仮想通貨な世界 36話

35話

翌日、部室にきた涼太は珈琲を飲みながら昨日の話を懐古する。

桜は珍しく来ていない。

2つのマグカップに珈琲を注いで、彼女の到着を待っていた。




全速力で大病院の入り口に突進していく。

入ってすぐ受付の看護師に、ほぼ怒鳴り声で質問をした。

「桜は!向桜さんの部屋はどこですか?彼女は大丈夫ですか?」

俺はよほど切迫した顔をしていたのだろう。

「少々お待ちください」

看護師は、早急に院内で連絡を取ってくれた。


しばらく貧乏ゆすりを止めることが出来ない足を叩きながら、

その場で立ちすくんでいた。


受付の方は小型の電子機器で連絡を取り終えると、安堵した表情をこちらに向けてきた。

「どうでしたか?」

「大丈夫ですよ、ただの過労だったみたいです。部屋の番号をお伝えしておきますね」


なんだ、過労か。こないだのICOの発表かなり緊張していたもんな…。その疲れが一気に出たのかもしれないな。


貧乏ゆすりが止まった足を軽快に動かしながら、桜のいる病室へと向かった。

向かうまでの道中、行き交う看護師や患者が物珍しくて不思議だった。

俺は元気だし、頑丈だから大病院なんて来たことない。


初めて見る光景だった。

それとなくどこかみんな悲壮な目をしているように思えた。

もう先が長くないのだろうか。


いろいろな人物を眺めていると桜の病室の前まで、すんなりたどり着いた。


完全個室のようだった。

一応ノックしとくか。


コンコン。

「はい、空いてますよ」彼女の甲高い声ではなく、男性の低い声が返ってきた。その声に懐かしさを覚えた。


いや、まさかな。声が似ているだけだろう。


ガラッと扉を開けると、ベッドで眠り込んでいる桜と父らしき男性。


俺には父に見えなかったが。

「向先生!どうしてここにいらっしゃるんですか?」

「桜の父だから決まっているからじゃないか。それより涼太、マイナンバーカードの個人トークンの価値は分かってきたかい?」

「先生、少し待って。頭の中がごちゃごちゃでよくわからねーよ」


「なんだ。桜から、父は涼太の高3の担任だったみたいな話は聞いていないのか?」

今度は先生が目をまんまるにした。

「桜から先生の話なんて聞いた事ないですよ……」

「なんだ。じゃあ幼少の頃、僕の頭によく乗っかっていた事も覚えていないのか。残念だなあ」

「あの時計博物館に先生もいたんですか?」

「そりゃ桜がいたら、先生もいるだろう。全然覚えてくれていないのか。悲しいなあ。君が高校三年生の時に担任の先生ととして再会した時には、こちらは胸が張り裂けそうなくらい嬉しかったのに」

そうか。個人トークンを決める時に、先生の視線が俺とやたらよく合っていたのは気のせいじゃなかったのか。

ずっと見守られていたんだな。

ちょっと嬉しくなった。


ただその事を口にするほど、俺は素直ではなかった。

「それより先生。桜はどうです?」

「ああ。ぐっすり眠っているよ」

桜の寝顔と父である向先生が同じ視界に入っている。

俺はその光景が奇妙で仕方なかった。


次回もお楽しみに!37話へ


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公開日:2018/12/22
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