<16話>
「絵画印象派研究会」の運命の日。
行きの電車で京一郎を見かけた涼太は、存続できるだろうと少し安どする。
しばらくして
部室に到着すると、部長がせっせと荷造りに励んでいた。
その理由を涼太が部長に問うていると京一郎が突然大声で叫んだ…!
「なんだい、金井君。突然大声上げて。
彼女は、君たちよりずっと前に来てたよ」
部長はようやく作業が終わったのか、
優雅にインスタントコーヒーを注ごうとしていた。
彼女の方に近寄ると、キャンバスに集中していた。
その雰囲気を見て、京一郎の時計制作を初めて見た時を思い出した。
何か近くにはいるのだけど、
オーラを纏った薄い膜が
彼女の周りにあるような感覚。
決して、問いかけを無視しているのではなく、
その世界に没頭しているという
目つき。
桜ももしかしたら…。
何か同じ匂い。
匂いという表現で合っているのかは分からないけれど、
俺には「天才」の匂いがした。
「京一郎」
「ん?」
「邪魔したら悪い、部長と一緒にコーヒーでも飲んでおこう」
「そうかい」
桜の肩に伸びかけた京一郎の手をそっと遮るように、コーヒーの席へと誘った。
コーヒーの香ばしい風味が部屋中から逃げ去った後、
「あれ、みなさん来てたんですか?」
ようやく桜は俺たちの存在に気付いた。
「やっとかい、桜くん待ちくたびれたよ」
扇子をパタパタと仰いで送られてくる風は気持ち悪かった。
「桜はこのサークル入部してくれるのか?」
気になって仕方がなかった。言った後に少し早まったと後悔した。
髪をクシャクシャにして少し前かがみになった。
「ははは」
「ふふふ」
向かい側に座る2人が突然笑い出す。
何がおかしいのかと顔を上げると
「入部届 向 桜」
部長が俺の前に紙を突き出していた。
横から気持ち悪い風が相変わらず俺の髪を揺さぶる。
「京一郎くん。涼太さん。これからよろしくお願いします。」
お辞儀を深々とした後、満面の笑みを俺に向けてくれた。
それだけで俺の心はとても穏やかになった。
知らぬ間に、京一郎は入部届を出していたらしい。
慌てて、入部届を書いた。
和也は練習で来れない事は知っていたので、勝手に彼の分も書いておいた。
新体制の絵画印象派研究会がこうして無事、誕生することとなった。
目まぐるしく月日は流れていき、5回目の研究会の活動の時だっただろうか。
桜から、
「なんか、私たちのサークル噂になっているらしいよ」
良からぬことを聞いた。
その真相を辿るべく、久しぶりに大学のキャンパスを歩いていると
張り出された紙が目に入った。
「サークルランキング(新入生入り最新版)」
あれ、こんな張り紙あったのか。
「桜知ってた?この紙のこと?」
「いや、私あんまりこっちこないから知らなかった」
「それより、見てよ私たちの順位!」
どうせ、下位だろ…
「1位野球部(前回1位)2位サッカー部(前回2位)
3位絵画印象派研究会(前回268位)」
あ、天才2人を部に招いたのすっかり忘れてた…
次回もお楽しみに!18話へ
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