今回は「構想を具体化するサービス設計編」をお届けします。全体の目次はこちらになります。
エコサイクルを設計する
「ホンヤククエスト」は、ブロックチェーン業界の用語でいう「トークンエコノミー(コミュニティの中で一種の経済システムが確立されていること)」の事例の成立も兼ねたプロジェクトです。
そこで、「ホンヤククエスト」でもサービスが成長していくためのインセンティブ設計=トークンエコノミーを図式化してみたのがこちらです。bitFlyer三瀬さんが作成されました。
このインセンティブのハブとなる存在が独自トークン「HON」であり、「HON」の報酬設計こそ、このサービスのキモと言えます。三瀬さんと市園さんが下記のシナリオ別のチャートを作り、あらゆるパターンで矛盾がでないように設計することができました。
こうした具体的な仕様に落とし込まれ、「ホンヤククエスト」の開発を進めていきました。
サイトマップをつくる
「ホンヤククエスト」は、ウェブサイト上で依頼主が翻訳案件を登録し、複数の翻訳者が翻訳や校正を行い、最後に依頼主が翻訳内容をジャッジして、案件が成立すると「HON」というサイト内の報酬がもらえる仕組みになっています。これらの一連のステップをウェブサイト上で実現するための設計をすることになります。そのためにどんな画面があり、その画面で何ができるかを示すものが、サイトマップになります。
2019年3月、ウェブサイト構築歴20年のベテランのディレクター大迫によってパパッとタタキが完成、必要な機能やページから全体構成を割り出し、いくつかの修正を加えてFixさせました。
仕様を決めてワイヤーフレームをつくる
同時進行で、サービスの仕様やデザインの骨組みであるワイヤーフレームを作成していきます。私が書いた構想(ポエム)から一段ブレイクダウンした整理整頓のための資料制作を、三瀬さんと市園さんが積極的に進めてくださいました。「ブロックチェーンの仕様決めに必要ですから当然です!(キリッ」と答えてくださったとき、”情熱が溢れて素晴らしい方たちだなぁ”と感じたのをはっきり覚えています。
そして、これらの資料をもとに、大迫が企画書とサイトの仕様や機能を言語化・明示化するための骨組み=ワイヤーフレームを作成していきます。
企画書兼ワイヤーフレームの資料は全体で40ページのボリュームとなり、各社からのフィードバックを反映し確認後またフィードバック……を繰り返しながら資料をブラッシュアップし、内容の精緻化を図りました。また、通常の週1回の定例ミーティングとは別に、直接数回集まって集中ミーティングを行い、細かな部分まで固めていきました。
ちなみに、「ホンヤククエスト」で翻訳するトランスレイターは英語圏、依頼主は日本語圏を想定しているため、サイトでも日英の両方テキストを用意しました。英訳はTOMの翻訳チームのケイティと台湾出身の起業家ポユさんが担当しました。
開発仕様を決める
機能的な仕様が固まってくると、具体的な開発の仕様も決められる段階になります。「ホンヤククエスト」では、ウェブサービス的な要素の裏側にブロックチェーン技術を活用しているので、開発の仕様はブロックチェーンの特徴を把握しながら、フロント側の仕様を決めていく必要がありました。
国内最大手の取引所として知名度も抜群のbitFlyerですが、独自のブロックチェーン技術「miyabi」の存在はそれほど知られていないかもしれません。bitFlyerを創業された加納さんが、グループ会社としてbitFlyer Blockchainという会社を設立して社長に就任、ブロックチェーン技術の他業界との活用事例を生み出していく本気度を感じます。直近では住友商事との提携が話題となり、「miyabi」を使って不動産業界xブロックチェーンの領域で革新的なユーザー体験をもたらすプロジェクトが進行しています。
今回、「ホンヤククエスト」のプロジェクトでも「miyabi」を活用して、ブロックチェーン技術でこそ実現させたいものがありました。そのもっとも大きい活用方法は、「ファンの翻訳に対してオフィシャルとしてのお墨付きを与えられる」ことです。経済産業省の支援制度「J-LOD」に提出した資料に詳しく書かれていますが、ブロックチェーンで改ざんされずに記録されていき、翻訳者自身も誰に対しても自身が翻訳したことを正当に主張できる仕組みであることが、将来的にとても価値があり、意義があることだと感じるのです。
「ホンヤククエスト」がちゃんとワークすると、誰が何を翻訳したかがブロックチェーン上に記録され、誰でも参照が可能になります。それが蓄積されていくと、翻訳者のキャリア形成に大きなメリットをもたらすと考えられます。
表側の機能面が固まってくると同時に、ブロックチェーン側の仕様も市園さんを中心に設計がこんな資料とともに固まっていきます。
世界観を設計する
脚本家がキャラクターの性格や生い立ちを決めていくと、キャラクター同士が勝手に話し出す、という話をよく聞きます。私はクリエイティブな能力はほとんどないため、そういった話は遠巻きに「そういうものかな」とずっと思っていたのですが、これに近い現象が「ホンヤククエスト」では、サービス名が決まった段階から起こりだしたのです。きっとこのサービス名からさまざまな想像が膨らんでいった結果なのだと思います。
その最たるものは、「ホンヤククエスト」の世界の成り立ちがディレクター大迫の”遊び心”によって、いつのまにかできあがっていたところです。企画書兼ワイヤーフレームの冒頭、こんな設定が盛り込まれているのです。定例ミーティングでの各社の反応はポジティブで「楽しげでいいじゃん!」でした。
これでサービス全体の世界観が決まり、デザインやロゴの方向性が決まったといっても過言ではないくらい、良い影響を与えました。いま振り返れば、初期はエンタメに特化しファンのための翻訳サービスとして進めるなら、逆に最初からこういう発想がでないほうが不思議でしょう、とさえ思うのですが、生真面目に進めていくとこういうことが盲点になったりするものなんですよね。
というわけで、世界観の一部の設定をここで公開してみると、
世界/国名:
トルケニスタ・・・この世界
ウィンタニア王国・・・舞台となる北方の王国
キャラクター:
フォンゴーニ14世・・・現在の王、民に慕われる気さくな国王。ちょっと抜けてて”爺”によく怒られる。
ボルトン(爺)・・・財務官、王が小さな頃から仕えてきた。王より年上だが実はそんなに変わらない年齢。少しボケてきているが、まだ若いモンには負けんと、密かに闘志を燃やしている。
ビービー・・・通信係、読書や空想を好み、物静か。運動苦手、ドジっ子。
メール文面(一部):
「●●●よ、ウィンタニア王国の財務官ボルトンじゃ。
お主が手がけた「[記事タイトル]」を依頼主がお選びになった。
ここに報酬を進呈する、おめでとう!
http://xxxx.ooo
世界が分断されてからというもの、人々の交流はほとんどなくなってしまった。
お主はこの世界トルケニスタをつなぐ希望じゃ、、国王はもちろんこの爺も期待しておる。ありがとう、これからも頼むぞ。」
もともとは味気なかったシステムメッセージも、こうしたキャラクターが「話す」ことで世界に息づき、「楽しみながら翻訳ができるサービス」に一歩近づいた気がします。
フックモデルを設計する
新しいプロジェクトを進める役得として、既存のプロジェクトでは挑戦しづらい新しい手法・進め方・フレームワークなどを導入しやすいということがあると思います。
私が大好きな「yenta」というビジネスマッチングのアプリがあります。この事業を率いているのが岡さんという方で、アプリがリリースされた当初に連絡して(「素晴らしいサービスなので連絡しちゃいました!」的なノリです。は、恥ずかしい)、以前からやりとりをさせていただいていました。もうひとり、500startupsの先輩で「決算が読めるようになるノート」のシバタナオキさんが久しぶりに日本に来るということで、toC向けのサービスでイケてる人を紹介する話があり、お二人を繋いだのです。当日、私は同席できなかったのですが、あとからシバタナオキさんに聞いたところ、岡さんから聞いた「yentaはフックモデルに素直に従って作った」という話に感銘を受けたとのことで、「ホンヤククエスト」など新しいプロジェクトに活かせるかもということで、周回遅れではありつつも、私もとても気になって書籍を読んでみたのでした。
「フックモデル」の内容はぜひ書籍「Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール」を読んでいただくとして、質問・回答をしていくことでフックモデルをどうつくり出せるかを洗い出せるので、実際に3社で回答に答えてみたのです。その一部を紹介します。
この質問・回答によってとてもクリアに機能や見た目のイメージが整理されたので、こちらも記しておきます。今回のサービスにおいて、翻訳者が翻訳することを習慣化できると嬉しく思います。
次回は「設計をカタチにする制作&開発編」をお届けします。