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テレビ番組で登録商標が「言えない」のか考察してみる

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  • 連獅子
  • 2021/10/09 02:22
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先日ネットサーフィン(死語)をしていたら、テレビ番組で「登録商標なので言えない」という発言があったようです。

 

記事の内容としては、最近流行しているワード「親ガチャ」についての話のようなのですが、「ガチャ」というのは株式会社タカラトミーアーツが有する登録商標で、指定商品は第9類(カプセル入りおもちゃの自動販売機 その他の自動販売機)です。

 

どうやら番組内では「ガチャ」が登録商標なので放送内で発言できない、ということらしいのですが、記事を引用すると以下のような具合だったようです。

「親ガチャ」というワードについて「カプセル式おもちゃに例えた言葉」と説明した羽鳥。「ガチャガチャというのは、登録商標なので言えないんです。カプセル式おもちゃ。まぁ、でも、あれです」と左手を回して表現する。

これに同局の玉川徹氏が「ガチャはいいわけ?」と質問すると、羽鳥は「ガチャもダメです」と回答。続けて玉川氏が「じゃあ親ガチャってダメなのか」と漏らすと、羽鳥は「親ガチャって言葉はいいんですけど、これってなに? って細かく追求するとダメですね」と説明した。

 

え?

 

もうこれは中学・高校生レベルの話だと思うのですが、結論から言うと「そんなわけありません」。そもそもダメと言いながらも言ってますし(苦笑)。

放送をみていないので、実際にどのように話されたのか、なにか前提条件等があったのかは不明ですが、記事の内容に限定して見れば、まったく法律的知識のないひとが見た場合、「登録商標は口にしてはいけないんだ」「登録商標となっている言葉を言ったら犯罪」などと勘違いするかもしれません。

しかし私のブログを読んでいる方ならご承知と思いますが「登録商標は言葉狩りではない」ということは以下のエントリでも記載したとおりです。

 

登録商標を口に出すことは商標を使用しているのか

まず、そもそもの話、登録商標を「言う」ということについて、それが商標の使用にあたるのか、検討してみます。いつもの商標法2条3項各号です。長いですが引用します。

 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。

 商品又は商品の包装に標章を付する行為

 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為

 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為

 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為

 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為

 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為

 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号及び第二十六条第三項第三号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為

 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為

 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為

 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為

第九号以外は「付する」行為や、「付した」ものを提供する行為、などですね。これは標章を物品やサービスの提供時に示す、ということになります。第九条は「音の標章」ですから、これについては当該音を発することが標章の使用となります。

なお、「標章」というのは「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」をいいます。

この標章のうち、「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」や「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの」が商標といいます。

この商標のうち、特許庁で審査を受け、商標登録されたものが「登録商標」となります。

 

さて、では「ガチャ」という登録商標について、どのような態様が「登録商標の使用」となるのでしょうか。

まずガチャは文字商標です。音の商標として登録されていません。この時点で上述した商標法2条3項9号の適用が外れます。

ガチャという登録商標は指定商品「カプセル入りおもちゃの自動販売機」について登録されているので、例えば商標法2条3項1号に適用してみると、『カプセル入りおもちゃの自動販売機にガチャという文字商標を付する行為』は登録商標の使用になります。

商標権を有する商標権者が有する権利は、商標法25条「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」というものです。専有する、というのは自分だけが有する、という意味ですから、裏を返せば他人が指定商品等について登録商標の使用をする権利はないよ、という意味になります。

 

では、テレビ番組で指定商品9類について権利取得された文字商標「ガチャ」を言葉として発して放送する、というのは登録商標の使用なのでしょうか。上述した商標法2条3項各号にはどれにも該当しないことは明白です。

結論として、登録商標の使用には該当しないので、商標法違反にはあたらない、となります。

 

ただ、そんなことはエリートの集まるテレビ局ですから、当然知っているはずです。

 

ではなぜ「言ってはいけない(でも言ってる)」という、ちょっと自粛っぽい演出をするのか、考察してみたいと思います(ここからが本題)。

 

登録商標の記載等を避ける場合

法律論と現実の世界とは乖離する部分が多々あります。まあ、よく言われることとしては「法律に違反してなければ何をやってもいいのか」とかありますね。

商標法に違反するわけではないけれど、登録商標の記載等を避ける場合というのが実際にあります。

例えば、特許公報です。

特許公報というのは、発明に関する説明書みたいなものです。特許権がとれれば権利書としての側面も持ちます。そうした中に登録商標が記載されているとどうなるでしょうか。

仮に、こんな発明があったとします。

ドローンの操作用プログラムであって、Androidで動作することを特徴とするプログラム。

AndroidはGoogleの登録商標ですが、別に特許公報に記載したからといって商標法に違反することにはなりません。

しかし、これは特許としての側面から、避けるべきとされています。その理由は、同じ商標名のものでも、特定の商品だけに使用されるとは限られず、また同じ商品であっても時期によってマイナーチェンジ等により中身が異なっている場合があるため、その商標名によって特定される物が異なる可能性があるためです。

つまり、上述の発明の場合、将来的に(少なくとも20年くらいにわたって)Androidって今のAndroidと同じものなの?っていう疑問があるってことです。

なので、上述のような発明を特許庁に出願すると、特許審査官から「記載が不明確です」というお手紙(拒絶理由通知)が来ます(特許法36条6項2号違反)。

 

この他には、商標の普通名称化を避ける目的で、商標の記載等を避ける場合があります。これは最初のテレビ番組での使用自粛理由になるかもしれません。

 

商標の普通名称化問題について

この問題についてはいろいろと論文も出ています。Wikiにわかりやすくまとまっていますが、簡単に言えば、以下のような流れで理解できると思います。

1.登録商標は、「○○といえばA社の□□製品につけられた商品名」という識別力等を有するのが必須

              ↓

2.世間で□□製品に対して○○という名前が頻繁に使われ、辞書にまで載ってしまう

              ↓

3.世間では「□□製品といえば○○」という認識が広まり、○○が□□製品を示す普通名称となってしまう

 

詳説はしませんが、有名な事例として、正露丸事件があります。

 

登録商標が普通名称化すると何が起きるのかというと、なんと、商標の価値はゼロと判断されるのです。せっかく自分の製品について商品名を登録商標にして、コストをかけて宣伝し、世間に広めたのに、その商品名が深く浸透して普通名称化した途端、「あなたの商標権(独占権)に価値はありません」と判断されてしまうのです。悲しすぎます。

パテント誌2020 Vol. 73 No. 15(別冊 No.25)では、以下のような記載があります。

普通名称化した場合,商標権の効力が及ばない(商標法第 26 条第 1 項第 2 号及び第 3 号)。登録した商標が普通名称化すると,独占的な使用が制限されることになるため,商標権者はある意味その登録商標に費やした投資を無駄にすることとなり,また,登録商標の財産的価値を失うともいえる。

このため、商標権者は自分の登録商標を宣伝するのと同じくらい、いやそれ以上の意識をもって、自分の商標が普通名称化しないようにする努力をする必要があるのです。

そして、上記パテント誌の論文には、普通名称化防止のための方策の一つとして、以下のような対策が記載されています。

(4)他者による無断使用の監視 ②

他の事業者,マスメディア,辞書の出版社等に対し監視を行い,登録商標が普通名称的な使用のされ方をしていないかどうか注意を払う。第三者により自己の商標が普通名称として掲載された場合にはそのような使用を中止するよう通知し,その商品・役務の普通名称を紹介して注意を促す。 

ただ,商標権者には掲載取消を求める権利があるわけではないため,あくまでもお願いベースで行うにとどまる。

おそらく、テレビ局はこのような意図をもって、むしろ登録商標であることをアピールするように演出しているのかもしれません。

ただ、そのような意図があるのならそう説明しないと、視聴者はミスリードされていく可能性が高いと思われます。そのような可能性に考えが至らないというのは、メディアとしての意識がやはり低いと言わざるを得ないかなあ、と思う次第です。

 

まとめ 登録商標を口にすることは法的問題はない 権利者は普通名称化に注意

今回はテレビメディアによる登録商標を放送することの自粛?について書いてみました。

登録商標は言葉狩りや言論統制ではありませんので、我々一般人が登録商標を口にしても何の問題もありません。そんなものをいちいち調べて発言に注意しないといけないなんて、そもそも現実的ではありません。

他方、商標権者は自己の登録商標が普通名称化しないように注意しないといけません。テレビ番組のスポンサーになって『我が社の商品名を口にするときは必ず「○○は△△社の登録商標です」と言え!』と圧力をかけたりすることが必要なのかもしれません。

なかなか面倒な世の中だなあ、と思うかもしれませんね。もっと自由に生きたいものです、、、

 

では今日はこのへんで。

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