台湾はフルーツの一大生産地として有名です。特に、台湾南部は熱帯地域に属することもあり、多種多様なフルーツが生産されています。
ある世代以上の人は、台湾のフルーツといえば「バナナ」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
日本に輸入されていたバナナのほとんどは台湾で生産されていたという時期もありました。
ただ、近年はフィリピンや南米産のバナナに押されて、日本では台湾バナナをほとんど見なくなりました。
そうしたこともあって、台湾でのバナナ生産は近年、苦境に立たされています。
その苦境を脱するための方法のひとつとして、ブロックチェーンをバナナ生産・流通に応用する提案がなされています。
現段階ではまだ具体的な動きにつながっているわけではありませんので、今回の記事はブロックチェーンに関する最新情報をまとめたものではありません。
ですが、今後の動きにつながる可能性もありますし、それ以上に、台湾農業の現状や日本とのつながり、
そのなかでのブロックチェーンの役割といった興味深い要素がいろいろと含まれています。
ブロックチェーンの話に至るまで、やや前段が長い話になりますが、なるべくシンプルに、少しずつ話をまとめていきたいと思います。
(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳です。参考までにご覧ください(^^;)
・行政院長が新たなバナナの食べ方を紹介!?
・台湾バナナの価格暴落
・台湾バナナと日本とのつながり
・バナナの生産と流通にブロックチェーンを!
・実現の可能性は?
ネットニュースサイト「ETtoday新聞雲」に2018年6月13日、「除了院長的水煮香蕉吃法 可用區塊鏈解「蕉」慮(院長の水煮バナナのような食べ方以外に、ブロックチェーンを使って「バナナへの憂慮」を解消することができますよ)」というタイトルの記事が掲載されました。
記事を書いたのは蘇南さんという国立雲林科技大学の先生です。
この記事、ブロックチェーンの話に入る前に、いろんな前提が踏まえられています。
まず、「院長の水煮バナナ(香蕉)」ですが、これは現在の行政院長(日本の「首相」に相当)で前台南市長である頼清徳さんが自分のFacebookページに、バナナをたくさん消費するための方法として、皮つきバナナをお湯で煮て、醤油やニンニクなどをつけて食べる方法を紹介したことを示しています。
この記事に対しては、バナナの皮を食べるのは身体に悪いとか、いや皮ごと食べろとは言っていないとか、ゴシップ的にいろいろと話題になっていますが、それはともかく…
大切なのは、行政院長である頼清徳さんがこうした話題を記事にした背景です。
実は、台湾のバナナは今年、価格の大幅な暴落でバナナ生産者が存続の危機に直面しているようなんです。
(ちなみに、記事タイトルの「「蕉」慮」は、「香蕉(バナナ)」の「蕉」と、「憂慮する」という意味の「焦慮」の「焦」の発音が同じなので、言葉をかけ合わせているんです。こういう言葉遊びは中国語でよくあります)
「ETtoday新聞雲」の記事によると、今年度、バナナの価格が1キロあたり7台湾元(約26円)を下回り、生産コストを回収できないような状態に陥っているようです。
こうした状況に対処するために、たとえば記事のなかでは、農業政策を管轄する行政院農業委員会の農糧署がバナナの買取をおこなったことが挙げられています。
また、台北市(TVBSの記事)や軍隊(民視新聞の記事)がバナナの大量購入をおこなったり、
小・中学校でバナナを購入して卒業生に配布したり(民視新聞の記事、台湾は6月が卒業シーズンです)、
台湾で有名なお菓子メーカーである義美がバナナを使った新製品の開発を公表したり(民視新聞の記事)、さまざまな活動が展開されています。
「ETtoday新聞雲」の記事によると、昨年は過去最高の1キロ当たり100台湾元(約370円)を記録したのですが、今年は猛暑に加えてまったく台風がこなかったために天候がよく、バナナの生産量が大幅に増えました。
それにもかかわらず、スイカやライチ、パイナップルなどの需要と重なったことで流通量が落ち、価格の暴落につながったようです。
この記事で興味深いのは、台湾バナナの日本とのつながりについても言及されていることです。
記事によれば、1960年代、台湾は「香蕉王國(バナナ王国)」として、日本で販売されているバナナの9割以上を台湾産が占めていたということです。
日本のある年代以上の方にとって、バナナといえば台湾バナナという人が多いのはこうした背景があります。
ただ、日本市場ではその後、フィリピン産のバナナが安く出回る(フィリピン産バナナは関税0ですが、台湾産バナナには23%の関税がかかると記事にはあります)ことによって、台湾バナナのプレゼンスは徐々に低下していきました。
現在は日本で流通しているバナナのわずか1%を占めるに過ぎないところまで落ちたようです。
現在、台湾にとってのバナナの輸出先は日本から中国に移ったようですが、それでも全体の輸出量は年々減少傾向にあるそうです。
そこで、突然発生したバナナの生産過多と価格の暴落…台湾バナナの行く末をめぐる議論がここでようやく活発になってきたということのようです。
そこで、こうした問題に対するひとつの解決策として、「ETtoday新聞雲」の記事が提案しているのは、バナナの生産や流通管理にブロックチェーンの技術を活用していくという方法です。
記事では、ブロックチェーンを活用することによって、以下のような利点があると説明されています。
它是一種生產者與消費端可共享的分散式數據庫,能記錄香蕉的栽種與銷售資訊,且不可改變。蕉農可使用感測器和IoT(物聯網),從蕉苗的生長、氣溫、雨量等數據皆可匯入區塊鏈,連結至消費市場、蕉農及主管機關,使蕉農能規畫何時收割最好,並與客戶討論供貨時間及數量,建立產銷區塊鏈;同時也能提供生產履歷及品質資訊,幫客戶減少搜尋成本。
(これは生産者と消費者の共有を可能にする分散型データベースで、バナナの栽培と流通の情報を記録することができ、改変することができない。バナナ農家はセンサーとIoTを用いて、バナナの成長、気温、雨量などのデータをすべてブロックチェーンに組み込み、消費マーケットと、バナナ農家・所管機関を連結することができる。そして、バナナ農家にいつ収穫するのがベストなのかを予測することができ、顧客と供給のタイミングや数量を検討することができるような、生産ブロックチェーンを構築することができる。同時に、生産履歴と品質情報を提供することで、顧客の検索コストを減らすことができる)
また、スマートコントラクト(智慧合約)を実装することができれば、バナナ農家の経済状況の改善や台湾バナナの輸出に大きなメリットがあることが指摘されています。
ブロックチェーンの特性をバナナの生産・流通・消費を結びつける「第六次産業化」に活用しようとする提案であり、興味深い指摘だと思います。
もちろん、現段階ではこの記事で示されていることはひとつの可能性にとどまるもので、具体的な技術やサービスが開発されているわけではないようです。
(もしかしたら、情報が出ていないだけで開発が進んでいるのかもしれませんが…)
ただ、僕も別に書いた記事で取り上げた民進党の現職立法委員で、年末の高雄市長選に党公認での立候補を予定している陳其邁さんは、ネットメディアの「鏡週刊」のインタビューに答えて、デジタル技術の農業への導入に積極的な姿勢を示しています。
このインタビュー記事には「智慧農業(スマートファーム)」という言葉も出てきていますが、陳其邁さんは「スマートシティ(智慧城市)」の実現を掲げ、ブロックチェーンやAIなどの技術発展に対して積極的な姿勢を示している人物のひとりです。
高雄は台湾南部の中心都市として、フルーツ生産の現場を多く抱えている地域でもあります。
もしかしたら、今は単なる一つの意見に過ぎない「農業×ブロックチェーン」の提案が、現実の社会のなかに実装されていくことになるのかもしれません。
こうした政治や社会、農業の状況も踏まえて、今後もコツコツと情報を追いかけていきたいと思います!
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