大日本印刷と凸版印刷(大凸)は世界的にも珍しい総合印刷会社である。出版印刷、商業印刷、パッケージ、エレクトロニクス。これらすべてを手がけている企業は世界に類を見ない。出版印刷なら出版印刷、商業印刷なら商業印刷、海外企業はみな専業ばかりである。なぜ、大凸が総合印刷会社になりえたのか、この疑問にバシッと答えられたら非常にカッコいいのだが、残念ながらよくわからない。
総合電機メーカー、総合家電メーカー、総合重機メーカー、考えてみると日本は総合と名のつくセクターが少なくないように思う。しかし、総合電機メーカーの代表格である日立製作所、東芝、三菱電機、日本電気、富士通の5社が多角化路線を改めてそれぞれの強みにリソースを集中する動きを見せているように、総合が美名と評価された時代はもはや過去の話なのかもしれない。
総合印刷会社である大凸はまるで双生児のようだ。売上規模は直近でいずれも約1兆4,000億円。事業ポートフォリオも酷似している。女性誌には大日本印刷が強い、男性誌には凸版印刷が強い(逆だったかもしれないが)とか、フォトマスクは大日本印刷が強い、反射防止フィルムは凸版印刷が強いとか、多少の差異はあるけれども、大日本印刷が手がけているものは凸版印刷も手がけている。
にもかかわらず、大凸は必ずしも仲良しではない。むしろ反駁し合う仲と言っていいかもしれない。今は社長もそれぞれ交代したが、大日本印刷の中興の祖である北島義俊会長が社長時代、凸版印刷のトップと顔を合わせたのは、凸版印刷が創立100周年に当たる2000年に設立した印刷博物館の記念式典のただ一回きりと言われた。互いの経営陣がもう少しコミュニケーションを図れる関係にあれば、シャープに言われるがまま液晶カラーフィルターの新工場を両社が揃って堺に建設し、結果的にオーバーキャパシティで減損に追い込まれる事態もあるいは避けられたかもしれない。
凸版印刷が抱える課題とは何か。簡単に言えば、成長性と収益性である。特に収益性についてはROEが5%を上回った試しがない。低ROEは今に始まった話ではないが、株式市場からの風当たりも強まっているだろうから真剣に向き合わなければならないだろう。大日本印刷も全く同様である。
個人的に課題と感じるのは国内の工場である。出版・商業印刷の需要が縮小していることに今さら説明は不要と思われるが、一方で印刷工場が本格的に集約されている印象はない。実際、有価証券報告書を見てみると、印刷工場の数は大凸ともに10年前から大きく変わっていないことに驚く。かつては出版印刷と商業印刷で縦割りであった工場を共通化することで稼働率の平準化は図られていると思われるが、そもそも工場の数自体を減らすことによってコストの削減と資産効率の向上を図るべきではないかと考えている。