「もうすぐSSDSが作動するころだ...」
雲一つない蒼い空、白いビル群は眩しいほど反射し、熱を分散させている。
政府は上昇する気温を下げるべく様々な規制を推進、なかでも都市の建物および構造物の色を白あるいは反射塗料を塗布したものに指定した。都市のビル屋上から見下ろす町並みは白い雪原のようだ。
「灼熱の雪景色か、実に皮肉なもんだ...」
超巨大企業(Big Harbor)ビッグハーバー本社屋上、CEOは振り返り旧友の顔を見た。「お前の目的は、望みは、本当にこれなのか」日座間づきながら男は言った。
「本当の望みなんてもんは、俺自身もわからんよ。だが今からやろうとしていることは過去に誰もなしえなかったことだ。これですべて無に返るんだ。」
「頼む、考え直してくれ。すべての事に意味はある。だから...」
「そうだ、チャンスをやろう。これがNBM制御システムの起動解除スイッチだ。それを押せばこの世界が炎に包まれることはない。これをお前に託そう。あぁ、そうだ言い忘れたが、先週パールブルー(Pale Blue)の国立病院で12歳になる女の子が人口脳の移植手術に成功したそうだよ。」そう伝えられた男の顔から血の気が引く。
「人工脳移植手術許可か...これもまあ長く時間がかかったもんだ。それを見越して娘をクライオニクス(冷凍保存)させたお前の決断は英断だったと言える。」
「クッ...黙れ!!」
「久しぶりの再開におしゃべりが過ぎたようだな。だがもう時間もない。次もお前の判断が、英断となるか楽しみだよ。NBM発射までもう2分を切った。この解除スイッチを押せば世界が救われる。だが、スイッチを押せば国営病院にむけMOMBが乱射される。」
「つまりどちらかを選べってことだよ。娘か世界か...ほら、1分切ったぞ。」といいCEOは解除スイッチをカガワに投げた。無異質な金属を立てて男の目の前に解除スイッチが転げ込む。
「...」
「あと30秒」CEOは目を閉じて微笑む。
世界が崩壊し、娘が助かる。そんな世界で生き延びた娘は幸せだろうか。娘がこの世からいなくなり、世界は救われる。だが、俺からは何もかもがなくなる世界...
「あと10秒」
高熱の世界、朦朧とする意識の中、幻聴か、蜃気楼か、5際の少女が現れた。
『お父さーん、いただきますって言った??』
「え?」
『服はかっこいいけど、顔はおじさん(笑)』
「ははっ」口から声がもれ、自分自身がどうかしてしまったのだと男は悟った。過去の記憶がフラッシュバックしたようだ。
『悪いことはしたらダメだよ。人はだませても自分はだませないから。お母さんが言ってたでしょ(笑)』
その懐かしい笑顔をみた瞬間、涙が溢れ、男のなかにある決心がめばえる。だがそれは瞬時の事で本人すら自覚しておらず、反射神経的にといってもいい。
男は全てを悟った。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
世界か娘か迫られた男の咆哮は照り返す白い雪原に木霊した。
「3.2.1...0」
男は解除スイッチを押した...
「あ、はっ、はっ、世界を取ったか、本当にお前の選択には頭が下がるよ。今回も英断だ。」
次の瞬間、けたたましい音とともにBH本社が大きく揺れ、地響きが鳴り響いた。世界が真っ暗になったかと思うと、雷のような轟が鳴りまた世界がポッと昼の様になり、また真っ暗になった。この世の終わりだろうか...
「ミサイルは発射されないはずじゃ...」男はつぶやいた。
「騙すつもりはなかったんだけどね、君の選択が見たかった。」そういうとCEOは腰から拳銃を取り出し引き金に指をかけた。
「君の選択はいつも英断だ。さよなら友よ」と言い残して、引き金を引いた。
銃声が鈍く鳴り響き、真っ白な屋上には赤い血だまりに染められた。
...a week later
「先生!目を覚ましました。至急、第一地下病棟へ」
「ユキさん!ユキさん!」
騒がしい声の中、ユキは目を覚ました。目がかすみ眩しくほとんど見えない。
吐き気がし頭がモヤモヤする。目をとじ、耳だけに外界の知覚を集中した。ベッドの上病院の布団の中だ。全身は筋肉痛の様に痛みで動かない。
感じる病室の傍らユキにそっと向かうものがいた。
「やぁ、ユキ...」若い男の声に、ユキは小さな小さな声で応えた。
「あなたは?」
「私はSOAR...」
つづく