趣旨:今後日本は国内だけでビジネスをしていると切羽詰まってくるのは明白であります。そこで海外でビジネス展開するためには我々は何が必要なのか。今回は「エストニアで会社を立ち上げる」ことを想定し、エストニアの電子住民制度というものについて登壇者:Shimakuraさんが解説。
登壇者:Shimakuraさん
主に旅行業のシステムを手がけるSE。またエストニアでブロックチェーンスタートアップ、中国のwechat上の日本国内向けサービスの作成に携わるなど、グローバルに幅広く活動している。
会社を立ち上げる場合に日本ではお金(税金など)や時間がかかるため非効率的であるのに対して、エストニアではE レジデンシー制度というものがあり、それに加入していればエストニアで簡単に会社を作れるということが判明したためエストニアでブロックチェーンスタートアップに踏み切った。しかしエストニアに半年以上いないと日本で税金を取られてしまうため日本国内にいる時間が圧倒的に多い人には効果は薄いとのこと。現時点では日本の個人事業主として働いてる。
内容:
世界でブロックチェーンという概念が浸透したのがここ2年のことですが、エストニアという国では随分と前からブロックチェーンのシステムが政府機関に導入されています。E レジデンシー制度というものです。
エストニアは旧ソ連に支配されていた歴史があります。1991年に旧ソ連から独立。しかし、自国の行政システムを作ろうとするものの困難を極めました。なぜなら、第一に、当時のエストニアの経済規模は小さく国の財源が少なかったこと、第二に、「国土の半分が森で且つ島国」という厳しい状況下で先進国が採用している行政システムを構築できる程技術知識がエストニアにはなかったことが理由として挙げられます。そこでエストニアは、E レジデンシー制度を導入し、それを用いて、自国の住民があらゆる行政サービスを利用する際に、その手続きを全て電子申請化させることを可能にし、低コストでペーパーレス(効率的)な行政システムを作りました。
エストニアでは基本的に全ての行政サービスを電子申請できるのですが、3つだけできないことがあります。1つ目は婚姻、2つ目は離婚、3つ目は不動産の売却です。なぜなら「行政サービスの手続きが便利すぎる」というその気軽さが故に人生を大きく左右するような重大な決断を安易に踏み切る人たちが出てくる恐れがあるので、よく考えて決断しなさいという注意喚起のために、特に重大であると考えられる上記の3つに関しては敢えて電子申請できないようにしています。
日本人である我々がE レジデンシー制度を利用するメリットとして、E レジデンシーカードを持っていると、エストニアで簡単に会社を立ち上げられるというメリットがあります。
〜Shimakuraさんの実演タイム〜
マルコさんの質問
1.エストニアが描く、E エストニアという電子国家戦略の中で、エストニアはブロックチェーンのシステムを使った暗号通貨、エストコインを発行し、それを基軸通貨として位置付け、世界経済を回す、エストコインを使ったビジネスを台頭させようとしている思惑があるのではないかという疑問。
2.エストニアが我々のような外国人でもE レジデンシーを取得できるようにしたのは、エストニアの何らかの戦略の中の1つなのではないのかという疑問。
2.についての回答
エストニアが自国の住民だけではなく世界的に電子住民を広げている背景には、エストニアがロシアの侵略を防ぐ防御手段として電子住民を活用しているということが挙げられます。
数年前にロシアがエストニアに DDoS 攻撃を仕掛けてエストニアの銀行などのシステムをダウンさせたことがあります。たまたま DDoS 攻撃だったのでデータは取られなかったそうです。このことからロシアがエストニアの脅威であることには間違いないし、DDoS 攻撃の他に、データを改ざんするという攻撃を受けるであろうという予測が立っていたようです。それを防ぐ非常に効果的な防御手段としてブロックチェーンのシステムが活用されています。例えば、ロシアが、エストニアのブロックチェーンを維持・管理するユーザーのどれか一つのサーバーを、DDoS 攻撃によってダウンさせるまたはデータを改ざんする攻撃を仕掛けたとしても、その攻撃を受けなかったサーバーさえ生きていれば、前者の場合、生きているサーバーが正常どおり働くし、後者の場合、生きているサーバーを元に攻撃を受けたサーバーのデータを復元することができます。
そのためにE レジデンシー制度はブロックチェーン技術を用いているのです。
またその効果はブロックチェーンを維持・管理するユーザーが分散していればしているほどそれに比例して大きくなります。さらにE レジデンシーがエストニア国民だけでなく世界中の人々で構成されているものであるとしたら、ロシアから侵攻を受けた時に被害を受けるのは、エストニア国民だけではなく、そのE レジデンシーに参加している世界中の人々ということになります。ですからエストニア政府は世界中の国の政府にロシアがエストニアに侵攻しないように働きかけるという戦略が可能になります。
以上のことから、エストニアはブロックチェーンのシステムを活用した電子住民を世界中に広げていこうとしていると考えられるわけです。
ガードタイムという会社がそのシステムを開発して実際に政府がそれを導入している状態が今になります。ガードタイムというものは、リップルもそうですが、ビットコインが出る前から存在していました。ブロックチェーンの一番最初がビットコインとは言われていますが、実際ブロックチェーンという技術は、様々な技術の塊なので、サトシナカモトの論文が出る前からブロックチェーンとよく似た考え方はあったのです。それを実際に具体的なサービスにしたものがガードタイムやリップルという話になります。2008年の論文でサトシナカモトがビットコインの原型となる仕組みが発表され、それに基づいていろいろなブロックチェーン関係のサービスが出てきていますが、それより前にも、それに似た考え方に基づいたサービスがあり、それも含めて純粋なブロックチェーンであるビットコインの方に寄せてきているということです。AIも、AIというものが言われる前からそれによく似たものがあったし、AIという言葉に無理矢理持ってきた研究ありました。それと同様に、ブロックチェーンという名前が世の中に普及してきたのでそちら側に寄せていったということです。
改ざんされたとしても何月何日何時何分に改ざんされたと後からトレースできるか、本物のデータがこれだというのがわかるということですが、実際に刻まれているのは、オリジナルのデータではなく、オリジナルのデータから取られたハッシュ値が刻まれるのであり、そのハッシュ値と紐付けされているオリジナルのデータは別の場所で一箇所に集中管理されています。そうすると、ブロックチェーン上に刻まれているハッシュ値が攻撃を受けて改ざんされた場合には対応することができますが、ブロックチェーンの外でハッシュ値と紐づけられたデータそのものが吹っ飛んだ場合には打つ手がないのです。なぜブロックチェーン上でオリジナルのデータを刻まないのかと言うと、そうするとブロックチェーン上のトランザクションが大量に発生してしまうからです。ですから将来的にその問題を技術的に解決することができるかどうかが鍵となってきます。
もし、オリジナルのデータが吹っ飛んだ場合どうするのかというと、エックスロード という仕組みが E レジデンシーにありまして…( この話の流れを僕が途中で関係のない質問をしたせいで断ち切ってしまい、エックスロードの話がなくなってしまいました。すいません… orz )
〜各々質問タイム〜
???さんの質問
会社に不動産持たせて会社の売却することはできるのかという疑問。
ガードタイムというものを政府ではなく、民間に持ってこようとしたのがPlanetwayという会社なんです。この会社は最初はエストニアでヨーロッパに対して展開していたのですが今は世界中でやっています。この1年ぐらいで急成長しています。ここにはエンジニアの方々がたくさんいらっしゃいます。半分ぐらいが日本人を占めています。この会社はブロックチェーンを使ってE レジデンシーと同じようなことを世界中でやろうとしています。
Planetowayのサイトにある個人データ主権社会とはどのようなものか。、エストニアでは病院行くにしても、銀行行くにしても、E レジデンシーのカードさえあれば何でもできますが、日本ではこれといってマイナンバーカードを使って何か行政サービスが受けられるわけではない。そうするとエストニアと日本とではデータの扱い方に違いが出てきます。エストニアは不正アクセスしたらすぐ発見されるので即逮捕されますから、自分のデータは自分で管理している感覚があります。自分のデータは自分で管理する、このような社会を個人データ主権社会と言います。日本国内では自分のデータは自分で管理するという考え方があんまりないですよね。ヨーロッパではGDPRという枠組みが去年施行されました。例えば「Google Facebookとかが自分の個人情報を自分の許可なしに勝手に使わないでください。もし使ったら罰金です。私が許可したものだけ使ってください」というガイドラインです。このGDPRは個人データ主権社会を実現するためのものです。
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