仮想通貨な世界 34話

33話

京一郎が腕時計を作った理由。

天才の過去がいよいよ明かされる…!



「ああ今日ようやく楽しくなったよ」「よりにもよって今日?」

「そうだね、涼太がようやく同じ土俵に上がってきてくれたからね」

その言葉がやけに癪に障った。


そもそも京一郎が試験の成績をもう少し上げてくれていたら、俺はここまで苦労しなかったんじゃないか。

その事を逡巡した。目の前のウイスキーを喉元に流し込む。

いつもより身体が熱くなった気がした。


それでも俺の口からは、その真意を聞こうと思ってはいなかった。

束の間、彼は再び口を開いた。

「君と仲たがいになった理由は、試験の評価に関しての食い違いからだったね」

不意打ちを食らった気分だった。その想いを本当はじっくり聞いてみたかった。


ただ自ら質問を誘導するようなことを無粋なことはやめようとグラスで口をふさいだ。

その言葉の続きをかたずを飲んで見守った。


ふと京一郎は遠くにある窓の方へ視線を向けた。

空からは、いまだに小粒の雪がひらりひらりと舞い降りてきていた。


「君は今日のICO成功で、国からも認められた人物になった。それはつまり僕の生徒ではなくなったということだ。だから僕は君のことを守ることが出来なくなる」

「守るってどういう意味だよ?守るどころか見放されたじゃねーか」鼻息を荒げて、少し反論した。


また少し沈黙の間が流れた。

バーカウンターの薄暗い照柿色の照明が、徐々に俺の心を穏やかにさせてくれる。


彼はまだ窓の方へ視線を向けていた。

「いいだろう。もう君は僕と同じ立場だ。確かに僕が君に高い成績をつけることは可能だった。そして君の成績や熱意は他の生徒と比べて群を抜いていた。だからこそ僕は厳しく評価をつけた」

「嫌がらせのためか?自分の立場が脅かされることが怖かったのか?」

彼はニヤッと笑った。

「君は出会ってからずっと職人として、いいとがり方をしている。素晴らしいことだ。本題だが、僕がもし高い評価をつけたら、おそらく君はもっと早く世に出れただろう。でもその先は戦場だ。武器をもたない状態の君は、才能の価値を安く買いたたかれてしまう。そしてトークンを買ってくれた資本家のいう事を聞くだけの犬に成り下がってしまう恐れがあった。だから君が心から誇りを持てる武器を持つまで、僕は低評価をつけ続けることにした」


ここまで聞いて、以前言われたフレーズがふっと脳裏をよぎった。

「成長しているけど欠けているものがあるって言ってきたのもそういうことだったのか?」

「そうだね。君が意志を貫くためには、それ相応の価値が必要だった。もう大丈夫だ。君は一人でも戦える。」

俺は彼の視線と同じ窓の方向へと目を向けた。

しばらく降り続いた雪は止んだようだった。


「ようやく僕のライバルが今日世に認められたんだ。これほど嬉しいことはないよ」

視線をこちらに戻して見せてくれた笑顔に俺は心底、感服した。

そして何を今までこいつに怒ってたんだろうかと自省した。


深夜遅く二人でふらつきながら店を出ると、少し積もりかけていた雪はゆっくりと溶け出していた。


次回もお楽しみに!35話へ


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公開日:2018/11/24
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  • とけい
  • @nonbiritokei
Voenistaのとけいです。評価経済に関する小説「仮想通貨な世界」も現在連載中です。物書きです。
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