忘れ物

Cure, Drug, Cold, Dose, The Disease, Pharmacy 59223

 ある月、ある日、ある時刻。町から外れたところに八百屋あり。主人は店で薬袋を見つけたり。こは何処ぞの何某の忘れ物なり。無為に忘れて正しく忘れ物なり。さでなくば贈物と呼び難い不審物なり。すぐに取りに戻りなむと店主は待ちたり。さればとて小一時間過ぎしもかの者、一向に顔を出すことなし。 
 「あの薬は何であろうか」 
 店主は風邪薬や抗アレルギー薬、流行りの有象無象の精神薬など種類の多きにうんざりしつつ薬への考えを巡らすも得心へは未だ至らず。 

 見知った客、来たり。缶詰をたくさん買う姿が奇異に写り店主は書かれている文字を読みたり。鰯や秋刀魚など青魚の缶詰なり。店主は物忘れの薬との閃きたり。老いも若きも人は誰しも度忘れするなり。仕方なきことなり。店主清々しくなりて束の間、また考え事をしたり。 
 「薬袋の主人の度忘れの度合いはいかほどであろうか。激しい度合いではなかろうか」 
 店主はこう推察したり。あの薬袋、ついうっかりの忘れ物にあらず。自らわざと捨てる如くにして置いて去りたり。忘れずの効果激しく日常の全てを逐一憶えたりて記憶疲れの作用がありなむ。 

 他愛なく不毛な思考によりて時、過ぎし。一刻の後に店主が思考を費やしたる張本人現れたり。黙ること敵わぬ店主は薬袋の中身を問いて忘れ物の持ち主答えたり。 
 「目薬を忘れたんです」 
 互いに単純な答えと身近な処へはなかなかに届き難しと寄り合いて笑いたり。

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2019/11/12 14.54 ALIS 0.00 ALIS
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