(台北のCDショップ。ここについてはsteemitで記事書きました ^^;)
ブロックチェーンを著作権保護やクリエイターへの適正な報酬確保に活用しようという動きは世界各地で生まれてきていますね。
台湾・香港・中国でもたとえば、音楽やデジタルコンテンツの保護を目的としたプラットフォームの構築が進められています。
同じような取り組みがいろいろと生まれているということは注目度の高い分野なのかなぁと思います。
今回はシンガポール発で、これから中華圏で音楽コンテンツの新たな収益化に関するプラットフォームを構築しようという動きが目に留まりましたので、書き留めておきたいと思います。
もくじ
・CMEがブロックチェーンを使ったプラットフォームを構築⁉︎
・音楽業界が抱える2つのボトルネック?
・コミュニティの存在に対する注目?
台湾のビジネスニュースサイト「數位時代」が2018年9月4日に掲載した記事によると、シンガポールの音楽機器メーカーの「CME」が2018年下半期に台湾と中国で「AIP音樂交易所國際平台(AIPミュージックトレードワールドプラットフォーム)」を公開する予定だということです。
CMEは日本でも「MIDIキーボード」のメーカーとして、音楽に関わっている方のあいだでは著名な企業ということで、上の記事中には25年の音楽業界での実績があると紹介されています。
プラットフォームの公式ウェブサイトはすでに公開されていて、サイトには「AIP.trade 無縫對接音樂產業和跨界資源,合力打造共贏的生態系統(AIP.tradeはシームレスに音楽産業と世界中の資源をつなぎ、win-winとなるエコシステムを構築する)」と書かれています。
このプラットフォームでできることとして、楽曲を創作・登録することで「股票(株券)」が発行され、その取引が可能になるということのようです。
こうしたプラットフォームを実現することによって、以下のような4つのメリットが期待されているようです。
①連接創作者與資本,增加音樂版權收益的流通性,為擁有超過100年版稅價值的高品質無形資產創造健康的經濟模型。
(クリエイターと資本をつなぎ、音楽の版権の収益流通性を向上させ、100年を超えて版権の価値が高品質な無形の資産となるように、健康的な経済モデルを構築する)
②將行業利益相關者,音樂家和消費者團結在一個互惠互利的生態系統中。
(業界のステイクホルダー、ミュージシャン、消費者を相互利益のエコシステムの中に結びつける)
③成為亞洲與西方世界分享音樂的橋樑。
(アジアと西洋とのあいだで音楽をシェアする架け橋となる)
④在我們使用的技術和我們開展的業務中擁抱責任,透明度和安全性。
(わたしたちが使用する技術と私たちが進める業務において、責任、透明性、安全性を確保する)
とりわけ、①と②に挙げられているように、音楽業界における利益性や資産流動性を高めることが目指されているようです。
こうした目的については、「數位時代」に掲載された別の記事のなかで、CMEの創業者である趙易天さんが、以下のように語っています。(リンクの写真の方が趙易天さんです)
第一是只有產業內的資本在流動,缺乏產業外的資本或公眾資本,導致資金規模有限,產業成長空間也跟著受限
(第一に、業界のなかだけで資本が流動していて、業界の外の資本や公共資本が足りていないので、資金規模が限られていて、業界の成長の余地が限られている)
第二投資標的過於傳統,大部份的投資者還是習慣投資在當紅明星或知名製作人身上,新進音樂人很難獲得資金,也就比較不容易揮灑腦海中的創意
(第二に、投資対象が伝統的に過ぎ、多くの投資者は人気のあるスターかよく知られたプロデューサーに投資し、新たな音楽人は資金獲得が難しく、存分に捜索することが難しくなっている)
音楽業界における資金流入の限界と資金の偏在が課題として意識され、こうした課題を解決するための方法として、上に挙げたようなプラットフォームの構築が目指されているということですね。
こうした課題を見ると、以前、記事として取り上げた映画業界におけるSELFPICKというスタートアップの取り組みと共通した課題を抱えているように感じます。
いずれもエンターテインメントにおけるクリエイター、とりわけ新進クリエイターの適切な資金調達をいかにサポートするかという課題の解決を目指しているように感じました。
ただし、そこで取られた方法はそれぞれに異なり、SELFPICKがトークンエコノミーの構築による解決を目指した一方で、CMEの取り組みはトークン発行ではなく、音楽コンテンツに付随した証券の発行・取引プラットフォームの構築を実現することで、課題の解決を目指そうとしています。
先に挙げた「數位時代」の記事のなかで趙易天さんは、プラットフォームをブロックチェーン上に構築する理由として、「主要是解決信任問題,並非是發行虛擬貨幣(主にコンセンサスの問題を解決することにあり、仮想通貨を発行するわけではない)」と語っています。
このあたりは、SELFPICKの取り組みと同様、業界を支えるファンやステイクホルダーをいかに引き寄せるかということに意識があると思いますが、同時に、仮想通貨というものに対する警戒感も滲んでいるのかなと感じました。
そうした考え方のもとで、今回のプラットフォームによる課題へのアプローチが採用されているのかなと感じます。
趙易天さんは上に挙げたような視点と合わせて、「音交所以共識、流動性、社群作為歌曲價值增長的三駕馬車(プラットフォームはコンセンサス、流動性、コミュニティが楽曲の価値を向上させるトロイカ)」だと語っています。
映画業界における取り組みもそうですが、コンテンツを生み出すクリエイターを支えているのは、そのコンテンツに資金を出すファンの存在に依るところが大きいはずです。
こうしたエンターテインメント業界には、伝統的にファンによるコミュニティが多様な形で形成されていますから、そうした構造をより再編・再構築することによって、上に挙げられていたような資金調達の問題などを解決し、業界の活性化を図っていこうという意図がうかがえます。
ブロックチェーンという技術が持つ特性は、ALISもその一例であるように、コミュニティを構築し活性化させる方向に作用する、あるいはそのように作用させうるものだとすれば、エンターテインメント業界がこの技術に注目することは自然な流れであるように感じます。
もちろん、コンテンツのあからさまな収益化が従来のファン層にどのように作用するかは不透明ですし、コンテンツの権利を売買するような仕組みが思惑通りに業界の発展へと進んでいくかということについても、欧米諸国の権利売買の状況などを思い浮かべれば、難しい側面もあるだろうと思います。
ただ、今はこうしたブロックチェーンを利用したサービスが生み出されていく黎明期ですから、こうしたプロジェクトが実際にうまくいくかどうかは、動き出してみないとわかりません。
エンターテインメント業界におけるクリエイターとコンテンツの権利をめぐる取り組みがそれぞれにどのように展開していくかということと合わせて、音楽業界における動きもコツコツと追いかけていきたいと思います!
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