部室の中には黒髪の綺麗な女性が。
彼女の名前は向桜。涼太と金井の共通の幼馴染であった。
涼太はそのことを思い出し懸命に話すが、桜は一向に思い出さない。そのことに切なさを感じながらも、先輩の部の存続危機の話から部を引き継ぐという一大決心をする!
その一言に、皆がそれぞれの表情をみせる。
先輩は、驚きを。
和也は戸惑いを。
金井は好奇心を。
桜は不安を。
その感情のキャンパスが、部屋の空気感を新たにデザインしていく。
不思議な空間が形成されていく。
「金井と桜がもし入部したい気持ちがあればだけど」
そっと、そう付け加えといた。
一週間後の今日に、入部希望の者はまたここに集まることにしようということになった。
全員が集まれば、部として活動。
誰かひとりでも欠ければ、部としての活動は出来ない。
それでも、恨みっこはなしと。
「考えさせて」
去り際の桜の一言に、既視感を覚えた。
幼い頃にも言われた気がする…
期待と不安と入り混じる一日は、あっという間にすぎていく。
次の週になり、いよいよ大学での授業が始まった。
そういえば、時計の技師に関する学科は俺と金井の二人だけ。
今時、コピー機で腕時計なんかすぐに作れるし人気ねーよなー。
時計技師の先生って、いるのか?
ふと、そんなことを考えながら指定された教室にとりあえず入る。
…せまい教室だな。
しばらくして、金井が入ってくる。
「おはよー」
「はよー」
挨拶もほどほどに、始業のチャイムが鳴る。
一行に誰も来る気配がない。
「…あれ、先生おせーな」
少しいら立つ。
するとスーッと金井が教壇の方へ歩いていく。
和服が床に擦れている。
教壇に彼は立つと
「言ってなかったっけ?涼太の先生は僕だよ?」
意味が分からなかった。
「は?金井も生徒だろ?」
「そうなんだよ、生徒だけど先生なんだ」
おもむろに教員給料用のトークンを見せてくる。
意味をすぐには飲み込めなかったけど、
よくよく考えたらこいつ以上の先生なんか
早々いるはずもないなと納得した。
「金井先生、何かルールはあるか?」
「先生はやめてくれ、あと京一郎でいいよ」
それが、このクラスに決められた唯一のルールだった。
「あと、この教室じゃ何にも出来ないから明日の授業から僕の作業場ね」
あくびをしながらぶっきらぼうな先生はそうぼそりと呟いた。
こうして、京一郎の自宅の作業場が授業の場となった。
基本的に、彼は何も教えてくれない。
じっと、京一郎の作業の様子を眺める。
疑問に思ったことをメモする。
その疑問を、そこらへんに転がっている専門書をひたすらめくり調べていく。
この繰り返しが授業の日常だった。
それでもこの日々は俺にとってすごく楽しかった。
一流のモノがカタチになっていく過程を見ることが出来たのは本当に大きい。
俺の時計技師に対する情熱はより燃え上がっていった。(続)
次回もお楽しみに!→15話へ