わたしは都会生まれの都会育ちなのだが、たまに田舎の空気が吸いたくなる。
自分の田舎的なものはないのでどこでもいい。
ただ単純に田舎っぽさを味わいたいだけなので、なにか有名なものや場所を求めて行くわけではない。
むしろ観光客だらけの田舎だと風情というか田舎っぽさというかが薄れるのでそういう場所は避ける。
そういうわけでたまに名もない田舎を散歩しに行く。
しかし何もない田舎に行くと「あいつは誰だ、こんなところで何をしているんだ」という目で見られがちである。
村人たちのあいだで「不審者がいるから注意せよ」的な情報が回っていたこともある。
たしかに「こんななんもねえとこさくるなんて、さてはやさいどろぼうだべさ」と思われたって仕方がない。
なにしろ普段は会う人会う人知り合いなのに、今日に限っては見たことのないやつが徘徊しているのだから。
警戒されてしかるべきである。
しかし警戒されっぱなしではなんともきまりが悪い。
とりあえず笑顔で挨拶なんかをしてみるが、「こんなやつしらねえぞ」とかえって不信感を高めてしまう。
かといってだだっ広い田園地帯ですれ違った人間とあいさつを交わさないというのもなんだかおかしい。
「人畜無害」と書いたTシャツを着て行ったところでただの変な奴だし、「怪しい者ではございません」と名乗るのは怪しい者ですよと言わんばかりである。
一体全体どうすれば不審者から脱皮できるだろうか。
毎度毎度の悩みである。