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とけいの即興短編小説<古びた赤いセーター>

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  • とけい
  • 2018/11/03 14:03
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ー山奥のとある一軒屋ー

「赤い色の可愛らしい服を着ているじゃないか。いい色合いじゃん。でもあんな服見たことがないな。嫁が知らないうちに古着屋で買ってきたのか?」


「あらあなた、あの子が来ている服、とてもかわいらしくていいわね」

「え、君が買ってきてくれたんじゃないの?」

「いや、あんな服知らないわよ」

紛れもない2人の間の子供はこちらを見て、無邪気に笑っています。




場所は変わって、ここは見渡す限り家が立ち並ぶ住宅街。

山や川などの自然が全く近くないかわりに、教育などの施設が発達している大都市の中の一つ。

衣・食・住のサービスが完璧に整っていて、いわゆる高級住宅街と呼ばれるその通りにある一つのお宅ではあるイベントが催されようとしていました。


「○○君、誕生日おめでとう!」

その家では、ちょうど長男が小学3年生になる年齢。


ご両親は、かわいい息子のために一着の新しいセーターを用意しました。


綺麗なおろしたての真っ赤なセーター。


その子は本当に喜びました。

カッコいいと!

喜びながら、両親の期待に応えるように毎日、毎日赤いセーターを着続けました。

桜が満開になっても、木々の葉たちが枯れていこうとも。


水泳の季節以外、毎日のように赤いセーターを着ていたその子でしたが、次第にそのことがだんだん嫌になっていきました。


周りの子たちは毎日のように服を変えっこしているのに、僕だけ毎日のように赤いセーターを着ているのはおかしい。


「違う服を着たい…」


そのことを正直に両親に打ち明けました。


すると、

「このセーターは父さんと母さんを繋いだとても思い出のあるセーターなんだ。

だからお前にもこうして着せてあげているんだよ。

それにわがままはダメだぞ。その洋服がボロボロになるまでは大事に着なさい」


こう言いくるめられてしまいました。

そのため、渋々その子は赤いセーターを着続けました。


それから丸1年がたったでしょうか。


赤いセーターはすっかり年季を帯びて、おじいさんが着ているような深い味わいが出てくるようになりました。

しかしその味わいを理解するには、小学生にとっては少し早すぎたようです。


悪い意味でその子の存在感を赤いセーターが押し出してしまうようになっていました。

「赤いセーター毎日着てやんの」

最初はからかいだったその行為は、徐々にきつい当たりへと変わっていきます。


ここに通う子ども達は中学校受験は当たり前。

まだ遊びたい年盛りの子供たちにこのイジメ行為は、ストレス解消にうってつけでした。


教育機関が発達しすぎた弊害がここにありました。

とある子がリーダーになって、その赤い服の子の事をいじめにいじめました。


ある時は液体を赤いセーターにかけました。

ある時は右袖を引っ張ったりしました。


赤い服のセーターの子はとある子に対して睨み続けましたが、口に出して抵抗することはありませんでした。

そしていつの日からか学校にこなくなってしまいます。


いじめていた中心の「とある子」はおもちゃ道具がなくなってしまったと少しだけ後悔しました。


懺悔という気持ちは、当時の「とある子」には全くありませんでした。


時が経ち、とある子は無事に受験戦争を潜り抜け、立派な社会人として働くようになっていました。


営業車を乗りこなし、日夜、会社の利益をあげるために奮闘する日々。

「赤いセーター」のことなど完全に忘れ切っていました。


ある時から、小高い山の上に営業先があると聞きつけ通うようになりました。


話を進めるうちに、大きな商談が成立しそうな雰囲気を

その営業先からひしひしと感じていました。


「これはいける、早く会社に戻って資料を作成しないと」

その日は営業の話が盛り上がったこともあり、すっかり日が暮れかかっていました。


「急がないと」

とある青年は車にエンジンをかけ、けもの道をかなりの速度でかけおりようとしました。


ですがそこの道は非常に細く、車一台通るのがやっとです。

そのため早く戻りたくても反射鏡でしっかりと確認しながら、ゆっくりとしか進むことしか出来ません。


時間が一秒でも惜しい。

とある青年はそのことにいら立ちを感じ始めていました。


一度目の右折の時、

とある青年はふと赤い何かが反射鏡に映ったように思いました。


ただ、蛇の身体のようにくねくね曲る道が続くこの悪魔のような道。

また速度も比較的出していたため、そんなことは気にする間もなく次のカーブに差し掛かりました。


左折、右折、右折、左折。

何度、反射鏡をみながら蛇の道を曲ったことでしょうか。


夕陽は完全に落ち切ってしまいました。

暗闇の中それでも早く会社に戻ろうと、彼は速度を緩めませんでした。



そして11回目の右折。


また反射鏡を見た彼の眼に

蛇のように鋭い目つきで睨んでいる少年が飛び込んできました。


目を凝らすように少年を見ると、シミがついた赤いセーターを着ています。


「あの時の」

彼の脳裏に少年時代の記憶。


「いけない!!」

彼は一瞬の間、少年に気を取られてしまいました。

目の前にはガードレールがすぐそこまできています。



慌てて右ハンドルを切りましたが、なぜか車は言う事をきいてくれません。

「おい、曲れ!」

ハンドルはダメだと思い、勢いよくブレーキペダルを踏みこみました。


ですが既に車体の前部は、ガードレールを突き破っていました。

車体はガクンと重力のままに藪の中へと突っ込んでいきました。



「おい、これじゃないか?」

「ようやくあったぞ!」

「○○班、応答願います!1月11日に捜索依頼が出されていた営業車をようやく発見しました!車両の損傷がひどく、生存者の確認は今のところ確認できていません」


「巡査!死体の確認がたった今取れました!上半身のみで下が切断されており、下半身は見つかりません。

そして上半身にはなぜか、シミだらけの赤いセーターを着ています!」


「…赤いセーター?」



十年後。


「ここの土地が、今非常にお安いんですよ!自然もいっぱいですし、交通の便も悪くない。素晴らしい場所ですよ、ここは」


「ねえ、あなたここにしましょうよ!」

「そうだな」


ある二人の夫婦は自然が豊かな土地に家を建てて、暮らし始めました。

子宝にも恵まれ、ちょうど長男は小学三年生の年齢になろうとしています。


「ねえ、あなた。

赤いセーターもだけど、私があの子の誕生日のために買ってきた

新しい服のこと知らない?」

「知らないよ」

「ウソ、さっきまでここに置いておいたのに」

紛れもない2人の間の子供はいまだにこちらを見て、無邪気に笑っています。




ただ、目の奥は笑っていません。

まるで蛇のような鋭い目つきで2人を睨みつけています。




「チガウ フクヲ キタイ」







公開日:2018/11/03
獲得ALIS:35.96
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  • とけい
  • @nonbiritokei
映画好きな、酒飲み

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