奥深い山の中の
樹木に囲まれた
ぽかりと空の開いた広い場所で
あなたは車をとめた
車をおりて
見上げると
都会では見られない
数知れぬ星が
涌いている
ここであなたは
きっと素敵に哲学的なことを言って
哲学だけどロマンティックなことを言って
私をうっとりさせてくれるはず
そう思いながら
手をつないで
あなたの言葉を待っていると
「さっきの蟹、めちゃおいしかったな」
って
何よ、それ
まあ、それも大事なんだけど
せっかく二人きりになって
ここまで抜けてきたんだから
ちゃんと私を口説いてよ
ちょっとあなたを睨んじゃった
あの星の中には
何万年も前にあの光を発したものもあるんでしょ?
私は話を振ってみる
こういうのがこの場合
しゃれた台詞というものじゃない?
そうだね
もしも宇宙に果てがないというのが本当なら
・・・って時々考えるんだ
そしたら宇宙の果てを円周にした
コンパスの中心もないんだよなあ
って
あなたは見事にモードチェンジ
女はギャップに弱いってわかってるわね
始まったわね
口説いてくるわ!
・・・てことは
宇宙のどこでも実は
宇宙のど真ん中なんだって言える
今ここが
ふたりのいるここが
宇宙の中心なんだね
キター!
キスね
でもここは星空の下の睦み合いには
寒すぎるわよ
てことは
二人が移動すれば
宇宙の中心も移動する
宿に戻って
部屋の鍵を閉めちゃおうか
言いながら
あなたが私の肩に手をまわしキスする
梢がざわめいて
星が降ってくるように見える
あなたの哲学って
いつも私をかわいがるための口実で
変幻自在に
趣向を変えて
宇宙の四方八方どこからでも
私という中心に向かって
流星雨になる
まったくのご都合哲学ね!