<22話>
マスターと談笑している最中、涼太は奥に本が並べられたコーナーがあることに気づく。
面倒見の良いマスターは、出会った記念だと涼太にある贈り物をする…!!
「なんだこの本、まったく分からねえ…」
次の日、部室でさっそく貰った本を読んでみたが、少し滅入っていた。
いつものように横で、桜がコーヒーを注いでくれている。
もう部室の空間構成が、
桜と俺の二人で完結されていた。
「京一郎さんの家には最近行ってないの?」
コーヒーを差し出しながら、顔を覗き込んできた。
「ああ、考えが合わなかったんだ」
今日のコーヒーが美味い。
そこから、以前の試験の経緯をさらっと説明してあげた。
京一郎が下した評価に、全く納得できないことも。
説明しているだけで、また少し怒りがこみ上げてきそうになった。
コーヒーをまた少し飲んで、心を落ち着かせる。
「私も評価上がっていなかったし、下がってた人もいるんだよ。ちょっと感情的になりすぎじゃないかな」
「いや、俺はあれだけ頑張ったんだ。その事はあいつが一番よく知ってる」
桜はゆっくりとマグカップを机に置いた。
「でも、まだ3か月くらいでしょ?これからの期待も込めて、現状維持にしたんだよ」
「いや、そういう意図には思えない」
やっぱり納得できなかった。
腹がまた立ってきた。
「じゃあ、京一郎さんに認めてもらえる作品を作らないとね!!」
いつも彼女は前向きだ。
怒っている気持ちが
その明るい笑顔に徐々に浄化されていく。
「ありがとう」
たまには、全力の笑顔で彼女に応えてみた。
カランコロンカラン。
店特有の鈴がこの間同様、出迎えてくれた。
「いらっしゃい、おお君。また来てくれたんだね」
「ええ、この本の勉強法を教えていただきたくて」
「思ったより、勉強熱心なんだね君は」
「思ったよりとは何ですか」
少しムッとなる。
「いやいいことだ、今日は前見ていなかった場所へ案内してあげよう」
マスターは相変わらず下髭をさすっている。
俺の気持ちにはお構いなしで、入口すぐ横の階段を登っていく。
そのまま、二階に案内された。
時計の機材に、大量の書籍。
木目調に統一された職人の仕事場が目の前にあった。
この感じ。間違いない。
「マスター、腕時計を作られているんですか?」
「昔はね。その【紛い者】みたいなことしてたよ」
この言葉とは裏腹に、綺麗に整理整頓されている。
工具から器具まで、まるで昨日使ったかのようだった。
きっと、マスターは今も時計制作に関する熱があるのだろう。
なにも語ってくれなくとも、この場所の空気だけで感じ取れた。
「涼太くん、こんなところでよければ、何か教えてあげようか?」
ほんとか!
これは願ってもない提案だ。
「ぜひ、お願いします!」
「ただし、授業料は払ってね」
「え…はい。分かりました。でも、今の評価だと支払いきれるかどうか…」
マスターは横にある電子機器を目の前にボンと置く。
「一度、マイナンバーカードをここにかざしてみなさい」
「ピッ」
「うむ、君のトークンの価値では全く足らんな」
マスターは含み笑いしているように見えた。
くそっ、あいつのせいで
この貴重な機会も不意にするのか…
やっぱり京一郎にもう一度抗議しに行こうか。
「どうした、ふてくされたような顔して。
全くトークンが足らないなら、やることは一つだろう?」
含み笑いから満面の笑みに変わっている。
「どうすれば教えてもらえますか?」
お辞儀をしながら訴えかけた。
少しの沈黙が流れる。
「ふむ、明日からここでアルバイトとして働きなさい」
予想外の提案だった。
頭をあげると、気の早いマスターは、
そそくさとエプロンを差し出してきていた。
次回もお楽しみに!24話へ!
「仮想通貨な世界」登場人物&世界観
「仮想通貨な世界」1‐20話