<19話>
評価目当てに「絵画印象派研究会」に入部したい者たちが部室前に押し寄せる。
涼太は彼らを見てこう思った。
他人の評価を貪るゾンビだと。
絵はそれなりの禍々しさを帯びた作品が仕上がった。
その出来上がった1枚を睨みつけるように凝視した。
こんな風にはならない。
いつもはイラストを電子化するが、この絵だけはしなかった。
ゆっくりと日は流れていく。
穏やかな春の風が、湿気っぽい風に変わってきたある日、
とうとうその日は訪れた。
「第一回個人トークン評価試験」
初めての試験は、大学監修のもとオンラインで行われた。
どれほど、自分の実力が伸びたのか楽しみで仕方なかった。
試験内容は直前まで知らされず、教室に入ってから初めて知ることとなった。
まずは、実技試験。
筆記試験。
そして、試験官とのオンラインでの面談。
試験官は、直前まで誰だか知らされない。
試験内容に面談があることは少し意表をつかれた。
そんな対策、微塵もしていない。
まあ、いいか。
目の前の試験に集中しよう。
今の俺ならいけるだろ。
日が昇りきる前から試験が始まり、
筆記試験が終わったころには、窓から夕陽が差し込んでいた。
最後の、試験官との面談。
黒板を凝視していると
「やあ、お疲れ」
聞きなれた声が画面を通じて伝わってきた。
見慣れた和服に丸渕眼鏡。
「なんだ試験官、京一郎か」
これなら、評価も普通に上がるだろう。胸をなでおろした。
どんな質問が飛んでくるのかと思ったが、
いつも通りの他愛のない話をして、面談の時間は終わった。
これはいけるな、
試験の出来に、充実感が溢れていた。
試験の結果の知り方は、即日反映されるトークンの価値で分かるとのこと。
試験の点数などは一切公表されないけど、厳重にブロックチェーン上に保管されるため、改ざんの心配はない。
次の日ウキウキで電車から降りて、
大学までのトークンの消費量を確認してみる。
「240トークン」
あれ、変わってなくないか。
その日は、気のせいという気持ちもあり、京一郎の家で粛々と作業に励む。
ちなみに、京一郎は多忙のため不在である。
場所だけを借りているという状態が、ここ最近の当たり前になっていた。
翌日、もう一度しっかりと確かめてみる。
「240トークン」
なんでだよ。
その日、多忙を極めている京一郎が日本に戻ってくる。
そのことだけはしっかりと把握していた。
先に作業部屋に待機して、心を落ち着かす。
が、怒りの渦に身体が飲み込まれる。
ガチャっと部屋の扉が開いた。
「試験の結果どういうことだよ」
怒りのあまり声が少しかすれた。開口一番怒りが溢れてしまった。
「やあ、涼太。久しぶり。
試験の評価は、友人とかは抜きにして適切な評価をしたまでだよ」
「なんの成長もしてないってことかよ?」
「成長はしているけど、欠けているものがある。その評価をしたまでだよ」
飄々と心無い返答が、耳から心に蝕んでいく。
「ふざけてんのか」
和服の胸倉を掴んだ。
「間違ってるだろ、評価の仕方」
怒りのあまり、声が上手く出せなかった。
彼は、ゆっくりと俺の手を振りほどいた。
「僕の評価が気に食わないならそれでもいい。ただ、この事を理解しないとこれ以上、君は上には進めない」
ふざけんな。
その日以来、彼の家には行こうと全く思わなくなった。
自力で何とかしてやる。
次回もお楽しみに!21話へ
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