(台北101の足元にある「LOVE」モニュメント。逆光ですみません…)
仮想通貨による「投げ銭」という機能が、ある種ひとつの「文化」となりつつあるように、仮想通貨を贈ることで賛意を示す・感謝を示すという行為はブロックチェーンの活用方法のひとつとして広く共有されようとしているように感じます。
こうした特徴を活かして、たとえば社会活動に対する寄付を仮想通貨でおこなうことができるようなプラットフォームが構築されるような動きが、台湾でも生まれてきています。
(以下の記事中の「度度客」の取り組みに、こうした動きがうかがえます)
そうした状況のなかで、ビットコインによる政治献金受け入れを表明する立候補者が台湾で出てきましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・「時代力量」の蕭新晟さんがビットコイン受け入れを表明
・ビットコインによる政治献金の問題点は?
・蕭新晟さんってどんな人?
・若い世代が政治を身近に感じる方法のひとつとして…
台湾のビジネス系ニュースサイト「數位時代」が報じた記事によると、2018年11月に予定されている台湾全島統一選挙の台北市議会選挙に出馬を予定している、「時代力量」の蕭新晟さんが、自らのFacebookページでビットコインによる匿名寄付を受け入れることを表明したということです。
蕭新晟さんのFacebookページには、2018年8月7日付の記事で、「這次選舉我們嘗試透過比特幣,讓民眾進行小額匿名捐款(今回の選挙でわたしたちはビットコンによって、民衆が少額匿名寄付をできるように試みます)」と書かれています。
蕭新晟さんの選挙キャンペーンサイトにも「比特幣捐款(ビットコイン寄付)」のページが設置されていて、ウォレットのアドレスが記載されています。
「數位時代」の記事には、ビットコインによる政治献金が解決しなければならない問題点として、「匿名性與價值浮動性(匿名性と価値流動性)」の2点が挙げられています。
まず、「匿名性」の問題については、台湾の「政治獻金法(政治献金法)」の第14条の規定によって、匿名による寄付は1万台湾元を上限とすると定められているとなっているとのことです。
実際の「政治獻金法」第14条の条文は、「任何人不得以本人以外之名義捐贈或為超過新臺幣一萬元之匿名捐贈。(何人も本人以外の名義による寄付あるいは1万台湾元を超える匿名寄付を受けてはならない)」となっています。
この規定をクリアするために、蕭新晟さんは自らのキャンペーンサイトに9,000台湾元相当のビットコインレートを表示し、これ以上の寄付をしないよう呼びかけることにしているようです。
実際にキャンペーンサイトには、2018年8月13日現在の寄付上限額は「0.0047BTC」であると表示されています。
また、この点と関連する「価値流動性」については、想定されるケースとして…
寄付をした当初はビットコインの価値が1万台湾元以内にとどまっていたとしても、急激に価値が上昇し、ビットコインの価値が1万台湾元を超えた場合は「政治獻金法」に違反するのか?という事例が挙げられています。
この点については、記事中、公務員や国家機関の監査をおこなう「監察院」の見解として、「政治獻金法主要追求「透明化」,候選人接受政治獻金捐贈應該都有詳實的紀錄。(政治献金法は主に「透明化」を目指すものであり、候補者が受けた政治献金寄付は詳細な記録があるだろう)」という考え方が示されています。
ここを読む限り、ビットコインによる寄付は寄付時点での価格の記録を紐付けて残すことができるために問題ないという見解だと受け取ることができます。
ただ、同時に、「由於比特幣目前仍有許多立法上的灰色地帶,特別是金管會最近針對比特幣的實名動作不斷,監察院仍建議選民以現金做為政治獻金。(ビットコインは今のところ多くの立法上のグレーゾーンを抱えており、特に金融監督管理委員会は最近、ビットコインの実名化を進めており、監察院は選挙民に現金で政治献金をおこなうよう勧めている)」と書かれています。
法律上はグレーゾーンとなっていて積極的に推奨されてはいないとはいえ、既存の法律の枠内でもうすでに仮想通貨による政治献金は可能だという解釈になっているようですね。
今回、ビットコインによる政治献金受け入れを表明した蕭新晟さんについては、台湾のネットメディア「風傳媒」に掲載されたインタビュー記事で、バックボーンが述べられています。
記事によれば、UCLAの物理学部を卒業し、ニューヨーク州立大学大学院の物理学研究室のPh.D candidateを経て、ニューヨークのスタートアップでエンジニア(工程師)をしていたようです。
その後、「國家寶藏(Taiwan National Treasure)」という、海外に散在する台湾に関連する歴史資料を収集するアプリを開発し、台湾政府が実施するハッカソンで資金援助を受けるに至ったということです。
そうした経歴のもとで、台湾のスタートアップをめぐる状況について、以下のような危機感を感じたそうです。
台北有很多新創團隊在運作,但缺乏投資客,導致過度依賴政府補助,難以激勵新創產業。
(台北には多くのスタートアップが活動しているけれど、投資家が少なく、過度に政府の補助に頼らざるを得ずスタートアップ産業を促すことが難しい)
そこで、台湾に戻って、「天使投資(angel investor)」を積極的に推進していくことと、政府からの補助金に投資のシステムを導入していくことを目指すことを考えたようです。
さらにもうひとつ、アメリカでの経験を通じて感じたことが、「市議會透明化(市議会の透明化)」の必要性だと語られています。
とりわけ、若い世代の政治への関心と、政策への若い世代の要求反映を目指して、ニューヨーク市議会で導入されているアプリ「Countable」のような仕組みを導入できないかと考えているようです。
Countableについては、日本の「WIRED」に掲載されている佐久間祐美子さんの記事が詳しいのですが、議会での議論を可視化するアプリとして、特に2016年11月の大統領選挙以降に広く使われているようです。
そのほかにも、2歳の子どもを持つ親として、台北市の子育て環境の改善に尽力することや、公共サービスの改善などが公約として語られています。
蕭新晟さんが所属先に選んだ「時代力量」という政党も、2014年に学生たちが政府の方針に反対して立法院を占拠した「太陽花學運(ひまわり学生運動)」から生まれた政党で、若い世代を中心に多くの支持を集めています。
蕭新晟さん自身も1982年12月生まれの35歳。若い世代を代表する立場で政治の世界に入ろうとしていることがわかりますね。
上に挙げた「數位時代」の記事のなかで、蕭新晟さんは「開放接受比特幣捐款的象徵意義也大於實質意義(ビットコインによる寄付の受け入れをオープンにした象徴的な意味というのは、実質的な意味もまた大きい)」と語っています。
これには、台湾で初めての仮想通貨による政治献金の募集であるという意味に加えて、
台湾における仮想通貨をめぐる法整備に資すること、少額寄付へのハードルを下げること、無名の候補者でも寄付金を集める多様な方法を持つことができることなど、多様な意味が含まれていますが、
そのなかには、若い世代の人々と政治との距離を縮めるということも含まれていると感じました。
蕭新晟さんの選挙キャンペーンサイトに掲げられている公約を見ても、子育て世代やこれから社会を担っていく世代をターゲットとした内容が並んでいますので、そうしたターゲットに訴えかける方法のひとつとして、ビットコインによる寄付受け入れが考えられたのかなと感じます。
仮想通貨に対する台湾の人々の感情にはまだまだ一筋縄ではいかないところがあり、こうした方法がすぐに上手くいくかどうかはわかりませんが、蕭新晟さんが立候補したのが台北市議会、なかでも「内湖・南港」地域という比較的先進的な地域であるというのもまた、モデルケースとして興味深いと思います。
(ちなみに内湖区には、僕が足を運んだ仮想通貨カフェ&ラボ「Bitzantin」があります。手前味噌ですみません(^_^;)
これからの選挙活動のなかで、どれほどの寄付金が集まるのか、追随する候補者が現れるのか、それとも政治的なストップがかかるのか…
こうした動きがこれからどのように展開していくのかに注目しながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
kazの記事一覧はこちらです。(下のアイコンからもご覧いただけます)
Twitter、やってます!