

金投資をめぐる議論は、投資家の間で常に活発に行われています。2025年の金価格は年初から高値を更新し、連日1グラムあたり20,000円以上を推移しています。このような歴史的な高騰を目の当たりにして、今こそ金を購入すべきなのか、それとも高値掴みになるリスクを避けて様子を見るべきなのか、多くの人が悩んでいることでしょう。
金は古来より富と安全の象徴とされ、通貨や国家が崩壊しても価値を保ち続けてきた歴史があります。しかし、投資対象としての金には独特の特性があり、株式や債券とは異なるメリットとデメリットが存在します。本記事では、現在の市場環境において金投資がどのような意味を持つのか、そして「今は買わないほうがいい」という声が上がる理由について、多角的に検証していきます。
金価格の動向を理解するためには、まず現在の市場状況を把握する必要があります。20年前の2005年時点では1グラムあたり約1,600円だった金ですが、2025年7月時点で1グラムあたり17,000円を突破し、およそ10倍以上も価格が上昇しています。この驚異的な上昇は、単なる一時的な現象ではなく、世界経済と金融市場の構造的な変化を反映しています。
金価格は1999年の大底から、年率8.5パーセントのペースで20年以上、上昇基調が続いています。この長期的な上昇トレンドは、金が単なる貴金属ではなく、グローバルな経済システムにおける重要な安全資産としての地位を確立していることを示しています。特に2008年のリーマンショック以降、各国の中央銀行が大規模な金融緩和政策を実施したことで、通貨の価値に対する不安が高まり、実物資産である金への需要が構造的に増加してきました。
近年の金価格上昇には、複数の要因が複雑に絡み合っています。金融市場における米国に対する信頼低下が2025年4月以降の金価格の上昇を牽引してきました。世界の基軸通貨であるドルへの信頼性が揺らぐことは、代替資産としての金の魅力を高める重要な要因となります。また、ウクライナ情勢や中東の緊張など、地政学的リスクの高まりも金価格を押し上げる要因となっています。
新型コロナウイルスの感染拡大やロシア・ウクライナ情勢など、世界が混乱に陥ったとき、株式や通貨が大きく値下がりする中で、金価格は上昇しました。これは「有事の金」という言葉が示す通り、金が持つ本質的な特性です。企業の業績や国の財政状況に左右されない実物資産として、金はリスク分散の強力な手段となります。
現代の世界経済は、かつてないほど不確実性が高まっています。気候変動による自然災害の頻発、パンデミックのリスク、国際紛争の激化、デジタル技術の急速な進展による産業構造の変化など、予測困難な事象が次々と発生しています。気候変動リスクを含め、世界経済の不確実性が高い時代に、金の需要はますます高まっていくことが予想されます。このような環境下では、ポートフォリオの一部を金で保有することは、資産全体の安定性を高める効果的な戦略となります。
現代の経済政策において、各国政府と中央銀行は継続的に通貨供給量を増加させています。インフレの定義は持続的な物価上昇であり、逆の見方をすると、おカネの価値低下です。金は通貨ではなく実物資産であるため、通貨の価値が下落するインフレ局面において、その相対的な価値を維持または上昇させる傾向があります。マネーサプライの増加自体が潜在的なインフレ要因となり、インフレ懸念が台頭してくると金価格が敏感に反応します。
歴史的に見ても、金はインフレに対する優れた保険となってきました。1970年代の石油ショック時のスタグフレーション期には、金価格が大幅に上昇し、購買力を保護する役割を果たしました。現在も世界的な金融緩和の影響で、長期的なインフレ圧力が存在しており、金の保有はこうしたリスクに対する備えとなります。
2025年に入っても継続する中央銀行の金購入は、金市場における重要なトレンドです。世界各国の中央銀行、特に新興国の中央銀行は、外貨準備の多様化を進めており、金の保有比率を高めています。これは単なる投資判断ではなく、地政学的な観点から自国の資産を保護するための戦略的な動きです。
中央銀行による金の購入は、個人投資家の需要とは異なる性質を持ちます。彼らは短期的な価格変動に左右されることなく、長期的な視点で安定的に金を購入し続ける傾向があります。この継続的な需要は、金価格の下支え要因となり、市場に安定性をもたらしています。
金融商品への資金流入、特に西側諸国の金ETF投資家が再び市場に戻れば、2025年の金需要は記録的な伸びを示し、その結果、金価格は1オンス3,500から3,900米ドルまで上昇する可能性があります。この強気のシナリオは、単なる楽観的な予測ではなく、構造的な需要増加と供給制約に基づいた分析です。
金の採掘には時間とコストがかかり、新しい鉱山の開発も容易ではありません。一方で、テクノロジーの進展により、電子機器や再生可能エネルギー技術における金の産業需要も増加しています。投資需要と産業需要の両面から支えられることで、金価格の長期的な上昇基調が維持される可能性が高いのです。
金投資に慎重な意見が出る最大の理由は、現在の価格水準が歴史的な高値圏にあることです。投資の基本原則は「安く買って高く売る」ことですが、現在の金価格は既に大きく上昇した後であり、ここから購入すると高値掴みになるリスクがあります。市場には「天井で買って底で売る」という失敗パターンが繰り返されており、感情的な判断で高騰している資産に飛びつくことは避けるべきだという警告です。
過去の金相場を振り返ると、急激な上昇の後には調整局面が訪れることが多くありました。1980年代初頭には金価格が急騰した後、長期的な下落トレンドに入り、価格が元の水準に戻るまで20年以上かかりました。現在の高値水準で購入した場合、同様の長期下落に巻き込まれるリスクを完全には否定できません。
金投資では金自体が何か役割を果たすわけではないため、株式の配当や債券の利息のような定期的な収益を生み出しません。金を保有することで得られる利益は、純粋に価格上昇によるキャピタルゲインのみです。このため、長期的な資産形成を考えた場合、複利効果を享受できる株式や債券と比較して、投資効率が劣る可能性があります。
特に若年層の投資家にとって、時間を味方につけた長期投資では、配当再投資による複利効果は非常に強力です。仮に同じ期間、同じ金額を投資した場合、配当を再投資し続けた株式ポートフォリオと、金のみに投資したポートフォリオでは、最終的な資産額に大きな差が生じる可能性があります。
金地金などを保管する場合、紛失や盗難のリスクがあります。実物の金を自宅で保管する場合、安全性の高い保管場所を用意する必要があり、それでも100パーセントリスクを回避するのは難しいでしょう。貸金庫に預ける場合は、保管手数料がかかる可能性がある点にも留意する必要があります。
金ETFや金投資信託を利用する場合でも、管理手数料が発生します。これらのコストは一見小さく見えますが、長期間保有することで累積し、最終的なリターンを圧迫します。特に金価格が横ばいや下落する局面では、これらのコストが純粋な損失として積み重なることになります。
金は安全資産とされていますが、短期的には大きな価格変動があります。特に投機的な資金が流入している局面では、ファンダメンタルズとは無関係に価格が乱高下することがあります。レバレッジをかけた取引や、短期的な値動きを狙った投機家の売買により、予想外の急落が発生するリスクも存在します。
また、金価格はドル建てで取引されるため、為替変動の影響も受けます。日本の投資家が円建てで金に投資する場合、金価格自体の変動に加えて、円ドル為替レートの変動も考慮する必要があります。円高が進行すると、ドル建ての金価格が上昇していても、円建てでは損失が発生する可能性があります。
実物の金地金を保有している場合、必要なときにすぐに現金化できないリスクがあります。買取業者を探し、価格交渉を行い、実際に売却するまでには時間がかかります。また、小口の金地金は大口に比べて買取価格が不利になることも多く、購入時と売却時の価格差であるスプレッドが大きくなる傾向があります。
緊急時に資金が必要になった際、金を売却しようとしても、市場が閉まっていたり、適切な買取業者が見つからなかったりする可能性があります。株式や債券であれば市場で即座に売却できますが、実物資産である金にはこのような制約があることを理解しておく必要があります。
金投資については、買うべきという意見と買わないほうがいいという意見の両方に一理あります。重要なのは、自分の投資目的、リスク許容度、投資期間を明確にした上で判断することです。
20代から30代の投資初心者なら毎月1グラム購入など少額から始め、リスク分散の一環として活用することがお勧めです。若い世代には時間という最大の武器があるため、価格変動のリスクを長期間で平準化できます。ドルコスト平均法を用いて定期的に少額ずつ購入することで、高値掴みのリスクを軽減できます。
40代から50代では、安定した実物資産の金は資産保全のためにも一定比率でポートフォリオに組み込む方が多いです。この年代では、資産形成から資産保全へと投資の重心が移行する時期であり、金のような安定資産の比率を高めることが合理的です。ただし、全資産を金に集中させるのではなく、株式、債券、不動産など、他の資産クラスとバランスを取ることが重要です。
60代以降では、金の現物保有による資産防衛と相続対策も視野に金製品の購入をしている方が多いです。相続時には、金は現物資産として価値が明確であり、分割もしやすいという利点があります。また、長年の人生経験から、通貨や金融システムの脆弱性を理解している世代にとって、金は最後の砦としての意味を持ちます。
金投資には複数の方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。金地金や金貨などの実物購入は、所有する実感があり、金融システムの外で資産を保有できるという安心感があります。しかし、保管の手間とコスト、売買時のスプレッドの大きさがデメリットです。
金ETFや金投資信託は、少額から始められ、売買が容易で保管の心配がないという利点があります。証券口座で管理できるため、他の金融商品と一緒にポートフォリオを管理しやすく、現代の投資環境に適しています。ただし、管理手数料が継続的に発生し、実物を所有する安心感は得られません。
純金積立は、毎月定額で自動的に金を購入するサービスで、ドルコスト平均法の効果を得やすく、投資の手間がかからないという特徴があります。長期的な資産形成に向いていますが、手数料体系を事前によく確認する必要があります。
金鉱株やゴールド関連ファンドへの投資は、金価格の上昇による利益に加えて、企業の成長や配当による収益も期待できます。ただし、個別企業のリスクも負うことになるため、純粋な金投資とは性質が異なります。
金を今買うべきかという問いに対する答えは、一概には言えません。現在の金価格は確かに歴史的な高値圏にありますが、世界経済の不確実性、継続的なインフレ圧力、地政学的リスクの高まりなどを考慮すると、金の長期的な価値は維持される可能性が高いと考えられます。
一方で、高値での一括購入はリスクが高く、価格調整が発生した場合には大きな含み損を抱える可能性があります。また、金投資には利息や配当がなく、保管コストもかかるため、全資産を金に集中させることは賢明ではありません。
最も現実的なアプローチは、ポートフォリオの一部として適切な比率で金を組み込み、時間分散を図りながら段階的に購入していくことです。一般的には、資産全体の5パーセントから15パーセント程度を金に配分することが推奨されています。この比率であれば、金価格が上昇した場合には十分な恩恵を受けられ、下落した場合でもポートフォリオ全体への影響は限定的です。
投資判断は最終的には個人の責任において行うべきものです。金投資を検討する際には、自分の投資目的、リスク許容度、投資期間を明確にし、他の資産クラスとのバランスを考慮した上で、慎重に判断することが重要です。また、信頼できる情報源から最新の市場動向を学び、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることも有益でしょう。
金は数千年の歴史を持つ資産であり、これからも価値の保存手段としての役割を果たし続けるでしょう。しかし、金だけに頼るのではなく、多様な資産に分散投資することで、変化する経済環境に柔軟に対応できる強靭なポートフォリオを構築することが、長期的な資産形成の鍵となります。











