-都内某所-
チュンチュンと小鳥の囀りで目を覚ます。
携帯のアラームより早く起きた様だ。
🐶「さてと、準備しますか・・・ね。KUROSAWA、電気付けて。」
👩「オハヨウゴザイマス。承知シマシタ。」
🐶「KUROSAWA、今日の予定を教えて。」
👩「本日ハ、午前中マデニ50枚、夜マデニ追加デ50枚ノ合計100枚採掘トナッテ
オリマァス。」
🐶「うへぇ、個人でトータル100枚!?きっちー。」
俺の名前はかませ いぬ。
幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行った時に黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃したりしない、ごく普通のサラリーマンだ。
予定を知らせてくれたのは毛利蘭ではなく、スマートスピーカーのKUROSAWA。
コイツは優れモノで、去年の俺のベストバイだ。下ネタを話しかけても、思わず舌を巻く返答で笑わせてくれる。どうやら30代男性のAIが搭載されているらしい。
🐶「月曜は本当に憂鬱なんだよなぁ。まぁ今回は現場が近いのが唯一の
救いだけど。」
👩「マァ、ソウ言ウナッテ。千葉ロッテ。今日モイチニチ、チンチンビローン。」
絶妙なリズムの言いようを聞き流しながら、朝食、着替えと、いつものルーティーンを済ませて少し早めに家を出た。
-採掘現場_仮設事務所内-
🐶「おはようございまぁーす!あ、ズキさん今日も早いっすね。」
👴「おぉ、太郎か。おはよう。わしはもう年じゃて、朝は自然と目が覚めてしまう
んよ。だからといって侮るでないぞ?まだまだ夜は現役、ばぁさんをしこたま
抱きまくっとるからの。まぁいい。寒かったろう。座れ、座れ。」
この人はズキ爺さん。「昇り竜のZukcy」と言えば、業界では知らない人の方が少ない。俺の働く界隈では生きる伝説となっている御大である。
舌の調子も朝から絶好調のようだ。何故か俺のことは太郎と呼ぶのだけれども。
🐳「おはようございます。」
🐱「おはよっすぅー!」
🦍「ウホウッホ。」
同僚の皆も出勤してきたようだ。順に真面目な影柳さん、陽気な富 慈英理さん。そしてゴリラだ。
🐶「みんなおはよう。今日の採掘枚数見たかよ?まーじこの業界ってブラックだ
よなぁ。」
👴「太郎、まぁそう言うでない。これでも昔に比べると随分と働きやすくなったもん
じゃよ。ところで・・・」
ズキ爺が口を開いた矢先に、現場事務所の建付けの悪い引き戸が開く。
🌚「皆さん揃っていますか?朝礼を始めます。」
スーツ姿に上半身だけ作業上着を羽織った、如何にも真面目そうな眼鏡の男性が入ってきた。この人は今皆が揃っている現場を指揮する本社の人間だ。
株式会社クリプトスペルズ 本社営業部 エコシステム課 現場採掘係の担当者である。
その出で立ちから、俺達の間では「黒の組織の人間」と揶揄されている。
🌚「本日の予定には各自目を通されていますでしょうか。本日だけでなく、今週は
ハードな業務と現場の厳しい寒さが見込まれますので、体調管理には十分注意
して各自業務に取り掛かってください。それではご安全に。」
👴「よし、みんな今日も汗を流すとするかの。」
爺さんの一言の後、俺達は現場へと向かうのだった。
-採掘現場_ギルド採掘場-
俺達の働く現場には、二大派閥が存在する。通常採掘場で幅を利かせている、通称「中立組」と、俺達の属するというか、括られている「イロモノ組」だ。
俺は最近この仕事の面白さが分かり始めたマイレボリューションと言ったところだ。
今日は掘り出す枚数が枚数なので、皆午前中からかなりペースを上げて掘り出しの作業を進めている。皆文句は言いつつも真面目に働くねぇ、どうも。
ところで、先週迄は現場近くで「ちゃれんじかっぷ」というものが開催されていたらしく、現場周辺も、インテリ変態集団で賑わっていたらしい。
まぁ、俺にはあまり関係の無い話だが、家のKUROSAWAの情報によると、その大会は、なんでも「れぇと」というものを競い合って順位を決めるものらしく、その大会自体も、俺達に今朝指示を出していた、本社の別部署が取り仕切って開催しているらしい。全く、社会的な富裕層にも娯楽を提供するなんて、天下のクリスペさんだね。
詳しくは本当にわからないんだけど、その「れぇと」の1500~1516を行き来するお嬢様とやらも大会には参加しているらしい。文面だけ聞くとカオスだよなぁ。
あと、何故かその情報を告げるとき、KUROSAWAの音声が上ずっていたような?まぁ気のせいだろう。
全く建設的ではないことに現を抜かしていたので、気持ちを切り替えて作業に集中する。
午前中一杯かかり、何とか本日工程の半分である50枚を掘り出すことができた。既に手足がパンパンになっている。ちょっと飛ばし過ぎたかな?
ここで現場に正午を告げるチャイム音が鳴り響いた。
👴「さぁ、飯の時間じゃー。おい、富 慈英理、昼食のお茶当番は今日は主じゃ
ろうて。」
エロとメシの時には俺達より元気な爺さんの声が聞こえてきた。
今日の業務は半分終了か。午後も頑張ろう。
つづく