あなたは「ビットコイン」と聞いて、どのようなイメージを浮かべるだろうか。
取引所大手bitFlyerが2021年1月に20歳〜59歳の男女3,000人を対象に『投資と暗号資産に関する日米アンケート調査』を実施したところ、暗号資産に対するイメージについて、米国では回答者の76%が「ポジティブ」と答えたのに対し、日本では78%が「ネガティブ」と回答する結果が出た。
さらに、同調査によると、日本で「ネガティブ」と回答した理由として、過去に起きた暗号資産の流出事件による印象から、詐欺や盗難などの不安があることが分かった。
今や何千種類もの暗号資産が世に存在しているが、そのなかでも、「ビットコイン」は知名度・時価総額ともにナンバーワンの暗号資産だ。ビットコインといえば、2014年のマウントゴックス事件をきっかけに日本国内でも広く知られるようになるが、それと同時に詐欺や盗難などのイメージが付いてしまった。また、2017年には「ビットコインバブル」「億り人」といった言葉も生まれるほど、ビットコインに熱狂する人々が増えたが、2017年末からのビットコイン先物価格の続落をきっかけに大暴落が発生、この影響で大損する人も出てしまった。この出来事をメディアが面白おかしく取り上げたことで、ビットコインに危険なイメージが付いてしまった。このようなビットコインに関する悪いニュースが、暗号資産全体のイメージ悪化に繋がっていると私は思う。
世間から悪いイメージを持たれるビットコインだが、その歴史や成り立ちについて知る人は少ないのではないだろうか。私も以前はビットコインに対してネガティブなイメージを抱いていたが、歴史や成り立ちについて深く学んだことで、そのイメージが180度変わる経験をした。
本稿は、ビットコインの歴史や成り立ちをたどり、理解を深めることを目的としたものになる。
1970年代まで暗号技術は主に軍や諜報機関で秘密裏に利用されていた。しかし、70年代に2つの技術が公表され、機密から大衆の知るところとなる。1つは、後に非常に広く使われた暗号アルゴリズムである「データ暗号化標準(DES)」の米国政府による公表だ。DESは1976年11月に米国政府の情報処理標準(FIPS)として承認、1977年1月15日には「FIPS PUB 46」として公表され、米国政府の標準暗号として使用されてきた。もう1つは、暗号学者のWhitfield Diffie氏とMartin Hellman氏によって1976年に発表された論文『New Directions in Cryptography』である。これは革新的な暗号鍵配布方法を示したもので、暗号における基本的問題とされていた鍵配布の問題解決に迫るものだった。
さらに翌年の1977年には、Ronald Rivest氏、Adi Shamir氏、Leonard Adleman氏によって公開鍵暗号「RSA暗号」が発明される。RSAは現在も有力な公開鍵暗号の1つであり、2000年9月に特許が失効してからは、誰でも自由に利用できるようになる。
1985年頃、Victor S. Miller氏とNeal Koblitz氏の各々が「楕円曲線暗号(Elliptic Curve cryptosystem)」を発明する。楕円曲線暗号はRSA暗号などに比べて短い鍵長で安全性が確保できるという長所がある。ビットコインでは、秘密鍵から公開鍵を生成するときに使われるアルゴリズムとなる。
ビットコインの公開鍵は、「Secp256k1」という楕円曲線暗号を用いたデジタル署名アルゴリズムによって秘密鍵から計算される。
DigiCashとは、暗号学者でコンピューターサイエンティストのDavid Chaum氏が1989年に設立した企業である。同氏が1983年に発表した論文『Blind Signatures for Untraceable Payments』を基盤に創設された。同社は1994年に「Ecash」というインターネット上の電子キャッシュ(Electronic Cash)を発行する。これは、論文で述べられている「Blind Signatures(ブラインド署名)」の暗号技術を使って取引の匿名性を実現したものだった。このように、電子商取引の先駆けとなったDigiCashだが、1998年に破産を宣告した。
第二次世界大戦以降、米国家安全保障局(NSA)を中心とする暗号政策は、合衆国政府の情報収集能力を国際的・国内的に優位に保つ必要から、対外的には輸出規制、国内については暗号鍵の一括管理の主張をしていた。例えば、暗号研究者のPhilip Zimmermann氏が1991年に開発した電子メ―ル暗号化・電子署名ソフト「PGP(Pretty Good Privacy)」が武器同様に国家安全保障上の重要事項に位置づけられたことで輸出禁止となる。暗号技術が1992年に至るまで、米国軍需品リストに「補助的軍事技術(Auxiliary Military Technology)」として残り続けていたためだ。また、1993年に発表された政策は、「クリッパーチップ」と名付けられたICチップをあらゆる通信システムに組み込ませ、このチップに仕組まれた暗号のマスターキーを政府が独占することで、ネットワーク上のすべてのデータに対する盗聴の可能性を確保しようとしたものだった。この目論見そのものはチップ自体の欠陥によって頓挫したが、アメリカ政府はその後もテロリスト対策などの名目を掲げて、暗号解読の絶対的な権限を獲得しようとしていた。
このような背景から、インターネット上での匿名性と個人情報の保護などを訴え、政府や大企業による暗号技術の利用規制に反対した運動が1980年代末に起きる。これを「サイファーパンク」運動という。1992年末に、Eric Hughes氏、Timothy C May氏、John Gilmore氏が月例で集まる暗号技術推進グループを創設。この小さなグループは、サイバーカルチャー雑誌『MONDO 2000』の編集者Jude Milhon氏により、"Cypher(暗号)"と"Cyberpunk(サイバーパンク)"を組み合わせて「Cypherpunk(サイファーパンク)」と称された。なお、サイファーパンクの技術的バックグラウンドは、David Chaum氏が1985年に発表した論文『Security without Identification: Transaction Systems to Make Big Brother Obsolete』で述べた匿名電子キャッシュや匿名評判システムとされている。
サイファーパンク創設から数ヶ月後の1993年3月、グループの創始者Eric Hughes氏がメーリングリストに『A Cypherpunk's Manifesto』を投稿する。内容は、デジタル時代の開かれた社会におけるプライバシーを実現するためには暗号技術が必要と訴え、暗号化、匿名のメール転送システム、デジタル署名、及び電子キャッシュを守るシステムの構築に献身するために"サイファーパンクはコードを書く"と宣言している。
暗号研究者でコンピューターサイエンティストのNick Szabo氏が1996年に執筆した『Smart Contracts: Building Blocks for Digital Markets』にて、プロトコル(規格)をユーザーインターフェイスと組み合わせることでコンピューターネットワークを構成し、契約(コントラクト)の自動化を安全にするツールとして「スマートコントラクト」を提案する。その後、Vitalik Buterin氏が2013年に発表した『Ethereum: A Next Generation Smart Contract & Decentralized Application Platform』によって、イーサリアムのブロックチェーンに実装可能なスマートコントラクトが提案された。
暗号研究者のAdam Back氏は電子メールにスパム耐性をつけるため、「ハッシュキャッシュ」と呼ばれるコンセンサス(合意)アルゴリズム「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」を1997年に考案する。1990年代の当時はスパムメールの送信者にコスト(課金・罰則・罰金)を発生させることでスパムメールを減らす方法が思案されるなか、Adam Back氏は送信者にコストを負担させるのではなくコンピューターの処理能力を負担させるハッシュキャッシュの方法で送信者のコンピューター(CPU)にて複雑な計算をさせて送信前に時間とコスト(電力消費)による負荷をかけ、送信能力を落とさせてスパムメールを減らそうというアイデアである。この機能は、ビットコインのマイニング(採掘)に採用されるプルーフ・オブ・ワークの原型となる。
b-moneyとは、コンピューターエンジニアのWei Dai氏によって1990年代後半にサイファーパンクのメーリングリストに掲載された「匿名の分散型電子キャッシュシステム」の提案である。具体的には、これまでのように政府に管理されている法定通貨ではない「お金のように交換できる媒体」の必要性を訴え、匿名性があり、分散されている暗号電子キャッシュのプロトコル(規格)を説いたものである。最終的にb-moneyは完成に至らなかったが、このコンセプトはビットコインの開発者Satoshi Nakamotoの論文で引用されることになる。
Bit Goldとは、暗号研究者でコンピューターサイエンティストのNick Szabo氏によって1998年に提案された「非中央集権の分散型電子キャッシュ」の試みである。取引の処理や非中央集権的なネットワークを安全にする方法がビットコインに似ているといわれる。具体的には、トランザクション(取引データ)の合意方法にコンセンサスアルゴリズム「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」を採用していた。解かれた暗号方程式はビザンチン将軍問題が発生しないように端末同士で直接データを共有することができる通信技術「ピア・ツー・ピア(P2P)」でネットワークに発信され、最終的に暗号化されたハッシュチェーンとなり最新のパズルの解の結果として紐付けられる。その紐付けをもってトランザクションブロックの検証となる。トランザクションの承認依頼から承認を得て、新しいブロックが追加されるプロセスはビットコインとBit Goldで同じものになる。しかし、Bit Goldは二重支払いの検証と保護の面で欠陥があった。具体的には、Bit Goldはシビル攻撃と呼ばれる一人のユーザーが不正に複数のネットワークアドレスを持ち複数の場所にいるように見せかける攻撃に脆弱であった。最終的にBit Goidは完成に至らなかったが、Satoshi Nakamotoはこの欠点を理解してビットコインを開発した。
シカゴ学派でノーベル経済学賞も受賞したMilton Friedman氏が1999年のインタビューにて、電子キャッシュは新しく生まれたインターネットに必要な要素であるだけではなく、政府の行き過ぎを制限する合理的なツールであるという考えを示した。
2004年8月、コンピューターサイエンティストのHal Finney氏が考案した「Reusable Proofs of Work(RPoW)」で、Wei Dai氏のb-moneyとAdam Back氏のハッシュキャッシュ(PoW)の技術を組み合わせてトークン(独自の貨幣)を生成するアイデアを試みる。 しかし、RPoWのネットワークは信頼できるノード(P2Pネットワークに参加するコンピューター)のみから構成されているという前提の下にしか成り立たず、二重支払い問題の検証と保護は依然として中央サーバー(IBM 4758)によって行われることを前提としていた。RPoWのシステムはSatoshi Nakamotoの論文で引用されていないが、初期のビットコインのベースとなった。
2008年9月に米国第4位の規模を持つ投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻から1ヶ月が過ぎた頃の10月31日、Satoshi Nakamotoと名乗る人物が「The Cryptography Mailing List」というメーリングリストに一通のメールを投稿する。メールには、彼が取り組んでいるというBitcoinの概要と論文『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』のURLが記されていた。
論文の内容は、金融機関などの第三者を通さず低コストで取引できる電子キャッシュのアイデアである。中央サーバーを置かず、ネットワークで接続された端末同士でデータをやり取りするピア・ツー・ピア(P2P)の仕組みを使い、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)により取引情報の改ざんを実質的に不可能にする仕組みについて説明されている。
2009年1月3日に、Satoshi Nakamotoと名乗る人物によってビットコインの最初のブロック(Block Height 0)が生成される。このブロックは「Genesis Block(ジェネシス・ブロック)」と呼ばれ、これはノードによるマイニング(ブロック生成)が行われる以前から存在する唯一の先頭ブロックであり、ジェネシス・ブロックはソースコード上にハードコーディングされている。
さらに、興味深いことにジェネシス・ブロックには、「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks」という英タイムズ誌の一面の文章が記されていた。日本語に訳すと「財務大臣 二度目の銀行救済措置の瀬戸際に」である。
この文章は恐らく、2009年1月3日以前にジェネシス・ブロックが無かったことの証明として残されたものだと思われるが、既存の金融システムに対する何かしらのメッセージ性を感じる。法定通貨とは違う非中央集権のビットコインが誕生した歴史的な日は「Genesis Block Day」と呼ばれ、世界中で祝われている。
ジェネシス・ブロック生成から5日後の2009年1月8日、Satoshi Nakamotoと名乗る人物によって「Bitcoin v0.1」のソースコードが公開される。同日、Satoshi NakamotoはHal Finney氏にメールで「Bitcoin v0.1」のリリースを知らせる。早速、Hal Finney氏はダウンロードを試みるも、Bitcoin v0.1はクラッシュしてしまう。その後、両者は何度かメールでやり取りして「Bitcoin v0.1.3」のアップデートで解決したとのやり取りが残されている。
2009年1月12日、Satoshi Nakamotoと名乗る人物からHal Finney氏へ10BTCが送金される。Hal Finney氏はビットコイン取引の世界初の受け手となる。
2009年10月5日、New Liberty Standardでビットコインと米ドルの交換レートが初めて提示される。この時の価格は1ドル=1,309.03BTC(1BTC=約0.00076ドル)で、日本円で1BTC=約0.07円である。この価格はビットコインのマイニング(採掘)に必要な電気料金から計算して提示されたものである。
2009年10月12日、ビットコイン開発者の一人Martti Malmi氏は5,050BTCを5.02ドルに交換する。これはビットコインが法定通貨に交換された世界初の出来事である。この際、交換した米ドルはPayPalアカウントを通して受け取ったそう。送られたビットコインの枚数は当時、マイニングでしか入手できなかったBTCに対応しており、Coinbaseの報酬が50BTCに設定されていたため、5,050BTCとなっている。
2010年2月6日、世界初のビットコイン取引所Bitcoin Marketが公開。
2010年5月22日、ビットコインが誕生して1年余りが経った頃、プログラマーのLaszlo Hanyecz氏は1万BTCでピザ2枚を買う。具体的には、Laszlo Hanyecz氏がBitcoinTalkにて「誰か1万BTCをピザ2枚に交換してくれる人はいないか」と投稿し、これに応答したJeremy Sturdivant氏がオンラインで注文できる米国のピザ店を探し始める。そして、見つけた宅配ピザ店Papa Johnsにクレジット決済でピザ2枚を注文する。サイトで呼びかけた日から4日後の22日、Laszlo Hanyecz氏はピザ2枚を無事に受け取り、Jeremy Sturdivant氏へ1万BTCを支払った。ビットコインによる商取引が成立した世界初の出来事である。現在は「Bitcoin Pizza Day」として世界中で祝われている。
なお、2010年5月22日時点でビットコインの交換レートは1BTC=約0.0025ドル、ドル円の為替レートが1ドル=約90円だったので、当時の1万BTCの価値は約2,200円となる。当時のピザ2枚の代金も約25ドルなので、ほぼ等価で交換できている。
2010年7月11日、コンピューター系ニュースを中心に取り扱う電子掲示板Slashdotにビットコインが取り上げられ、世間に知られるようになる。
2010年7月17日、初のビットコイン大型取引所Mt.Goxが公開。翌年3月には日本を本社とするTibanne社にMt.Goxが買収され、Mark Karpeles氏が代表取締役となる。
ビットコインを取り扱う以前は、カードゲームMagic the Gatheringのオンライントレーディングカード取引所だった。
2010年8月15日、コードのバグを突いて1,840億BTCが偽造されるも、開発チームの早急な対応により事なきを得る。その後もこの事件による影響は残っていないという。
2010年9月18日、Slush Poolが世界で初めてマイニングプールによるマイニング(採掘)を成功させる。マイニングプールとは、ビットコインのマイニングを個人ではなく複数人で行う組織のことで、報酬は参加した人で分配される。この時の報酬は50BTCである。
2010年11月1日、BitcoinTalkにてbitboyと名乗る人物がビットコインのロゴを投稿する。以降、現在も使われている事実上のロゴとして定着する。
2010年12月13日、Satoshi Nakamotoと名乗る人物が「Bitcoin v0.3.19」の告知を投稿した後、一切消息を絶つ。以降、ビットコインのシステムは、コア開発者(ボランティアのプログラマー)やコミュニティメンバーが提出する「Bitcoin Improvement Proposals(BIP)」という改善提案をGithub上で議論し、多数決によって承認が得られたBIPを「Bitcoin Core」というソフトに実装するプロセスをとる。
2011年2月、違法薬物から武器売買、殺人依頼までもが行われていた史上最大の闇サイトSilk Roadがディープウェブ上に公開される。サイト内では、唯一の決算手段としてビットコインが使われていた。
連邦捜査局(FBI)は2013年7月にシルクロードのサーバーへのアクセスに成功し、同年10月には同捜査局がサーバーを押収、運営者Ross William Ulbricht氏は逮捕される。押収されたビットコインは、連邦保安官局によってオークションにかけられた。
2011年4月16日、大手ニュース雑誌TIMEにてビットコインの特集が組まれ、世界中の人々に知られるようになる。
2011年5月、暗号通貨ウォレットBitPayのサービスが開始。以降、BitPayを通じたビットコインによる決済処理サービスが拡充する。
ビットコインが大手メディアに取り上げられたこともあり、2011年6月12日には一時1BTC=31.91ドルまで急騰する。
2011年6月19日、ビットコイン取引所大手Mt.GOXがハッキングを受ける。これにより、Mt.GOXのビットコインやユーザー情報・パスワードが盗難され、約1週間取引が停止した。ハッキングによる被害総額は875万ドル以上となった。さらに、この影響で連鎖的に他の取引所からもビットコインの盗難が発生し、ビットコイン価格が著しく下落する。
2012年5月9日、連邦捜査局(FBI)のビットコインに関するレポートが流出する。流出した内部資料の内容は、ユーザーが匿名で仮想通貨をやり取りできるビットコインのネットワークが、資金洗浄など様々な犯罪行為の温床になることを懸念しているというものだ。
ビットコイン財団は、「世界中のユーザーの利益のため、暗号通貨ビットコインの使用を標準化・保護・促進する」という使命のもと、2012年9月に設立された米国の非営利団体である。年会費や企業・個人の助成金などで集められた資金は、主にビットコインの開発費として使われていた。しかし、理事会メンバーの相次ぐ不祥事や不透明な資金管理の問題で支援が縮小、現在のビットコイン財団は資金が乏しい状態といわれている。なお、近年のビットコインの開発費はBlockstreamやLightning Labsなどの企業が提供している。
2012年11月15日、オープンソースのブログソフトウェアWordPressがビットコイン決済の受付を開始。
2012年11月28日、210,000ブロックごとに行われる採掘報酬の半減が初めて実施される。これにより報酬は50BTCから25BTCへ半減した。なお、ビットコインは4年に1度のペースでこの半減期が予定されている。
EU加盟国でギリシャ系及びトルコ系構成国家からなる二地帯・二共同体のキプロス共和国は、法人税や所得税などの税率が低い「タックスヘイブン(租税回避地)」として知られていた。主に近隣国ロシアの富裕層がキプロスの銀行にこぞって預金をしており、銀行資産はGDPの約8倍、預金残高は約4倍にまで達するような状態になっていた。キプロスのギリシャ系銀行はギリシャ国債を大量に保有・運用していたのだが、2009年のギリシャ危機の進展に伴い、キプロスの各銀行は保有していたギリシャ国債のPSI(Private Sector Involvement:民間部門関与)による債券交換に応じたことによって、国内の金融・財政が深刻な状況になってしまう。キプロス政府は当初、銀行資本増強措置、財政再建措置などの対応をとっていたが、もはや政府だけでは対応できない状態になったことから、2012年6月、同国政府はECB(欧州中央銀行)とIMF(国際通貨基金)に支援要請を行う。2013年3月16日にユーロ圏各国とECB及びIMFは、キプロスへの100億ユーロ規模の金融支援に合意する条件として、キプロスの全銀行預金に対して計58億ユーロ(10万ユーロ以下の預金者に6.75%、10万ユーロ以上の預金者に9.9%の預金税を1回限り課す)を調達するよう求めた。この影響で、キプロス国内では全銀行が12日間にわたって閉店したほか、ATMの引き出し制限などが導入され、キプロス社会に大きな影響を与えた。 最終的に、キプロス支援プログラムが同年5月に開始、キプロスは財政立て直し及び各種改革を行い、100億ユーロのうち約73億ユーロ(欧州安定メカニズムから約63億ユーロ、IMFから約10億ユーロ)の融資が実施され、支援プログラムは2016年3月で終了した。
2013年3月当時、このキプロス危機の影響で、法定通貨(ユーロ)や銀行への信用が著しく低下し、ビットコインを保有する動きが高まる。ビットコインの価格は一時1BTC=266ドルとなり、過去最高の価格となる。
2013年10月14日、中国ネットサービス大手バイドゥ(百度)がビットコイン決済に対応することを発表。これにより、中国人投資家のビットコインへの投機熱が高まる。
2013年10月29日、カナダのバンクーバーのダウンタウンにあるWavesコーヒーショップにビットコインATM「Robocoin」が設置される。設置後1週間で10万カナダドルものビットコイン交換が行われるほど盛況した。
2013年12月4日、NHKがニュースウォッチ9でビットコインの特集『広がる仮想通貨"ビットコイン"』を放送。これにより、日本国内でもビットコインに関する認知度が高まる。
2013年12月5日、中国の中央銀行である中国人民銀行が中国国内の金融機関に対して、ビットコインを利用した金融サービスを禁止する旨の通達を出す。通達翌日の12月6日、百度(バイドゥ)の関連サービス「jiasule」はビットコインでの決済中止を発表。以降、ビットコインは大きく価格が下落することとなる。
2014年2月25日の昼頃、同社のウェブサイトは停止し、創設者の所在は不明、東京の事務所は抗議する利用者を除いてはもぬけの殻となる事態が発生。28日に同社から民事再生法の適用申請と受理が発表され、事件が公のものとなる。この時、ハッキングによって顧客分75万BTCと自社保有分10万BTC、さらに預かり金の約28億円が失われたことが伝えられた。なお、顧客12万7,000人の大半は外国人で、そのうち日本人は約1,000人ほどいた。同年4月には同社の破産手続きが始まり、2015年8月に同社の代表取締役Mark Karpeles氏が一部預かり金の横領などの罪で逮捕される。結局、2016年7月に同氏は保釈され、2018年6月には同社が破綻当時に保有していたビットコインの相場が上がったことで保有資産が2,000億円以上となり、破産手続きは民事再生法手続きに切り替わる。さらに、2019年3月にMark Karpeles氏は事実上の無罪判決を勝ち取った。現在の詳しい状況については公式サイトで確認できる。
2014年6月半ば、大手マイニングプールGhash.ioのハッシュレート(採掘力)が51%に近づき、51%攻撃(二重支払い)の危険性が高まった。その後、Ghash.io内のマイナー(採掘者)たちが他のマイニングプールに移ることで危機は回避された。
2014年6月11日、旅行サイトExpediaは同社ホームページを通じたホテルの宿泊予約で、ビットコインによる支払いの受付を開始。しかし、2018年6月にビットコインでの支払いサポートを終了する。
2014年7月18日、パソコン大手DELLは同社ホームページを通じた自社製品の販売で、米国に住む顧客や小売店からの注文に限りビットコインによる支払いの受付を開始。
2014年11月26日、米国の赤十字がビットコインによる寄付の受付を開始。
2014年12月11日、ソフトウェア開発販売大手Microsoftはオンラインストア「Windows Store」を通じた決済で、米国に住む顧客に限りビットコインによる支払いの受付を開始。しかし、2016年にビットコインでの支払いサポートを終了する。
2015年1月5日、取引所大手Bitstampが運用するホットウォレットから、19,000BTCがハッキングにより不正に引き出されたと発表した。
2015年8月、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)が暗号資産の関連事業者がニューヨーク州の居住者にサービスを提供するための許認可である「BitLicense」を施行。NYDFSはニューヨークで暗号通貨事業を行う全ての銀行、保険会社、信用組合、小切手換金サービス、及びその他の金融機関を監督する。また、申請には5,000ドルの手数料に加えて、外部監査を雇う必要がある。この影響で、KrakenやPaxfulなどの企業がニューヨークから離れる。
2015年8月、ビットコインのブロックサイズ問題・スケーラビリティ問題によるコミュニティの分裂により開発チームであったGavin Andresen氏が、ビットコインの元のブロックチェーンから分岐する新バージョン「Bitcoin XT」を考案する。Bitcoin XTは既存のビットコインコアシステム(Bitcoin-Qt)とは互換性がないため、今までのビットコインと別のブロックチェーンに分岐する「ハードフォーク」が発生することになるが、結果としてコミュニティに採用されなかった。この出来事は、ビットコインのハードフォークの事例として初めてのことである。以降、ビットコインから様々なフォーク版の暗号資産が生まれる。なかでも、Bitcoin XT、Bitcoin Classic、Bitcoin Unlimitedなどの開発チームが合流して誕生した「Bitcoin Cash(BTC)」が有名である。
欧州連合(EU)の最高裁判所に相当する欧州司法裁判所(ECJ)は2015年10月22日、ビットコインは税法上、商品(コモディティ)ではなく通貨のように扱われるべきとして、付加価値税・消費税(VAT)対象外の判断を下した。
2016年4月、ゲーム配信サービスSteamがビットコインによる支払いの受付を開始。しかし、翌年の12月6日にビットコインでの支払いサポートを終了。
2016年7月9日、採掘報酬の2回目の半減が行われ、報酬が25BTCから12.5BTCへ減少した。
2016年8月2日、取引所大手Bitfinexから、119,756BTCがハッキングにより流出したと発表。
2017年1月6日、中国人民銀行(PBoC)は、北京と上海で同国3大ビットコイン取引所(BTCC、Huobi、OK Coin)の経営者と面談し、同取引に関し法的リスク、政策リスク、技術的リスクなどの調査を行う。さらに、経営者に対しコンプライアンス遵守に関する自主検査を要請した。さらに、中国人民銀行は北京と上海で共同検査チームを立ち上げ、主要ビットコイン取引所の立ち入り検査を実施。同月25日、同国3大ビットコイン取引所(BTCC、Huobi、OK Coin)はビットコイン取引毎に一律0.2%の取引手数料を課すのと同時に、信用取引を停止すると発表。翌月の2月9日、HuobiとOK Coinはマネーロンダリング体制に不備があるという検査結果を踏まえ、ビットコインとライトコインの引き出しを停止すると発表。その措置は体制再構築のため長くて1ヶ月は続くとしていた。
2017年4月1日、日本で初めてビットコインをはじめとした暗号資産を法律内で規定した「改正資金決済法等」が施行。
2017年6月20日、世界共通の文字コードUnicodeのバージョン10.0でビットコインのシンボル「₿」が採録。
2017年8月1日、従来のビットコインのブロックチェーン(ブロックサイズ上限1MB)が初めて人為的に分裂することとなり、ハードフォークにより新たな暗号資産として「Bitcoin Cash(ブロックサイズ上限8MB)」が誕生。
Bitcoin Cash誕生の影響もあり、ビットコインの署名部分を従来とは別の領域に格納する技術である「SegWit(Segregated Witness)」が、2017年8月24日に有効化される。これにより、理論上ブロック上限が4MB(現実的には最大約2MB)まで上昇、その分取引処理能力も上昇することとなり、トランザクションの手数料を削減できる。
2017年12月、ビットコインのブロックチェーンを介さないオフチェーントランザクション「Lightning Network」が実験的にリリースされる。Lightning Networkは、Joseph Poon氏とThaddeus Dryja氏によって考案され、2015年2月に発表された。Lightning Networkはビットコインのスケーラビリティ問題の解決策と謳われており、ビットコインの上限7件/秒のトランザクションの処理能力によって生じる着金の遅さや混雑時の手数料の高騰などを解決する方法として注目される。この技術は、ACINQ、Blockstream、Lightning Labsなどの企業が実装を進めている。
2017年12月6日、マイニング計算能力売買サービスNiceHashから、約4,700BTCがハッキングにより流出したと発表。
2017年12月10日、シカゴ・オプション取引所(CBOE)がビットコインの先物取引を開始。しかし、2019年6月19日にサービス提供を停止。
2017年12月17日、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)がビットコインの先物取引を開始。
2018年1月30日、韓国の金融規制当局は仮想通貨を取引する際の無記名預金口座の利用を禁止した。暗号資産が資金洗浄(マネーロンダリング)などの犯罪に利用されるのを防ぐのが狙い。
2018年1月30日、SNS大手Facebookは暗号資産や同通貨を使った資金調達(ICO)に関する広告を全世界で禁止すると発表。これら広告が詐欺的行為を助長しかねないと判断したためである。同年3月には、GoogleやTwitterも同様の理由で暗号資産関連の広告を禁止した。その後、各社は広告ポリシーの規制を一部緩和している。
2018年10月、スイスの高級時計メーカーHublotがビットコイン10周年の限定版ウォッチ「Big Bang Meca-10 P2P」をオンライン上で販売すると発表。値段は2万5,000ドルで、支払いはビットコイン限定。また、ビットコインの発行上限枚数の2,100万枚にちなんで、限定210本の製造とされている。
2019年1月3日、Satoshi Nakamotoと名乗る人物によってビットコインの最初のブロック「ジェネシス・ブロック」が生成されてから10周年を迎え、世界中で祝福される。
2019年5月8日、取引所大手Binanceから、7,000BTCが不正に引き出されたと発表。
2019年5月31日に資金決済法と金融商品取引法の改正が参議院本会議において可決・成立し、法令上で「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更が決定する。
2019年9月23日、 インターコンチネンタル取引所(ICE)傘下のBakktがビットコインの先物取引を開始。
2020年3月12日、新型コロナ・ウイルスのパンデミックを受け、ニューヨーク株式市場で2度目となるサーキットブレーカー(取引の強制遮断)が発動。金融市場の混乱からビットコインは15%超下落し、1BTC=7,000ドルを割り込んだ。
2020年5月11日、採掘報酬の3回目の半減が行われ、報酬が12.5BTCから6.25BTCへ減少した。
2020年10月21、オンライン決済サービス大手PayPalがビットコインを含む複数の暗号資産の取扱いを開始すると発表。PayPalデジタルウォレット内で選択した暗号通貨を購入、保持、販売できる。
2021年2月9日、電気自動車メーカー大手Teslaは手元資金の運用手段を多様化するため、これまでに約15億ドル分のビットコインを購入したことが、証券取引委員会(SEC)に提出した2020年度の年次報告書によって明らかになる。これにより、Teslaはビジネス向けソフトウェアメーカーMicroStrategyに次いで、ビットコインを大量に保有する企業となる。
2021年2月15日、カナダの資産運用会社Purpose Investmentは世界初となる暗号資産ビットコインの上場投資信託(ETF)の発行をカナダ規制当局が承認したと発表。同月18日、「Purpose Bitcoin ETF」がカナダのトロント証券取引所に上場する。
2021年3月9日、事前活動家Bill Gates氏はニューヨーク・タイムズのインタビューで、「ビットコインは、1トランザクションごとの電力消費量が、人類が知っている他のどの方法よりも多い」と語った。同氏は、自身が「ビットコイン懐疑論者」だと話し、「気候に良い影響を与えない」と述べた。
2021年3月13日、1BTC=6万ドルの大台を超え過去最高値を更新する。
2008年にSatoshi Nakamotoが発表したわずか9ページの論文をもとに誕生したビットコイン。この誕生前後の話しはユニークかつミステリアスで、難しい専門用語や仕組みは分からずともワクワクする。ビットコインの発明から早10年。こうして振り返ってみると、波乱の歴史をたどっていることがよく分かる。ビットコインの発明は金融革命と謳われながらも、流出事件・犯罪・バブル・規制などの問題ばかり注目されている現状で、社会に広く普及するに至っていない。しかしながら、革新的な技術や発明というのは、時間をかけて世の中に普及するといわれるのも確かだ。古典的なマーケティング理論「プロダクト・ライフサイクル」によると、現在のビットコインは「成長期」に入りつつあると捉えることができる。
かつてのインターネットやスマホのように、ビットコインも10年後には社会に広く普及すると私は期待している。その時にはSatoshi Nakamotoの正体が明かされているだろうか。ビットコインの将来が非常に楽しみである。