正月ともなれば普段は酒を飲まないわしでも、なんだかめでたい雰囲気に当てられて酒を飲みたくなるものだ。
しかし、そんな高揚した気分を台無しにするような奇妙で不可解な事件が起きたのだ。
わしは強い酒が飲めぬ…。
だからいつも決まって買うのはサントリーの"ほろよい"だ。わしの1日のアルコール摂取許容度は3%で350mlが限界だ。これ以上はアウト。飲めば"死"である。
したがって、今回もわしはいつものように"ほろよい"を手に取りカゴに入れるとレジに向かい会計を済ませた。
家に帰り、よーし飲むかと袋の中から取り出してみれば…
それはなんと"ほろよい"ではなかった。
そこにあったのはキリンの"氷結"だったのだ…
ばかな…
わしは確かにほろよい(白いサワー)を選んで手に取ったはず…
それがどういうわけか1列隣に陳列されていた氷結に変わっていた…!
取り間違えたというのか…?
まぁ、そんなこともあるかもしれない。
きっとよく見ずに手に取ってしまったんだろう…次は気をつけよう。
あまり納得はしないものの、こんなことで頭を悩ますほど暇では無い。わしは氷結を冷蔵庫の奥にしまった。今度誰かにあげよう。
くそ、ほろ酔いは、明日買ってくるか…。
次の日、わしはまたコンビニに立ち寄り酒を買った。もちろん"ほろよい(白いサワー)"をチョイスする。
前日はお預けをくらっている。
今日こそは日本人のだれもが思い浮かべる正月像を。酒を飲みながらテレビの特番を眺めるという三賀日を実行すべくほろよいを購入した。
家に帰って、袋から取り出す。
なんとそこには、"氷結"が入っていた…!!
ばかな…!
ほろよいは…?
おかしい、またしても取り間違えたというのか??
今回は気をつけて選んだはずだ…。2日続けてお預けをくらうのはごめんだと、注意深く酒を手に取ったはず…。
ありえない…。
1つ隣の列に陳列してある酒にすり替わっていることが2回も続くことがあるのか?
しかも2回目は気をつけていたのに、だ!
不可思議!これは絶対になにか人外の力が働いてる…
妖怪がいる…まちがいなく妖の仕業に違いない。
成人男性の暮らす部屋に必ず『妖怪"チ〇毛散らし"』が存在しているように、あのコンビニのドリンクコーナーには間違いなく『妖怪"別の酒渡し"』が存在している…!!
ドリンクコーナーの扉を開けて、我々が酒を手に取るその瞬間を、いまかいまかと待ち構える邪鬼がいる…!
客が酒を手に取る寸前で、隣の列の別の酒とすり替える…!なんと悪辣な!
わしは"ほろ酔い"しか飲めん!
"氷結"ではダメなのだ!!!
くそ!たまに「よ〜し、今日ぐらいハメ外しちゃおっかな〜」とか思って酒を買ってみればこれだ!!世の中はそこまでわしに素面を強制するのか!?たまにぐらい気持ちよくアルコールを摂取させろよ!(3%以下限定)
わしが酒を飲みたくなることなんて滅多にないんだぞ!?それをお前…飲めもしねぇ強ェ酒渡してくれやがって…!
確かに、酒は苦手だし、好きではない。
実のところ、酒の何がいいのかよくわからない。飲んで気持ちよくなれたことなどないからだ。いつも身体がだるくなるだけ、調子が悪いとさらに頭痛と眠気も襲ってくる。だから世間の人々が何故そこまで酒に魅了され、事ある毎にアルコールを摂取しようとするのかわからない。不可解である。しかし、その不可解がマジョリティなのだ。だから余計に気に入らぬ。好きではないのだ。わしは"カ→ナ→ブン"って発音したいのに世間では"ケァ⬆ナヴン"って発音するのがスタンダードなのと同じような気持ち悪さがあって好きではない。
でも好きでもねぇ酒が飲みたくなる時だってあるんだ…こんなわしでも世間一般に浸透する慣習に倣い、洗脳的で恐ろしいCMに身を委ね脳みそをアルコールに浸したくなる時もあるのだ。そんな時ぐらい気持ちよくわしに酒を飲ませてくれよ!?くそ!酒はいつもわしに厳しくする!本当は飲みたくないのに!飲みたくさせられる!!でも飲めない!!ふざけるな!!!
正直、憧れるんだよ…晩酌で1杯あおってクゥ〜!とか言ってる奴に!なんだあれ?
なんであんな美味そうなんだ?わしにもやらせろ!くそ!酒なんて飲みたくないのに!
ああいうテレビCMで、あたかも晩酌や飲酒がまるでご褒美や幸せ、毎日の楽しみ、みたいな描写をして印象づけるのやめてもらえませんか?不健全な価値観を植え付けるのやめてもらえませんか???アルコールって、毒ですよね??我々は洗脳されている!アルコール業界に脳みそをわし掴みにされている!!
酒と幸せを結びつけるな!押し付けがましいんだよ!
テレビはアル中量産マシーンだ!一刻も早く放送禁止にしろ!「※お酒は20歳からです」とかわざわざ注意書きするならもうそれ18禁指定でいいだろが!放送するな!全部モザイクかけろ!公共の電波で未成年の脳までアルコールで浸そうとするな!この廃人共が!
(いいちこのCMは結構好きだった。)
でも、でも、やっぱり正直わしも、めっちゃお酒を楽しむのに憧れてる…。
わしも赤だの白だのいいながらルネッサンスしたいし、麦だのホップだの言いながら白ヒゲ作りたいし、芋だの米だの比べてみたいし、甘いだ辛いだ言ってみたいし、熱いの冷たいの飲み分けたい。
どこ何処の地酒が〜どこ何処の国発祥の酒が〜とか見聞広めたいし、旅行に行ったらその土地の酒を飲み比べるとかやってみたい…。
そして、なにより料理ごとにお酒を変えて楽しんでみたい。
焼き鳥にはビール、チーズにはワイン、鮨には日本酒みたいな感じで食も酒も楽しみたい。料理が酒を、酒が料理を引き立てるベストな組み合わせを探究したい。
わしが意識して楽しめる組み合わせといえば、ポップコーンにはペプシ!ピザにコーラ!寿司は緑茶!オレオには牛乳!…ぐらいのものである。
なんと貧相な舌と感性だろうか…わしは小学生か??
もっと言うと、わしもお酒についてうんちく語りたい…
お酒のうんちくを楽しそうに語っている大人達が羨ましい…アダルトを嗜んでます感が羨ましい…くそ!!羨ましいぞクソが!!
なんなんだよ!?
ロック?ストレート?ショット?
え?バンドで野球でビリヤードなんですか?競技を統一しろ!!
純米大吟醸極限??八海山雪室貯蔵三年??菊姫菊理媛??
え、なに?卍解?斬魄刀ですか??お前らいつから死神になった?ふざけんなよドイツ語で喋れ、陛下からのダーテン(情報)にはそんなの載ってねえから!フォルシュテンディッヒするぞこの野郎!
わしは悔しい。酒が飲めないのが悔しい…。
酒さえ飲めたなら、今回のように卑劣な妖怪にコンビニで酒をすり替えられようとも、何も気にせず飲み干すことができただろう…
悔しい…酒さえ飲めたならば…
おのれ"妖怪別の酒渡し"め…お前さえ居なければ…お前さえ居なければわしの心がこれほどまでに酒への憧れで渇くこともなかった…
"妖怪チ〇毛散らし"ぐらい知名度のあるメジャー妖怪におちょくられるならまぁ許せる。
あぁ!今日も散らされてる!恐ろしや!とか言いながら人外の及ぼす神通力の一端に触れられたことをありがたく思いながら掃除機をかける。
しかし"妖怪別の酒渡し"ではダメだ。こんなドマイナーな低級妖怪なんぞに嫌がらせされたところで何も嬉しくない。別の酒渡す?なんだそれは?ふざけんなよ3流妖怪如きが調子に乗りやがって…
わずかな%で飲める飲めないが左右されるギリギリのラインで酒を楽しもうとしているこのわしの涙ぐましいささやかな晩酌タイムをお前は奪ったのだ!2夜連続で!
そして生意気にもわしの下戸コンプレックスを刺激しやがった!この田舎モンのクソ妖怪め!!どっかいけ!!
わしは涙を流しながら2本目の氷結を冷蔵庫の奥へとしまった。
何が氷結だ!ふざけんな!
どいつもこいつも楽しそうに酔っ払いやがって!!赤ら顔をこっちに向けるな!無駄にでかい声で喋るんじゃねえ!人の車でクソをするな!
酒を楽しめないわしの心はまさに氷のように凍てつき閉ざされた… 大紅蓮氷輪丸。そうだ、それがわしの愛酒だ。
お酒?ええ、もちろん飲んでますよ。
銘柄?『大紅蓮氷輪丸』ですね。これがなかなか美味しいんですよ。凍っちゃってて瓶から出てこないんですけどね。アッハッハァ!!
いっそのこと酒など誰も飲めないように全て凍りついてしまえばいい!
わしが飲めない飲み物などこの世に不要!!
飲めない奴がいると冷める?
ふざけんな、いいからお前ら全員早く醒めろ。そうだ!今こそ世の酔っ払い共にわしの氷輪丸を食らわす時だ!いけ!霜天に坐せ!!!
え?アルコールは凍らないって?
……卍解…!!
火火十万億死大葬陣!!!!
肝臓もう一個くれ。