ブロックチェーンは民間のサービスとして活用されるばかりではなく、公的なシステムのなかに組み込んでいくような取り組みも多様に展開されていますね。
たとえば、「スマートシティ」や「スマート政府」の実現という課題のなかに、ブロックチェーンを活用したシステム構築が含まれていたりします。
より具体的には、申請手続きや文書管理のスマート化などに加えて、投票システムにブロックチェーンを活用しようという試みが提案されています。
投票×ブロックチェーンについては、MALISさんやうめ吉さんが記事にされていますね。
今回は、韓国の政党がブロックチェーン開発企業と提携して、党内の投票システムをブロックチェーンによって構築しようという試みが報じられていましたので、書き留めておきたいと思います。
・自由韓国党がブロックチェーンで投票システムを構築?
・ioeXってどんなスタートアップ?
・ブロックチェーンを介した地域間提携は進む?
台湾のブロックチェーン専門ニュースサイト「動區BlockTempo」が2019年2月1日に掲載した記事によると、韓国の最大野党である「自由韓国党」が台湾のスタートアップである「ioeX」と提携して、ブロックチェーンを活用した投票システムを構築することを明らかにしたそうです。
記事によれば、自由韓国党は今回の提携によって、以下のような展開を考えているようです。
このブロックチェーン投票システムは今年の3月中に自由党党内の青年委員選挙で正式運用する予定で、将来的には各投票活動や党内の活動情報の公表で広範に使用を続けていきたい。
(此區塊鏈投票系統預計在今年 3 月中旬的自由黨黨內青年委員選舉正式啟用,未來將會持續廣泛使用於各式投票活動和黨內活動消息發佈。)
合わせて、ioeXの創設者でCEOの洪啓淵さんは、以下のようなビジョンを示したということです。
投票システムはひとつのきっかけでしかなく、後々にはioeXのネットワークとデュアルブロックチェーンシステムの応用を絶えず拡大させていく。たとえば、候補者の公約や演説はアプリネットワークの一時的な保存機能にとても適していて、コンテンツアドレッシング機能を通じて、ユーザーはブロックチェーン上では記録できない画像や動画を探すことができ、候補者の公約や過去の実績を知ることができる。
(投票系統只是一個開端,後續將會不斷地擴大 ioeX 組網和雙區塊鏈系統的落地應用,例如參選人的政見或演說,就非常適合應用組網中的暫存功能,透過內容尋址功能,用戶可查詢到無法紀錄在區塊鏈上的圖片與影片,進而了解參選人的政見或過往事蹟。)
やや技術面への言及が目立ちますが、まずは今回の自由韓国党とioeXとの提携が、投票システムの構築にとどまらない、ブロックチェーンの広範な活用を意図していることがわかりますね。
ちなみに、ここで言及されている「デュアルブロックチェーンシステム」については、「パブリックチェーン(公鏈)」と「コンソーシアムチェーン(聯盟鏈)」を並行して活用するシステムだと触れられています。
具体的にどういうシステムかということについては、ioeXが開発している技術を見てみる必要がありそうです。
ioeXについては以下の記事に書き留めましたが、台湾の世界的なODM /EMS企業である鴻海グループの技術者を中心に創設された、IoTに焦点化したソリューションの開発を展開しているスタートアップです。
具体的には、エラストスというブロックチェーン開発プラットフォームを活用する形で、「分散型P2Pネットワーク(Decentralized Peer-to-Peer Network、去中心化的點對點直連傳輸組網)」を構築することで、IoTの運用にかかるコストの削減とトランザクションをめぐる課題の解決を目指しているプロジェクトだといわれています。
このあたりのことについては、ioeXの公式ウェブサイトに以下のような紹介動画が掲載されています。(以下は英語版ですが、中国語版もあります)
動画を見ると、世界中に分散的に設置されている「ノード(節點)」を結びつけ、そのネットワークを活用したクラウドを構築することによって、トランザクションスピードと情報処理の安全性を向上させようという取り組みであることがうかがえます。
一見すると、IoTの発展に対応した技術を開発するスタートアップが投票システムの構築を担うというのは、話がつながりにくいように感じるかもしれません。
ただ、その基盤となる技術で実現しうる処理速度の向上と安全性の確保が、確実な投票システムの構築に必要とされたということだと捉えることができそうです。
実際に、先に挙げた「BlockTempo」の記事には、自由韓国党の院内代表である羅卿媛さんが「ブロックチェーンのトレーサビリティや改竄できないといった特性は、党内の投票選挙をよりスムーズにおこなうことに役立つ(區塊鏈的可溯性、不可篡改特性,可以協助黨內的投票選舉更加順利)」と述べたとあります。
ioeXのどのような技術が自由韓国党に求められているかが、このコメントからうかがえますね。
メインストリームにある保守政党であり、ハンナラ党・セヌリ党時代に政権与党としての経験も豊富な自由韓国党ですが、最大野党としての現在の支持率はやや厳しいという報道もあります。
こうした情勢のなかで、ブロックチェーンを目に見える形で積極的に活用していくという姿勢を示したことは、党の活動に一定の注目を集める材料として機能したところがあるようです。
また、その技術的な提携相手が韓国内の企業ではなく、台湾のスタートアップだったということで、台湾の大手紙である「自由時報」のウェブサイトにも記事が挙げられているように、台湾のメディアの注目も集めています。
以下の記事でも少し触れていますが、台湾と韓国では、ブロックチェーン関連の交流が活発におこなわれている印象があります。
今回の提携も、そうした従来から展開されてきた交流が結実したもののひとつだと捉えることもできそうです。
ブロックチェーンの技術開発は世界各国でさまざまなセクションで展開されていますから、こうした技術を介した地域間の提携はこれからも進んでいくように感じます。
こうした提携の動きにも注目しながら、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!