仮想通貨な世界 35話


34話

涼太と京一郎の確執の原因であった試験の不当な評価。

低評価を涼太につけ続けた京一郎の真意とは?



次の日、部室に向かった。

ただ人影はなく、桜の姿は無さそうだった。

「珍しいな」

鍵ってどこに取りに行けばよかったんだったっけ?ほぼ桜がこの作業をしてくれているので、簡単な作業もなかなかにおぼつかなかった。

とりあえず寒い。

すぐに暖房をつけ、マグカップコーヒーを二つ取り出してコーヒー作りに取り掛かった。

まだ彼女が来る気配はない。

ゆっくりとコーヒーを味わいながら昨日のことを振り返っていた。


「作り上げられた天才か」ぼそりと言葉に出た。

それが京一郎に対して改めて感じた評価だった。


コーヒーをもう一口につけた。

いつもに増して、苦みの部分だけ舌の感触に残った。

しばらくしてマグカップの底が見えてきた。

もう一つのカップからの湯気も消えている。


今日彼女は部室に来ないのだろうか?


昨日桜とは歯切れの悪い別れ方をしていたので、本当は来てほしかった。

でも彼女にだって気分が乗らない日も、当然あるだろう。


そう諦めをつけて、時計に関する参考書を取り上げたその時。


ブルルルルル…、ポケットの中のマイナンバーカードが振動した。

「もしもし」

マイナンバーカードに耳をあてると、元部長からだった。

「朝早くからすまない、今大丈夫かい?」

「ええ、ちょうど部室にいています。どうしたんですか、切羽詰まった感じで。

急用ですか?」


「ああ…」

彼の言葉が急に詰まった。

「どうしたんです、とりあえず落ち着いて」俺はなだめるように声をかけた。


「桜くんが倒れた」「はい?」

「桜くんが倒れた」二度目でようやく脳に言葉の意味が染み込んできた。



俺はカードに耳を押し付けたまま、部室を飛び出した。


昨夜の雪で覆われた桜の木が、息苦しそうに雪を地面に振り落とした。

その光景が消え失せそうな桜の姿と重なった。


俺は走る速度をあげていった。


「病院はどこですか?」

息が上がっていたが、それでもカードの向こうに届くように、力強く質問を投げかけた。


次回もお楽しみに!

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公開日:2018/12/06
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  • とけい
  • @nonbiritokei
Voenistaのとけいです。評価経済に関する小説「仮想通貨な世界」も現在連載中です。物書きです。
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