<26話>
時計の設計図をマスターと桜に話す涼太。
二人の顔を見て、これはいけると確信する。
そして、時計にのめり込む日々が始まる…!
その期間、実に1年と2か月。
時計の盤面の大半は、
奥底まで見えるような透き通った水面を再現した。
そして、残りの盤面で三日月を映し出した。
その名は「水月」
「水月はその名の通り、水と月です。
この作品は、京一郎にインスピレーションを受けて構想しました。
水は俺で、京一郎は月。
いずれは天才を追い越すという情熱を込めています」
その想いは盤面にしっかりと込めたつもりだ。
室内の電灯が、盤面に当たり、マスターに反射している。
「ふむ、よさそうだ。
ただ、デザインの話以前に、
少し京一郎に固執しすぎではないか?
君は何かとこだわる」
確かにそれは図星だった。
マスターの一言が、なぜか錆のようにこびりついた。
盤面の向きが少し傾いたのか、月の部分がより光り輝く。
「いえ、そんなことはないです」
そう答えたが、完全に否定は出来なかった。
窓から寒さを伝える冷気が伝わってくる。
季節は、だんだんと白みを増していく。
設計図を渡したあの日。
その頃からマスターと桜には
この盤面に秘めた想いをひたすら熱心にを語っていた。
そして、その時に決めた。
部品から全て手作りで行うことを。
「物凄く時間がかかるよ」
下髭をゆっくりとさすりながら、
一応と言わんばかりにくぎを刺された。
俺はゆっくりとうなずいた。
結果として本当に、物凄く時間を要した。
しんどかった。
それでも全ては、
オリジナル性と3Dプリンタでのコピー品との差別化のためだ。
オリジナリティーを突き詰めると、全て手作りにするしかない。
なんせ京一郎もこの方法を採用してる。
ここを譲るわけにはいかなかった。
この手法では、
天才と称される京一郎ですら
年に1本
腕時計を制作するのが限界だ。
全てが初作業になる俺は、3年は見たほうがいいとマスターにも強く言われた。
それでも、1年という期間を強く強調した。
とにもかくにも、早く世界の舞台に立ちたかった。
その想いを1年以上燃やし続けて、なんとか今日
完成にまでこぎつけた。
「とうとう自力で、腕時計を作ったぞ…!!」
誇りと自信にみなぎっていた。
その事をはやく桜に伝えたかった。
意気揚々と次の日、
完成した腕時計を手に部室へと向かった。
ガチャ…
ドアノブの建てつけが悪くなっているのか
扉を開けるのに少し難儀した。
相変わらずのキャンバスの山が出迎えてくれる。
「桜、とうとう出来たぞ」
両腕を上げながら、声をはったが、返事がない。
また、桜は自身の世界に没頭しているな。
人の気配は感じていたので、
影を確認することなく
いつもの棚のコーヒーカップに
手をかける。
ゆっくりと時間をかけて飲み干したが、
一向にこちらに来る気配は無さそうだ。
痺れを切らして、彼女の作業場へと向かってみる。
すると、そこにはいつもより大きな物影があった。
それは男性の影。
恐る恐る覗き込むと…
そこには見知った顔があった。
「部長、いらしてたんですか!!」
「君か、来ていたんだね」
相変わらず優しい笑顔をこちらに見せてくれる。
「それより、桜を知りませんか??」
「何も聞いていないのかい?
彼女は今日、自身の初ICOを行うために会場へむかっていったはずだよ」
「ICO…?」
無知な俺は、ICOの意味を全く知らなかった。
白い結晶が天から舞い降り始めた日に、桜は一大決心をしていた。
次回もお楽しみに!!28話へ
「仮想通貨な世界」登場人物&世界観