

インターネットの掲示板、特に2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のなんJなどで「FXで作った借金は自己破産できない」という情報を目にしたことがある人は多いでしょう。FX取引で多額の損失を出し、借金を抱えてしまった人にとって、この情報は非常に不安を煽るものです。しかし、この「FXでは自己破産できない」という言説は、実は正確ではありません。正確に言えば「原則として免責が認められにくいが、実際には多くのケースで免責されている」というのが実情です。本記事では、FXによる借金と自己破産の関係について、法律的な観点から詳しく解説していきます。
まず、自己破産について正しく理解する必要があります。自己破産は、実は「破産手続」と「免責手続」という二つの手続きから構成されています。この二つの手続きを混同してしまうと、「自己破産できない」という誤解が生まれてしまいます。
破産手続とは、債務者が返済できなくなった場合に、その人の財産を金銭に換えて債権者に公平に配当し、債務を清算する手続きのことです。ただし、ほとんど財産を持っていない場合には、この破産手続は開始と同時に終了します。重要なのは、FXが原因の借金であっても、破産手続自体は開始されるということです。つまり、「破産できない」わけではないのです。
問題となるのは、その後の「免責手続」です。免責とは、裁判所が免責許可決定を出すことで、借金の支払義務を法的に免除してもらうことを指します。自己破産の真の目的は、この免責を得ることにあります。破産手続だけでは借金は消えず、免責許可決定が出て初めて借金から解放されるのです。
そして、この免責には「免責不許可事由」というものが存在します。免責不許可事由とは、破産法第252条第1項に定められている、一定の事情がある場合に裁判所が免責を許可しないことができる事由のことです。FXが問題視されるのは、まさにこの免責不許可事由に該当するからなのです。
破産法第252条第1項第4号には「浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと」という免責不許可事由が定められています。FX取引は、この条文における「その他の射幸行為」に該当すると考えられています。
射幸行為とは、利益を得られるかどうかが不確実な行為のことを指します。FX取引は市場の価格変動を予測して売買する行為ですが、為替相場の将来的な動きを正確に予測することは極めて困難です。この点において、パチンコや競馬などのギャンブルと同様に、高いギャンブル性があると法律上は判断されるのです。
つまり、法律の建前上は、FX取引によって多額の借金を作った場合、それはギャンブルで借金を作ったのと同じように扱われ、原則として免責は認められないということになります。これが「FXでは自己破産できない」という情報の根拠となっているのです。しかし、ここで重要なのは「原則として」という言葉です。法律には例外があり、それが次に説明する「裁量免責」という制度なのです。
免責不許可事由がある場合でも、破産法第252条第2項には「裁量免責」という制度が定められています。裁量免責とは、免責不許可事由があったとしても、裁判所が様々な事情を総合的に考慮した上で、免責を許可することができるという制度です。この裁量免責があるからこそ、FXによる借金でも実際には多くのケースで免責が認められているのです。
裁判所は、債務者の反省の態度、破産に至った経緯、現在の生活状況、更生の可能性など、様々な要素を総合的に判断して裁量免責を行うかどうかを決定します。実務上、FX取引が原因の借金であっても、適切に手続きを進め、誠実な態度で臨めば、裁量免責が認められる可能性は十分にあります。統計的に見ても、免責不許可事由がある事案の大多数で裁量免責が認められているのが実情です。
ただし、裁量免責はあくまで裁判所の裁量によるものですから、確実に認められるという保証はありません。裁判所に「この人には更生の可能性がある」「反省している」「今後は同じ過ちを繰り返さない」と判断してもらう必要があります。そのためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
裁量免責を得るためには、まず何よりも裁判所や破産管財人に対して誠実に対応することが基本となります。裁判所や管財人からの呼び出しや問い合わせには、可能な限り迅速に対応し、求められた情報については正確かつ誠実に回答する必要があります。虚偽の申告や隠し事をすることは絶対に避けなければなりません。もし嘘が発覚すれば、それ自体が新たな免責不許可事由となり、免責が認められなくなる可能性が高まります。
また、裁判所や管財人から求められた資料は、指示通りに提出することが極めて重要です。自己破産の申立時には、財産目録、収入証明書、家計簿、住民票、戸籍謄本など、様々な書類の提出が求められます。これらの書類を適切に準備し、期限内に提出することで、誠実な態度を示すことができます。
さらに重要なのは、自己破産の申立後にFX取引を完全に停止することです。自己破産を申し立てた後も取引を続けていた場合、反省していないと判断され、裁量免責が認められない可能性が極めて高くなります。自己破産を決意した時点でFX口座を解約し、二度と取引できない状態にしておくことが推奨されます。借金を取り返そうとして再度FX取引に手を出すことは、最も避けるべき行動です。
また、FX以外にもギャンブルや他の投機的取引による借金がある場合には、それらについても正直に申告し、全てを清算する姿勢を見せる必要があります。複数のギャンブルや射幸行為を重ねている場合、裁量免責のハードルは高くなりますが、それでも誠実な態度と真摯な反省の姿勢を示すことで、免責が認められる可能性は残されています。
一方で、裁量免責が認められにくくなる、あるいは完全に認められなくなるケースも存在します。最も問題となるのは、過去7年以内に自己破産で免責を受けている場合です。破産法では、免責許可決定の確定から7年以内に再度の免責許可申立をした場合、それ自体が免責不許可事由となります。つまり、短期間に2回目の自己破産を申請することは、原則として認められないのです。
また、破産手続中に特定の債権者だけに優先的に返済する行為も問題となります。破産においては、債権者を平等に扱わなければならないという「債権者平等の原則」があります。親しい友人や家族だけに返済し、他の債権者を無視するといった行為は、この原則に反するため、免責が認められない原因となります。
さらに、裁判所や破産管財人に対して非協力的な態度を取ったり、虚偽の説明をしたり、財産を隠したりした場合も、免責は認められません。特に財産隠しは重大な問題であり、場合によっては詐欺破産罪という刑事罰の対象にもなり得ます。裁判所から求められた資料の提出を拒否したり、面談を無断でキャンセルしたりすることも、非協力的な態度と見なされます。
インターネット上で「FXでは自己破産できない」という情報が広まっているのは、おそらく免責不許可事由の存在が一人歩きした結果だと考えられます。確かに法律の条文だけを読めば、FXは射幸行為として免責不許可事由に該当します。しかし、実際の運用では裁量免責という制度があり、多くのケースで免責が認められているという現実を知らない人が多いのです。
また、「破産できない」という表現自体が誤解を招いています。正確には「破産手続は可能だが、免責が認められない可能性がある」というべきです。破産手続自体は、FXが原因であっても問題なく開始されます。問題は免責の可否であり、そして免責についても裁量免責の可能性があるということを理解する必要があります。
さらに、FXによる借金であっても、その経緯や金額、本人の反省の度合いによって、裁判所の判断は大きく変わってきます。数十万円程度の損失であれば、他の要因と組み合わさっていても比較的免責が認められやすい傾向があります。一方で、数千万円という巨額の損失を出し、しかも繰り返しFX取引を行っていたようなケースでは、免責のハードルは高くなります。
もしFXによる借金で裁量免責が得られない可能性が高いと判断される場合でも、自己破産以外の債務整理の方法があります。個人再生や任意整理といった手続きは、免責不許可事由に関係なく利用することができます。
個人再生は、裁判所の認可を得て借金を大幅に減額し、原則3年から5年で分割返済していく手続きです。住宅ローンを抱えている場合でも、マイホームを手放さずに債務整理ができるというメリットがあります。FXが原因の借金であっても、安定した収入があり、減額後の借金を返済できる見込みがあれば、個人再生を選択することができます。
任意整理は、裁判所を通さずに債権者と直接交渉し、利息のカットや返済期間の延長などを行う手続きです。自己破産や個人再生と比べて比較的簡易な手続きであり、職業制限などもありません。ただし、借金の元本自体は減額されないため、ある程度の返済能力が必要となります。
FXによる借金で自己破産を検討する場合、必ず弁護士や司法書士などの専門家に相談することが重要です。裁量免責が認められるかどうかは、個々のケースによって大きく異なります。借金の総額、FX取引の期間と頻度、他の借金の有無、現在の収入状況、家族構成など、様々な要素が総合的に判断されます。
専門家は、これまでの経験と法律知識に基づいて、裁量免責が認められる可能性を評価し、最適な債務整理の方法をアドバイスしてくれます。もし裁量免責が難しいと判断される場合には、個人再生や任意整理など、他の選択肢を提案してくれるでしょう。また、自己破産の手続きを適切に進めることで、裁量免責が認められる可能性を高めることもできます。
弁護士や司法書士に依頼する費用を心配する人もいますが、多くの法律事務所では初回相談を無料としていますし、費用の分割払いに応じてくれるケースも少なくありません。法テラスを利用すれば、収入が一定額以下の場合、費用の立て替えを受けることも可能です。
結論として、「FXで作った借金は自己破産できない」という情報は正確ではありません。確かにFX取引は免責不許可事由に該当しますが、裁量免責という制度があるため、適切に手続きを進めれば多くのケースで免責が認められています。
重要なのは、FX取引を完全に停止すること、裁判所や破産管財人に対して誠実に対応すること、虚偽の申告をしないこと、そして真摯に反省の態度を示すことです。これらの条件を満たせば、FXが原因の借金であっても、裁量免責を得られる可能性は十分にあります。
インターネット上の断片的な情報だけで判断せず、まずは専門家に相談することが何よりも重要です。借金問題は一人で抱え込まず、適切な専門家のサポートを受けながら解決への道を探っていくことが、新しい人生への第一歩となるでしょう。FXで失敗したからといって人生が終わるわけではありません。適切な債務整理を行い、再スタートを切ることは十分に可能なのです。











