心室細動によって13分間心肺が停止し、私はいわば一度死んだ。
そのまま意識回復せず、死ぬか植物人間と言われていたらしいが、10日目に自発呼吸と意識を回復した。
低酸素脳症の後遺症で、転倒しやすいという身体障碍となり、やむなく、定年を待たずして教職を退いた。
妻とは早くに離婚し、ふたりの子どもは独立して遠方で働いている。
私は一人暮らしのため、しばしばランチを外ですます。
こないだも行きつけのカフェでランチした。
住宅街の中のその店の客層は、主に主婦のランチお茶会、定年退職後のおじさんたちの寄り合い。
しかし、そのときは、たまたま何の休みだったか、母親と小学生の娘がテーブルに向かいあっていた。
聞き耳を立てるまでもなく、聞こえてきた言葉がおもしろかった。
「ここに食べにきたこと、お父さんに言うたらあかんで」
彼女らが頼んでいたのは、僕と同じプレートランチ。
これにスペシャルティコーヒー(単品450円)が付いて1200円だから、めちゃくちゃ贅沢というわけではない。
ではお父さんは何を食べているのか。
社員食堂の500円のランチ?
考えただけで揚げ物の油が古そう。
まさかのコンビニ弁当?
愛妻弁当ならまだいいけど。
このランチを内緒にしなければいけない、パパの昼ご飯っていったい?
僕は思わず色々想像を巡らしてしまった。
かく言う僕も、現役時代は、昼食中に、生徒に事件でも発生すると、広げた弁当を置いたまま走っていき、そのまま夕方まで戻れなくなることもしばしばだったが・・・。
体は不便になったが、公立学校共済組合に掛け金してきた障碍者年金などで、なんとか食べていけないことはない。
今日はお腹がすいていたのでデザートに出来立ての熱々アップルパイにアイスクリームも頼んでしまった。
お昼のカフェのささやかなグルメである。