電話ができない僕は理容室に２回行く。

電話が苦手だ。可能な限りあらゆる手段で回避したい。

２か月に１度くらい髪を切りに行くのだが、理容室に予約の電話ができない。

なので、一旦予約を取るために理容室に行き、その後予約の時間にもう一度行く、めんどくさい、明らかにめんどくさいのだが、電話をかけるよりはマシなのである。

電話の何がそんなに嫌なのだろう、これは多分、ちゃんと話さないといけないところなのだと思う、人と話すこと自体も苦手なのだが、面と向かって話す場合、案外ちゃんと話さなくても用は足りるのだ。

例えば理容室に予約を取りに行く場合、

扉を開けて理容室のおばちゃんと目が合う、「こんにちわー」と言われるので、（どうもどうも）と２、３度会釈をする、次に（空いてますか？）という意味でチラッと店の奥を覗くと「今ね～お客さん入っちゃってるから～、今日なら４時とかなら空いてますけど？」と言われるので「じゃあ、４時で」と答える、「わかりました、お待ちしております～」と言われるので、（また、来ます）という意味で２、３度会釈して店を出る。

どうだろうか、僕は「じゃあ４時で」しか話してないのに要件は済んでいる。直接話す場合、人は案外何も話さなくても意思疎通ができるものである。

これが電話になると、ちゃんと話さないと意思疎通はできない「あ、もしもし、予約をしたいんですけど」「じゃあ４時で」「はい、失礼します」最低でもこのくらいは話さないとダメだろう、これがちゃんと言えるのか伝わるのか僕の言い方で変だと思われないだろうか、など様々様々気になって仕方が無いので電話をしたくないのだ。

そもそも電話は掛けてからいつ相手が出るか、誰が出るかわからないのも嫌だ、こっちはめちゃくちゃ言うことをシミュレーションして息を整え、舞台挨拶のため壇上に上がる様な気持ちで電話をしているのに、１コールで出たり、５コールで出たり、出なかったりするのだ、黒ひげ危機一髪か、その間ずっと緊張してるこっちの身にもなって欲しい。その上、想定してたのと違う人が出てしまったりしたらもう、パニックである、お前は誰だ、お前のための会話シミュレーションはしていない、今準備するから一旦電話を切らせてくれ、となってしまう。

対面ならどうだろう、大抵の人はこちらがテンパっているのを察して向こうから色々言ってくれるので気が楽だ、しかし電話で、あーどうしよう、と思って黙っていたらどうなるか、え？もしもし？、と言われたりする、プレッシャーを掛けて来やがるのだ、余計に上手く話せなくなるじゃないか。

そんなこんなで僕は電話がとても苦手である。いつも行く理容室はおばちゃんが一人でやっているし電話もおばちゃんの携帯なので、掛ければおばちゃんが出るとわかってはいるのだけれども、それでもやっぱり電話は気が重いので、僕は次回も理容室に２回行く。

ニートの生態シリーズ。