<23話>
プレゼントしてもらった本をさっそく読みにかかる涼太。
ただ、独学では無理と判断したため、再度マスターがいる喫茶店へと訪れる。
そこで出されたある提案とは?
「ありがとうございます」
エプロンを大事に受け取る。
「うちの店、働いてくれる子少なくてさ。ありがたいよ」
実際には働いているというより勉強させてくれていた。
接客など1日に5人もしていない。
ほとんどの時間を腕時計制作に関して、教えてもらっていた。
あの言葉は建前だったのか。
心から感謝した。
「まず、独立時計師を目指すためにすることはこれだな」
本の真ん中のページを開いて、指示してくれた。
「工具の作り方」
それなら。
「マスター、もう作りましたよ」
リュックの奥に眠っていた工具入れを取り出して、見せてみる。
「これは、誰かに教えてもらって作ったのかい?」
「いえ、本の知識を借りて自力で作りました」
「ほう…」
マスターは髭をさすりながら、工具を見つめていた。
店主の答えが出るまでじっと待ってみる。
「一つ聞きたいことがあるんだがいいかい?」
「なんでしょう?」
マスターは、俺の工具をそっと作業台の方に置いた。
「君は、涼太君は、なぜ独立時計師になりたいんだい?
スイスのバーゼルに行きたいからかな?」
「バーゼルってどこですか。聞いたこともないです。
俺は、自分で納得する時計を作りたいだけです。
そして、その技術で生活していきたい。
そのための一番の近道が、独立時計師というだけです」
「ほほう。もう一つ聞きたい。
君、腕時計を好きといいながら、今も腕時計を身に着けていない。
なぜだね?」
「自分が作った腕時計をつけるためにとってあります。
後、腕時計のブランドはパテックフィリップしか知らないので、
どっちにしろ買えません。今のトークンでは」
マスターが驚いたように、目を真ん丸にしている。
そんなにおかしなことを言ったか?
「おもしろいね。
君が独立時計技師になりたい理由は、
じゃああの時計博物館の思い出からかね?」
あの?
マスターの言葉に少し引っかかった。
時計博物館の話はまだしていない。
京一郎から又聞きしたのだろうか?
まあ、気にしても仕方ないか。
「はい。その思い出だけです」
どちらにしろ、俺の返事は変わらないのだから。
「…気に入った。京が君のことを目にかけている意味がわかったよ」
目にかけている?
適正なトークン評価もせずにか。
歯ぎしりを立てて、なんとか怒りを抑え込む。
「今のトークン評価は気にしないほうがいい。あんなものは飾りだ。
君は、自分で立派な工具を既に作っていた。感服したよ。心意気にもね」
マスターは、工具に語りかけるように話し続けた。
「うむ。この工具の出来ならあるいは。
腕時計制作について少し話しておこう。君、ここにすわりたまへ。」
マスターは久しぶりに愛嬌たっぷりの笑顔を見せた。
そして作業場のイスをひいて、職人の場へと誘ってきた。
次回もお楽しみに!25話へ!
「仮想通貨な世界」登場人物&世界観
「仮想通貨な世界」1‐20話