前々回 BBC と NBC の例で説明しましたが、読む人の職業や所属団体によって瞬間的にこれらが何のアクロニムだと思うかは様々でしょう。
同じく前々回 PK の例を挙げましたが、旅行会社の人ならペナルティ・キックよりもプリンセス・カイウラニ(ハワイのホテル名)のほうを先に思い出すかもしれません。
我々がよく使うアクロニムに OA というのがありまして、経済界では Office Automation なのでしょうが、放送業界ではオンエアと読んで「放送」と同じ意味・用法で使います。「来月オンエアする」とか「次のオンエアで」とか。
ただし、元々の英語は on the air という副詞句です。我々は the を取ってしまってあらゆる品詞に転用するという非常に日本人らしい粗雑な使い方をしています(と私は学校で教わったのですが、最近の辞書には on air も載っているので驚きました)。
業界用語で言えば、前述の局名や団体名のアクロニムには他の分野のアクロニムと同じ文字構成のものがたくさんあります。
例えば TBS。これはお台場界隈では東京ビッグサイトなのかもしれませんが赤坂界隈では「東京放送」です。TBC はテレビの CMでは「東京ビューティセンター」ですが、「東北放送」の略称でもあります。BBCは英国では国営放送ですが日本では「びわ湖放送」です。
ATP と言えば一般的には生物の授業で習った「アデノシン3燐酸」を思い出します(ATP が ADP とエネルギーに分解されるってやつね)。ところが、我々が思い出すのは「全国テレビ製作者連盟」(Association of All Japan TV Program Production Companies)です(これも PEN と同じくらい無理がありますw)。
私自身が最近よく取り違えるのが IR で、てっきり投資家・株主への情報提供活動(Investor Relationship)だと思って聞いていたら、カジノを含む統合型リゾート(Integrated Resort)の話だったりします。
皆さんの周りにもそういうのいっぱいあるでしょう?
AV: アダルト・ビデオとオーディオ・ビジュアル(昔、文字面だけ見て変な期待をしてしまったりしましたw)
BS: 貸借対照表と放送衛星/衛星放送(私の仕事では両方使うので面倒くさいです)
CG: コンピュータ・グラフィックスと広島対巨人(あ、もう、プロ野球はあんまり見ませんか?)
CS: 顧客満足と通信衛星/通信衛星放送
DV: デジタルビデオと家庭内暴力
ETC: 高速道路のノンストップ自動料金収受システムと「その他」
HP: ホームページとヒューレット・パッカード
ICU: 国際基督教大学と集中治療室(「ICU に入った」とか言われるとややこしい)
KO: キック・オフとノック・アウト(一方は試合開始で他方は試合終了)
ML: メジャー・リーグ(野球)とメーリング・リスト
MTV: 米国の音楽専門チャンネルと日本の三重テレビ(この手のネタ、たくさんありますw)
PCB: 汚染物質と「折り返しお電話ください」
PET: 癌/腫瘍の検査方法とペットボトル
PL: 損益計算書と製造物責任と新興宗教(もうそんなに新興でもないか)
PPM: 百万分の1とピーター・ポール&マリー(フォーク・グループ)(さすがに古すぎる?)
SAS: サザンオールスターズとスカンジナビア航空(今ではサザンと略されるのが普通ですがデビュー・アルバムのジャケットには SASの文字があります)
SE: システム・エンジニアとスプリット・エンド(アメリカン・フットボール)
SP: 要人の警護官とスペシャルと大昔のレコード
WC: トイレとワールド・カップ(出た、はてしないトイレ談義!)
ちょっと考えただけでこんなにあります。皆さんの業界用語や業界団体の略称などを加えるともっと増えるでしょう。
よくこれで会話が通じるもんだと思いませんか? ──全て文脈で理解してるんですねえ。
略語を追いかけて逆に文脈というもののを思い知らされた気がします。省略が進めば進むほど文脈を読み取る力が求められますね。