カレー屋でカレー食ってたら、後から入ってきた客が「ルー大盛りで」と注文しています。
ま、言いたいことは分かりますよ。現に店員にちゃんと通じているからそれで良いのだけれど、しかし、ルーというのは本来、ハウス食品とか SB食品とかが製造販売している固形のカレーの素のことではないですか。そう、プラスティックの容器に入った四角くて焦げ茶色の練りものを固めたやつ。
私はその客にこう言いたいのです:
つまり、ナニか、君が食べたいのはルーを大盛りで、つまり通常の倍ぐらい使って、味も濃度もめちゃくちゃ濃く仕立てたドロドロのカレーか? それともカレーライスの上にあの固形のルーがてんこ盛りになっている新メニューか?
え? あれのことルーって言うじゃないですか? そんなこと言うならあれは一体何と呼べばいいんですか?と彼は言うかもしれません。
でも、ま、フツーに言うならカレーでしょ。
いや、カレーはライスの上にルーがかかってるやつで、と彼は言うかもしれませんが、それは間違いで普段我々がカレーと言っているのはカレーライスの略称であって、ライスの上にカレーが載っているからカレーライスと呼ぶのが正しいんです。
逆に言うと、ライスの上に載っているものこそが本来の意味のカレーなわけです。
そんなことを言い始めると、昭和の時代だったら必ず、「いやライスを先にお皿に盛って、後からそこにカレーをかけるんだからカレーライスではなくライスカレーと呼ぶべきだ」と反論する人がいたもんですが、さすがに最近ではライスカレーって言う人ほとんどいなくなりましたね。
ま、もしそれが正しいならライスハヤシとかライスオムとかご飯納豆などと言うべきなんですが、そんな言い方聞いたことないですもんね。
さて、話を元に戻すと、カレーライスの略称もカレーだし、カレーライスでライスの上にかかっているものもカレーなので、単にカレーと言った場合どちらを指しているか分からないから、あえてルーと言っているんだ、という反論もあるでしょう。
しかし、ルーはあくまでカレーの素の練りものであって、そのままカレーにかけるものではないのです。だいたい、我が家でカレーを作るときにはルーを使わずに玉ねぎとカレー粉と小麦粉を炒めて作ったりすることもあるのに、そういうカレーを軽々しくルーと呼ばないでほしい、と私なんぞは思うわけです。
現にお店のカレーも市販のルーなんか使ってない場合が多いですしね。それをルーと呼ぶのは如何なものかと。
そこんとこをわきまえて言い方を考えるとすると、ライスにかかっているのはソースで良いでしょう。え、ソースってコロッケとかにかけるやつ?とまた言われそうですが、それはウスターソース。たくさんあるソースの種類のうちのひとつにすぎません。
だいたい食べ物にかける液体やペーストは何でもソースと言うのであって、ウスターソースもあればとんかつソース、お好み焼きソースもあります。いや、そんな日本的かつ庶民的なもんばかりではなく、トマトソース、ホワイトソース、バジルソース、チリソース、ドミグラスソース、ベシャメルソース、クランベリーソースなどと山ほどあります。
カレーと略されているカレーソースもそのうちのひとつです。
だから、「ライスもソースも大盛りで」とか「ソースはそのままでライスだけ大盛りにして」とか言うのが一番正しい注文の仕方ではないかと思うのですが違いますかね?
ただ、この場合も難点があって、今でこそ少なくなりましたが、昭和の時代にはカレーライスにいきなりウスターソースをぶっかけて食べる人がたくさんいました。そんな人たちの固定観念からするとソースと言った場合カレーソースなのかカレーソースにぶっかけるウスターソースなのかがはっきりしません。
そんなことを考えているうちに、隣の客は私より先に「ルー大盛り」のカレーライスを食べ終わって、そそくさと店を出て行ったのでありました。