9歳の時。
三上敏行君という子がいた。
三上君は、醤油顔で特に特に目立った子でもなかった。
でも何故か、女子から結構モテる。
テストの点数も普通で、体育も普通。
体育なら、俺の方が得意だった。
でも、何故かモテる。
凄く不思議だった。
ある時、話している内容を聞いていみた。
そしたら、女子の話に共感しているだけで、自分の事は何も話していない。
俺は、女子と話す時は「話を聞くだけで良いんだぁ~」と感心した。
俺もやってみようと思ったが、それ以前に話しかけられる事自体無かった。
仕方ないので、俺の方から話しかけてみる事にしてみた。
三上君は、いつも女子の席で、机の上に腕をクロスさせ顎を乗せて話す。
俺も、三上君みたいに女子の席に行き、同じ格好をして話しかけた。
話す内容は、特に何もなく、とりあえず「好きな子はいる?」と聞いた。
そしたら女子は、おもむろに引き出しから教科書を出してくる。
その瞬間、その教科書で、頭をボコボコに叩かれてしまった。
そしてその場から追い払われてしまう。
俺は、何故か解らず「なんでぇ~( ;∀;)?」と聞いてみた。
そしたら、その女子は無言で、更に俺を叩いてくる。
女心は、良く解らんと感じた。
今考えれば、デリカシーの無い子供だった。
これじゃ確かにモテない。
三上君とは、何度か一緒に遊んだ事がある。
確か、メンコにハマっている時、ずいぶん一緒にやった事があった。
その三上君がある日、父親の転勤で転校する事になってしまった。
その話は、1月くらい前から噂で流れ始めた。
きっと三上君が、女子達に話した事で情報が流れたのだろう。
女子達の間では、三上君が転校する噂が、騒然の話題になっていた。
俺はこの状況を見て「凄くモテやがって、うらやましい」と感じた。
そしてクラスで、三上君の転校のお別れ会をしようという事になる。
クラスのみんなで寄せ書きを作り、手紙を書いて送った。
転校前に、三上君用の文集を、みんなで作り渡してあげた。
三上君は、転校するまでの間、学校が終わったら女子達と結構遊んでいた。
ある時、三上君と女子が遊んでいたのを見かけた。
そうしたら、普通に缶蹴りをして遊んでいる。
俺は「女子も男と同じ遊びをして楽しいんだ~」新発見をした。
それを見て女子達に「俺もまぜて」と頼んでみた。
返事は「鬼なら良いよ」と言われた。
でも、転校してしまう三上君と遊べる機会なんてもう少ないから了解した。
俺は、缶蹴りの鬼にされたが、女子ごとき簡単に見つけられた。
でも三上君だけは、見つけられない。
そして缶を三上君に蹴られて、また鬼にされてしまう。
三上君は、缶蹴りが大得意で、俺は何度も缶を蹴られて鬼が続いた。
三上君の、女子達の前での勇者っぷりは、もの凄い。
完全に俺は、ピエロにされてしまった。
そして、日が暮れるまで遊んだが、俺はずっと鬼のままで終わった。
転校当日、三上君からクラスのみんなに、鉛筆がプレゼントされた。
そして三上君は、女子達に惜しまれつつ、転校して行ってしまった。
1週間後、三上君の住んでいた団地の前を通ってみた。
そうしたら、三上君の家の、いつものカーテンがかかっている。
まだ、引っ越してないのだろうか?
俺は、この時これ以上特に何も気にせず、通り過ぎた。
そして、しばらくしたある日。
三上君が、自転車で走行しているのを、遠くから発見した。
俺は「まだ引っ越してないのか?」と不思議に感じた。
クラスの間でも、三上君の目撃情報が、多数噂になっていた。
引っ越しもせず、学校へも行かず、どうしたんだろうと心配だった。
ある時、女子達の話を聞いていた。
その話の中で、三上君の父親の会社が倒産した、という情報を聞いた。
俺は、何か凄い闇深さを感じ、これ以降三上君の話をしなくなった。
ただ学校に行ってない事だけは、心配だった。
学校に行かないと、授業についてこれなくなると、感じていた。
1月後。
先生がある日突然、転校生を紹介すると言ってきた。
そして教室に入ってきたのは、あの三上君だった。
正確な事情は解らないけど、舞い戻ってきた理由は聞かない事にした。
何だか、聞いたら自殺しちゃうような気がした。
きっと三上君も、相当な覚悟を持って、また来たのだろうと感じた。
ただ1つ、気になっていた事があった。
最後に貰ったあの鉛筆の代金が、無駄になってしまったなと。
その後の三上君は、あっという間に昔の環境を取り戻していた。
クラスのみんなも、三上君が戻ってきた理由を、誰も聞かなかった。
きっと全員子供なりに、大人の闇の事情を理解していたのだろう。
そして三上君は、相変わらず女子に人気のままだった。
そして俺はまた、三上君と女子達で、缶蹴りをして遊んだ。
でもやっぱり、ずっと鬼役ばかりだ。