ここからは、本文では書ききれなかった内容が盛りだくさんのおまけパートとなります。よろしければこちらもお楽しみください。
はじまりの話
いま考えると、「ホンヤククエスト」のはじまりはイード宮川社長との出会いからでした。TOMを創業する前に私が開発・運営していたサービスを事業売却させていただいたのがキッカケで、年に数回食事をさせていただいていました。
その後、「アニメ!アニメ!」の編集部の方たちとも交流を持ち、TOMがブロックチェーンを活用するコミュニティ通貨『オタクコイン』という構想を起案し、業界団体としてオタクコイン協会(当時は準備委員会)を組成した2017年末に、宮川社長から事業統括責任者の土本さんを紹介いただきました。
一方、bitFlyerとは、ブロックチェーン開発者の落合庸介さんからのご紹介で、2018年6月にカナゴールドという呼称で知られる現・BUIDL橋本さんとの打ち合わせをさせていただき、そこに同席されていたバリミッシュこと元・銀行マンの三瀬さんと出会いした。その後、三瀬さんと親交が深まり、2018年10月に食事をしている中、今回のプロジェクトの原型のようなものができあがっていきます。
ファンの力で日本のコンテンツを翻訳する
ブロックチェーンを活用して翻訳者としてのキャリア形成をサポートする
トークンエコノミーの世界の実現=ファンだからこそ円やドルといったお金ではない報酬が成立する世界を作りたい
アイディアが出てきた段階で、これはおそらくイードの土本さんにも協力してもらうといいかもしれないと思い、すぐにお声がけしました。そうしたのにはいくつか理由がありますが、①土本さんやイードがブロックチェーンxメディアのトライに積極的であること、②運営メディアの海外展開が念願であったこと、③そして私が密かに土本さんの才気に惚れ込んでいたこと(あ、これは本人にも伝えてないですし、いま初めて言ったのでラブレターみたいで恥ずかしい)、などが理由です。
土本さんはゲームファンなら知る人も多い「インサイド」というゲームメディアを学生時代に個人でゼロから立ち上げ、大きなメディアへ育てた実績もさることながら、かつ他のあらゆるメディアでのグロースも経験をされてきている方で、コンシューマー向けのサービスの立ち上げからグロースまでのノウハウはこのプロジェクトの成功に欠かせないと考えたのです。
もうひとつのチャレンジ
ここまであまり触れてきませんでしたが、このプロジェクトのもうひとつのチャレンジングな取り組みが「アニメ!アニメ!」の英語版「Anime Anime Global」の同時展開です。「ホンヤククエスト」の実証実験で翻訳される対象のテキストは「アニメ!アニメ!」日本語版の日本語記事で、1日約20本(各記事平均600文字前後)をアニメファンのトランスレイターたちが翻訳していく仕組みです。ここで翻訳された英語のニュース記事は、依頼主でもあるイードが「採用(ジャッジ)」すると、そのまま英語版「Anime Anime Global」へと掲載されるため、いわばアニメファンがアニメファンのためにアニメ関連のニュースを一緒につくるという、まさにコミュニティの力で新しい形のメディアができあがるはずです。
自分が翻訳した記事か正規のニュースとしてメディアに掲載されることになるため、翻訳者のモチベーションをさらに高めることができると考えています。
「ホンヤククエスト」によって、日本のアニメが大好きなファンによって、気軽に「正規コンテンツ」を翻訳でき、その翻訳の成果を英語圏向けに新しく作られるアニメニュースサイト「Anime Anime Global」にブロックチェーンで自分の名前が刻まれます。違法な海賊版でさえファンの熱量によってあらゆるコンテンツが翻訳されている状況の中、この仕組みがワークしたら最高に熱いと思っています。
補助金制度を活用する
プロジェクトを進めていると時折思ってもみない幸運に出会うことがあります。通称:J-LOD(読み:ジェイロッド、Japan content LOcalization and Distributionの略)の採択もそんな幸運のひとつだったと思います。J-LODとは、日本の経済産業省が実施する『コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金』のことで、かんたんにいうと、日本から海外にコンテンツを広めてくれる企業に補助金が出ますよ、という制度です。
以前はJ-LOPという名称で、TOMもフランス最大のオタクイベントのJapan Expoへ出展時に採択されて活用していました。
2019年はJ-LODの対象プロジェクトが突然ブロックチェーン開発にも広がってくれたため、我らが「ホンヤククエスト」も採択される可能性があるのでは?ということで、bitFlyer三瀬さんがいち早く動いて、申請&採択をされる運びとなったのです。
ちなみに、補助金を受けられるメリットはありつつも、国の税金を活用させていただくわけですので、どんな事業やサービスにどんな風にブロックチェーンを活用してどのように海外へコンテンツを広めていくのかを判断いただくための資料作りには一定の時間がかかります。三瀬さんが作成された一部(タタキ段階)を紹介したいと思います。
これらは申請書類の一部で、まあまあな分量の説明資料の提出が求められるのと、申請後も定期的なレポーティングややりとりが発生しますので、制度を活用する際は一定の規模感以上でないとデスクワークに見合わない可能性もあります。私は申請して300万円以上の補助金が見込める時には前向きに検討したほうがいいと考えています。参考になれば幸いです。
社内向け説明資料をつくる
一定規模の組織になってくると、セクションや役割で持ち場が定まってくるので、TOMでも社内で大小含めると100以上の施策や企画が同時進行で動き出したりして、誰が何をやっているか、「見出し」は把握していても、内容の詳細まではなかなか伝わらなくなってきます。また、一見すると理解しづらい難しそうなプロジェクトは「なんであれをやっているんだろう」という素朴な疑問を誰もが持つものであり、それぞれ各社内との連携を進める上では、いわゆる「社内向け説明」というのは欠かせません。
とくに、「このプロジェクトを進めるとどんなメリットがあるのか」「(自分含め)自チームやセクションにどんな影響があるのか」など、組織体制が整っていればいるほど、予定されている計画への影響度をあらかじめ把握して、予定に組み込むようなチーム内調整も必要です。早め早めの共有が、結果として大きなサポートとなって担当を超えたレベルの協力体制でプロジェクトを支援していくことが実現されます。今回TOM社内向けに作ったレポートをチラ見せしちゃいます。
(図の引用:SHIFT:イノベーションの作法)
ドキュメントワークというのは一定の工数がかかりますが、社内外を巻き込み、より大きなプロジェクトと昇華させていくステップとして欠かせない工程だと感じます。また、プロジェクトをファン向け、クライアント向け、協業先向け、社内向けとさまざまなアングルから視点を変えて見てみることで、新しい方向性の発見や必要な機能が見つかったり、プラスに働くことも多いと感じています。説明資料の中で引用しているSHIFT:イノベーションの作法にも出てくる「インターナルマーケティング」の重要性は、組織が大きくなっていくほど社内リソースのレバレッジをかける上で大変有意義なのだと思う次第です。
ビジネススキームを固める
「ホンヤククエスト」のプロジェクトは最初、手応えを掴むために短期間の実証実験からはじめ、依頼主やファンのニーズやウォンツを確かめながら、次ステップへ進むかどうかの判断を都度都度していく、というようなリスクヘッジをしながら進める方法を取っています。仕様が固まりデザインやサービスができてきて、TOMのFacebookページなどを通じて翻訳者候補者が一定の人数が集まることが分かってきており、また、ありがたいことにまだパイロット版すらローンチしていないにも関わらず、翻訳を依頼してみたいという依頼主候補も複数出てきており、プロジェクトメンバーもより一段自信が深まってきているところです。
まだ気が早いとは思いつつ、2019年内で実証実験を完了したあと、2020年からは本番稼働を狙っていくとしたら、本番後のビジネススキームをもうすこし具体的に決めていく必要がありました。3社の協業であることもあり、売上や収益の配分によっては採算があわないケースもありえますし、どの会社がどの役割を担うのかなども重要な論点になります。
実はまだこちらは現在進行系で交渉中の内容になりますが、こちらをベースに要点を整理してディスカッションを行っていっています。レベニューシェアや撤退などの生々しい情報も盛り込んだ資料を公開してみたいと思います。
番外編は以上です。
おわりに
最後に、どのような経緯で「ホンヤククエスト」が生まれてきたのかを紹介したいと思います。
日本のオタク文化は世界中からとても注目されていて、世界各地に熱烈なファンがいます。どれくらいの人気があるかというと、海外の国ごとに数万人から数十万人規模のオタクイベントが毎年行われるくらい人気になっています。USでもっとも多く集まるAnime Expoは4日間で約10,000円の有料イベントで2018年、2019年と2年連続で35万人の来場、ほぼすべて日本のオタク系コンテンツの展示です。写真はAnime Expo2018の開場前の様子です。
ここまでの熱量で溢れていても、コンテンツや関連情報が完全に世界中に行き渡っているかと言うとそうではありません。いまはまだ日本語と世界各国の言語の間に深い溝があり、そこを越えようとしてもうまく越せない「言語の壁」というボトルネックがあるのです。
オタク文化の中心になるのがコンテンツ=作品であるからこそ、中身がわからなければ伝わらず、伝わらなければ作品を楽しむことができません。収益性が見込めるトップ作品は正規版として翻訳され海外に流通していますが、それはピラミッド図でいう上層の話です。「オタク文化を広げる」という大きな枠組みで考えると、ビジネスになる作品だけが翻訳対象というのも世知辛いものです。気軽にできない「翻訳」が日本のオタク文化を世界に広げるための足かせになっているのではないか、ここを解決できれば、より幅広い人に日本のオタク文化が広がっていき、きっと明るい未来が開ける、そう確信しています。
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