<20話>
初めての個人トークン評価試験。
手ごたえを感じた涼太に、試験官である京一郎が下した評価とは…?
あの日以来、
作業場は部室となった。
居場所は確保できても、教材がない。
それが専らの悩みだった。
「京一郎さんのと同じ本を買ってきたら?」
桜の助言のまま、とりあえず外に出てきた。
今まで、あいつの部屋に転がっていた本を
拾い読みしていたから何も困ったことはなかった。
逆に言えば、それ以外の勉強する術を
俺は全然知らなかった。
蝉の鳴き声が鬱陶しい。
今の心にはよりキンキンと響いた。
歩いていると、首筋にスッと汗が流れ落ちてくる。
とりあえず、近くの大型書店に入り徘徊する。
全く見つからない。
そもそも、腕時計制作に関するコーナーすらない。
店員さんに
「腕時計の技術に関する本はどこにありますか?」
と聞いてみた。
「技術ですか?いや無いですねえ
…書店のコピー機で腕時計を作られてはどうですか?」
困り顔で、軽くあしらわれた。
その態度にこれ以上質問しても、無駄だと感じた。
「ありがとうございます」
軽く会釈して、違う場所へと歩みを進めた。
仕方なく、他の本屋を探しながら、練り歩くこと数時間。
蝉は相変わらず、甲高い声で鳴いている。
命を削るように。
汗が先ほどに増して、ダラダラと流れ出てくる。
大通りよりも、路地の方が涼しいかもしれない。
ルートを大通りから路地に転換してみる。
すると、古汚い喫茶店が目に入った。
見た感じ、かなり古いただの家だ。
看板も目を凝らさないと読めないくらいぼやけている。
とりあえず、暑すぎる。
飲み物が欲しい。
その一心で、この家のような店に入った。
「いらっしゃい、コーヒーでいいかな?」
髭をこれでもかと蓄えたマスターがすぐに聞いてきた。
「はい、アイスコーヒーで」
「もちろんだよ。君の汗がそう訴えかけてきているよ」
「ありがとうございます。ここは喫茶店…でいいんですよね?」
「ああ、まあ物好きのたまり場になっているがね」
髭を触りながら、マスターは俺の腕時計を凝視していた。
「君、珍しい腕時計をしているね?」
スッとアイスコーヒーを差し出された。
「はい、これでも時計職人の端くれなんですよ」
髭を触っていたマスターの手が止まる。
「なんと!」
その一言だけを残し、マスターは小走りで奥に下がっていった。
すぐに出されたアイスコーヒーを嗜んでいると、
小走りのマスターは
小さな木箱を抱えて帰ってきた。
「ぜひこれを見てほしくてね」
そっと、マスターが木箱を開く。
そこには、旧式の日本語で刻が刻まれている腕時計が一つ。
みるからに、そこら辺の作品とは違う異質な雰囲気を感じ取れた。
これは…?
「天才・金井京一郎の初作品 時(とき)だ」
そう説明してくれたマスターの息は上がっていた。
運動不足だな、これは。
もう一度腕時計を凝視する。
その美しさもさることながら、彼との縁の深さを感じるしかなかった。
残酷すぎるくらい正確に、
その腕時計は緻密に時を刻んでいるように感じた。
次回もお楽しみに!22話へ
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