧客が片づけたい“用事・仕事(ジョブ)”は何か」を見極めることです。
一般的なマーケティング担当者は、市場を開拓する際、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)を考慮するかと思います。すなわち、製品の種類や価格、顧客の属性(性別や年齢)などによって市場を細分化し、ターゲットを定め、自分たちのポジションを明確にしていくことが多いです。
ただ、これだと製品にどのような特長や機能を付加し、どのようにポジショニングすれば売れるようになるか、やってみないとわかりません。
そこでクリステンセン氏は、マーケティングで狙い通りの成果を上げるために、顧客がものを購入する「状況」を理解することが重要だといいます。
具体的に言えば、顧客の生活には様々な「用事(ジョブ)」が発生します。例えば、新しい知識を得たい、空き時間を埋めたい、といったことです。
顧客はその用事を片づけるために「雇える」製品やサービスがないかと探す。そして、その用事をできるだけ効果的に、手軽に、安くこなせる物を雇おうとする、というのです。
つまり、顧客が製品を購入するのは、顧客が片づけなければならない用事や、その用事を通じて達成しようとしている状況の時、ということです。
そこで、マーケティング担当者は、「顧客は特定の“用事”を片づけるために、製品を“雇う”」という考えに基づいて、市場を分類する。この手法を用いれば、顧客が現実に生活を送る様子を正確に映し出すような形で、市場を細分化することができるようになります。
成功する企業は、製品のターゲットを「顧客」そのものではなく、顧客が置かれている「状況」に絞る。カギは顧客ではなく状況なのだと、クリステンセン氏は主張します。
とはいえ、ジョブを見極め、本質を理解することは非常に難しいことです。顧客のジョブを理解できたと思っても、状況は変わる可能性があるからです。
そこで参考になるのが、次の5つの質問です。5つの問いに答えることで、ジョブをより具体化できるようになります。
①その人がなし遂げようとしている進歩は何か。
例えば、「仕事やプライベートでとびきりの第一印象を与える笑顔がほしい」。
②苦心している状況は何か。
「年に 2 回歯科医へ通い、歯をきれいに保つためにするべきことはすべてしているのに、思ったほど白くならない」
③進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
「歯を白くする歯磨き粉をいくつか試したが、さっぱり効果はなく、誇大広告だった」
④不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。
「家庭でもホワイトニングできる高価なキットを購入したのはいいが、不恰好なマウスピースをひと晩じゅう装着しないといけない…」
⑤その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換え(トレードオフ)にしてもいいと思うものは何か。
「専門の歯科治療によるホワイトニングを受けたい。ただし費用も手間もかけたくない」
最後に、クリステンセン氏らが携わった有名な事例、「ミルクシェイクのジレンマ」をご紹介します(P30〜)。少々長くはなりますが、この理論を理解する上で大いに参考になる話なので、お時間ある方は読んでみてください。
以前、ファストフード・チェーンのプロジェクトに携わったことがある。
「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」
その答えを求め、このチェーン店はすでに数カ月かけて調査していた。
ミルクシェイクを買いそうな人に、彼らはこう質問した。
「どんな点を改善すれば、ミルクシェイクをもっと買いたくなりますか? 値段を安く? 量を多く? もっと固く凍らせる?」
そして、最も多かった要望に応えるイノベーションを行った。だが、売上に変化はなかった。
そこで私たちは、まったく違う方向から課題に取り組もうと考えた。
「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを“雇用”させたのか」と。
来店客は、単にプロダクトを買っているのではない。彼らの生活に発生したジョブを、ミルクシェイクを雇用して片づけているのだ。
この観点のもと、調査チームは客を観察した。
わかったのは、午前9時前に1人で来た客に売れるミルクシェイクが驚くほど多かったことだ。そのほとんどがミルクシェイクだけを買い、店内では飲まず、車で走り去っていた。
チームは客に、ミルクシェイクを買う目的(ジョブ)を尋ねた。
明らかになったのは、早朝の客は皆、同じジョブを抱えていたということだ。仕事先まで退屈な運転をしないといけないから、気を紛らわせるものがほしい、というものだ。
ある客は言った。「時にはバナナを食べますよ。 だけどバナナじゃダメなんだなあ。すぐに食べ終えてしまうから」。
でもミルクシェイクなら、飲み終わるまでには長い時間がかかる。朝食と昼食の間に感じる空腹をかわすのに充分な量がある。
つまりミルクシェイクは、バナナやドーナツ、 コーヒーなどの競争相手よりも、このジョブをうまく片づけるのだ。
ミルクシェイクは午後や夜にも、大量に買われている。これはつまり、違うジョブのためにミルクシェイクを雇用する可能性があるということだ -- 。
【PROFILE】
あぶ(新米心理カウンセラー)
滋賀県生まれ。修士(公共政策)。2018年、心理カウンセラーの資格を取得。書籍を年間約200冊読み、ブクログでレビューを書いている。LINEスタンプも不定期に作成し、販売している。
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