入学式の後の学科説明会で、
最優秀個人トークン保有者が3位から順に発表された。
第一位は…
「金井 京一郎」
10. 五月雨
ぶっきらぼうなスピーチが終わり、トボトボと彼は帰ってきた。
そしてイスに腰がふれるかどうかくらいで、
「それより、君の名前聞いてなかったね」
俺に声をかけてきた。
「尾上涼太だ、よろしく」
先の情報もあり、丁寧に挨拶せざる得なかった。
「うん、よろしく。それより、君はどんな時計が好きなんだい?
僕は、ジュルヌのグランソヌリなんかすごいいいと思うんだよね。
あの個性の権化っていうのかなぁ…好きだなあ、
あとは、トゥールビヨンなんかも痺れるよね。
あの複雑さを兼ね合わせた簡素さ。
やっぱり美ってのは全てをムダなモノを取り除いてこそなんだよね。
涼太くんはどう思う?」
…何言ってるのかほぼ分かんねえ…
でも、このまま分からないと素直に言うのも尺だったので、
少し意味ありげな頷きを、間たっぷりに入れた後、
したり顔で
「やっぱり、フィリップのモデルは最高だよ」
ありったけの知識を彼にぶつけた。
すると、俺の眼をまっすぐに見つめて、赤ちゃんのように無邪気な笑った。
「君もそう思うかい?」
その後、金井はおそろしく饒舌になった。
そのあとも、
10分くらい説明会そっちのけで時計の事を話していたが、
1割も金井の言っている内容を理解できなかった。
少し悔しかった。
その悔しさから、説明会の休憩時間に、独立時計師のことを詳しく調べることにした。
「独立時計師とは主に1985年に結成された国際的な組織である独立時計師協会のメンバーである時計技師を指します。ブランドに所属することなく、個として独立しながら時計技師として働く職人の中でも、「天才」と呼ばれる一握りの人たちが参加を認められる団体です。
昨今、3Dプリンタなどの電子機器で、腕時計など簡単に作れてしまいます。
ですが、独立時計師協会の天才たちが製造する時計は、オリジナルのギミックや他に類を見ない超複雑機構など、それぞれに個性があります。そのため、コピーした腕時計などはるかに凌駕します。ファンにはたまらない逸品となっており、それを作成できる天才たちの評価はすさまじいものとなっています。」
天才か…。その響きだけでも、独立時計技師になりたくなった。
そういえば、さっき金井も5作品、腕時計を発表しているって言ってたな。
「金井京一郎。その独特かつ洗練された作品の数々に、目の高いコレクターたちも絶賛しています。特に、最新作である「五月雨」はその儚さと四季の情景を時計の盤面に最大限表現されており、至高の一品と名高いです」
五月雨。なんか、もう名前がカッコいいもんな。
俺も、いつかこんな作品をつくってやろうと思う。
いや、絶対に作る!!
そんな決意をしながら、画面を再び見やる。
「五月雨の価格は、現レートで約10BTCとなっています」
…俺は、今晩、金井に晩飯をおごってもらう事を決めた。
次回もお楽しみに!11話へ