<15話>
涼太は悪戦苦闘しながらも、
独自の勉強スタイルを確立していく!
その中で、
教科書に関して少し愚痴がある涼太は
京一郎に相談すると、
トップランナーを走る京一郎なりの持論を聞くことになる。
ドタバタしながらも一週間は、矢のように過ぎていった。
時計制作にのめり込めた。
その充実感に、身体は喜んでいた。
一方で前に進んでいるという感触はなく、心は震えていた。
京一郎との差に、焦りばかリが募っていた。
身体と精神のバランスは不思議なくらい解離していた。
桜はひらりひらりと地面に落ち、新緑が芽生えだしていく。
今日は久しぶりに違う方面の電車に乗り込んだ。
図らずも、京一郎と偶然同じ電車に乗り合わせた。
何も言わずとも、覚えてくれていたみたいだ。
サークル存続に一歩近づいたと安堵した。
安心感もあったので視線を外に移し、
ボーっとドアから景色を眺めることにした。
すると
「コツッ、コツッ」
下駄の音が近づいてきた。
「京一郎、忙しいのにすまないな」
視線は内に戻さなかった。
下駄の音だけで、彼だと判断した。
「おはよう。無知の知を教えてもらった抽象絵画には非常に興味があるんだ。
僕はいつまでも無知の賢者でいたいんだ」
横顔の俺に、また呪文のような言霊を時計職人は放った。
景色が移り変わっていく。
天才の知識もこのくらいの早さで移ろい、蓄積されていってるんだろう。
「絵画印象派研究会」の部室につくころには、
下駄の音がこの世界と同化し、
耳障りな雑音からハーモニーに昇華していた。
終盤は下駄の音に合わせるように、自然と歩みを進めていた。
扉の前に差し掛かる時ふと思ったことがあった。
「そういや部室の扉が開いてないんじゃないのか…」
でも、生じた懸念は内側から聞こえる物音で
すぐに払しょくされた。
「誰かもう居るみたいだね?」
「ああ、そうだな。桜であってほしいよな」
「そうだね」
和服に引っかからないようにドアの取っ手を掴んでいるのが、
なんだかおかしく思えた。
部室に入ると
男性が、そそくさと段ボールを作っていた。
「なんだ部長か…」
思わず本音がこぼれた。
「なんだ部長かとは失礼だな。
せっかく君たちのために部室を開けて待ってたのにさ」
柔らかい笑顔だったが、
手つきは忙しそうにせかせかと動いていた。
「部長、忙しいんですか?」
「ああ、来週渡米しなくちゃいけなくてね。ちょっと部室の物も持っていこうと整理していたんだ」
「へえー、結構外国とか行かれるんですか?」
コツコツと下駄の音は、俺の耳から遠ざかっていく。
「これで、記念すべき10回目だね。何か今回は、成果が得られればいいんだけどねー」
困り顔を浮かべながらも、部長はその手を休めなかった。
「部長の絵に関する都合ですか?」
「もちろん、そうだよ。トークンの価値をしっかりと上げていかないとね」
トークンの価値について深堀りしようとしたその瞬間、
「なんだ、桜くんいたのか!」
下駄の主が、部屋の奥の方で突然叫んだ。
向 桜は、
まるで自身も作品になったように静かに
それでいて情熱的な絵画を黙々と
部室の片隅で描き続けていた。
次回もお楽しみに!17話へ!
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