ニヒルなY氏の憂鬱<完全版>

 

 

 

※この主人公の物語はあくまでフィクションです。

決して誰かを思い浮かべながら読んではいけません。Y氏はこの小説のハッピーエンドを願っています。誰よりも。

 

という体裁で連載短編小説を書いていましたが、ついに完結しました。

それは、Y氏の頑張りによるものです。

小説としてもかなり力をいれている部類なので、是非お読み下さい。

 

なお、最終章以外は以下の記事からでも読めます。

 

それではお楽しみください。

 

 

ニヒルなY氏の憂鬱

 

「今日は楽しかった、ありがとう」

 

デートの場所にと選んだ蟹すき鍋屋は、本当に美味だった。

 

一体どこ産の蟹であろうか?

 

 

Y氏は目の前にいる女性よりも、途中から蟹の事が気になって気になって仕方がなかった。

Y氏は颯爽と女性のいない間にお会計を済まし、「さぁ行こうか」と優しい笑顔を浮かべるくらいには余裕があるいい男であった。

 

それは誰に何と言われようが絶対の基準である。

そう心の中で唱えていないと、Y氏は目の前の小柄で顔立ちが整っている彼女と横に立っている自信が保てなかった。

 

 

 

「私こそ楽しかったよ、本当に!」

女性もY氏の優しい一言に、後ろ髪引かれるようにその日は解散したはずだ。

 

 

 

事実だけ書くと、なんと幸せな出来事なことであろうか。その立ち位置を代わってほしいと羨む男子は数多くいることだろう。

 

 

 

そうであるはずなのに、Y氏の顔は一向に冴えない。別れの挨拶もほどほどに、電子機器をスクロールし始めた。少し時間が経ち、ようやくニヒルな笑みを小さな機械に向けた。

 

 

 

感情が落ちつき始めたのか、Y氏は今日の女性のことをほんの少しだけ考えた。

 

 

 

「何かが違うんだろうな。相手は僕のことを求めていないような感じもするし」

Y氏はニヒルな笑みを電子機器から虚空へと方角を変えた。容姿端麗だけではどうしても落とし込めない。彼女にしても大丈夫だ、という確証的な何かが欲しかった。

 

 

 

Y氏は恋愛に対してあまり自信がなかった。

 

 

 

女性と食事に行く機会には恵まれていても、最終的にはいつも「相手は僕のことを求めていないから」とY氏自ら連絡を、絶っていた。

 

 

そしてあっという間にクリスマスの日を迎えた。

 

Y氏の横には誰もいなかった。自室の掃除に励むことで、荒れ気味の感情を抑えつけた。それでも1人で座るにはあまりに大きいソファーを見つめていると、自然とニヒルな面持ちになっていった。

 

 

電子機器をふと覗くと、皆それぞれのクリスマスを一様に楽しんでいるようだった。

 

「来年のクリスマスのために、いま準備してるんですよ」

SNSで面白おかしく発信したつもりだったが、Y氏は心が震えていた。

 

 

 

電子機器の中は暖かい。

すぐに返ってくる皆の反応を見ているだけでも、冷たい感情は少しずつほぐれていった。

 

ふとテレビ画面からクリスマスソングが流れた。

 

 

 

Y氏は軽快な心躍らせるBGMを契機に、電子機器からそっと目線を外した。それでも電子機器の中からもらった暖かさは、まだ心の中に残っている。その余韻を味わうように、煙草をじっと燻らせた。

 

 

公開日:2019/04/11
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  • @nonbiritokei
Voenistaのとけいです。物書きです。
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