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ライブドアショックとベネッセショックを体験した45歳は、それでもスタートアップに夢を見る

小林 佳徳(Yoshinori Kobayashi)'s icon'
  • 小林 佳徳(Yoshinori Kobayashi)
  • 2019/03/16 09:16

1973年生まれ。山梨県出身。新潟大学院修了後、1998年大手上場企業「大日本印刷」に就職。

そこまでピカピカの経歴でもなく、平凡なサラリーマンとして一生を終えそうなスペックから、物語は始まる。


新卒で上京。最初に入った大企業のまま一生を終えることなく、想像すらしなかった会社人生を歩み続け、気づけば10回の転職を経験。


そして、40歳を過ぎてから、いわゆる短期間でのIPO(上場)を目指す”スタートアップへの転職”においては、それまでに体験した「ライブドアショック(2006年)」「ベネッセショック(2014年)」以上の壮絶な経験をすることとなった。


「40歳過ぎて、今のママこの会社に居続けて良いのか?人生一度切り、いっちょスタートアップとやらに飛び込んで実力を試してやるか」

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少しでもそんな気持ちになったことがある貴方へ送ります。


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溶けていくお金、消えていく社員

「えっ、給与振込も私がやるんですか?」

まったく経験のなかった経理業務を突如、担当することになったのは、安定した教育大手企業「ベネッセコーポレーション」からスタートアップへ転職してきてからおよそ1年後のことだった。

気づけば入社当時20名いた社員はリストラをしたわけでもないのに、業績不振による方針転換の結果、次々と自主退職し、気づけばマーケティング担当も経理担当もエンジニアもいなくなり、ヘッドカウントは5名にまで激減していた。

ビジネスメンバーが退職する度にその社員が担当している業務が自分に引き継がれていく。というか、誰かがやらないと365日24時間運営のスマホ家庭教師サービスが回らない。
状況が状況だけに、送別会の度に感傷に浸っている余裕は無くなっていった。

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自分はアプリ開発のいちディレクターとしての採用だったのだが、これまでに経験したことがある業務か否かはもはや関係なく、降りかかる未経験のタスクを次々と倒していくしかなかった。自分の職種や職域を超えた役割を果たせなければ、すなわち「死」である。


スタートアップのリアル

スタートアップはいわゆるベンチャー企業と扱いが混同されやすいが実態は大きく異なり、ベンチャーキャピタル(VC)と呼ばれる投資家などに自社の株式を渡して資本金を集めて(調達と呼ぶ)上場(IPO)を目指す。

一般的には出資を受けてから10年以内にはマザーズへの上場、もしくは売却(M&A)の選択を迫られるシビアな世界。

「○○○○をリードVCに、■■億円の資金を調達!」

そんなネットニュースを見かけたこともあると思う。

その影には、会社の株を放出したことで資金を得たことによる「成長し続けなければいけない」という大きな責任と義務が「投資契約書」という形で重くのしかかる。

誰かが言っていた。

「スタートアップとは墜落しながら飛行機を組み立てて地面に打ち付けられる前に完成させて上昇させるようなものである」

飛行機が完成せずに地面に打ち付けられる痛みはどれほどだろうか。。。

華々しい面ばかりが注目されやすいが現実は甘くない。


まさに現代のHARDTHINGSである


41歳で一部上場企業からスタートアップ転職という決断

話はやや戻り、2014年ごろ、ベネッセコーポレーションにてデジタル教育サービスのプロジェクトリーダーを担当していた。新規事業立ち上げやプロトタイプのグロースハックを推進してる中、個人情報漏洩の事故(通称:インシデント)が発生。

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ライブドアショックを経験していたこともあり、このピンチをチャンスと前向きに捉えて新規事業にトライするも、大企業ゆえのスピードや組織の問題に頭を悩ませた。

「自分が実現したい教育ビジネスを立ち上げられるのはスタートアップだけだ!」と

一念発起してEdTechスタートアップのマナボへ転職。


「調達した3.3億円で、テレビCMをどかーんと打ちますよ」

入社前の面接で聞いた役員の言葉を思い出していた。41歳での決断だった。

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しかし、入社後、状況は急変する。

ベネッセとのアライアンス(業務提携)は情報漏えい事故などのアクシデントも重なり、提携は解消。思い切って広告費を投下した施策も空振りに終わり、大きい方向転換を迫られる。入社前にいくら景気がよい話があったとしても、必ずしもどうなるかわからない。それがスタートアップ。

そんな中、日常的には見ることがない「」という金額のお金も、いつの間にか預金通帳から見る見るなくなっていく。

そう、お金は無くなるのではなく、まさに「溶けていく」のだと知るのにそう時間はかからなかった。


「お金必要なんでしょ?貸しますよ?」

どこから情報が流れたのだろう。

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怪しげな貸金業者からの電話が会社の代表宛に頻繁にかかってくるようになった。

普通のビジネスマンとは明らかに異なる口調。

応対することで精神的に何かが削り取られていくような感覚。そんな電話を大学生のインターン生が出たこともある。

申し訳無さと切なさが募った。

売上をあげなければ!利益を出さなければ!

普通の会社は売上があがって、そこから利益がでる。利益が出なければ赤字である。

赤字になったらすぐにつぶれるのでは?

答えはNo

スタートアップには調達した資金があるので、仮に売上がなくても利益がなくても資金がある間は潰れない。ただ潰れなかったとしても「ゾンビ状態の会社」とも言われるし、資金はもちろん無尽蔵ではない。資金が余裕があるうちに会社を成長のサイクルに乗せる必要がある。

なんとかして、利益を出すか、もしくは次の資金調達まで持たせなくては。。。


売れるものは何でも売った

既存事業をすぐに伸ばして売上を確保することが難しく、すぐにお金を手に入る方法が必要だった。

1つは受託開発。優秀なエンジニア社員が残っていたこともあり、知り合いづてから紹介されたアプリ開発案件のために社外へ週3日常駐。まるで日雇いバイトのようだった。

エンジニアの席が、ガランとした。

ここまでして会社を延命する意味があるのか。考えないようにした。

それだけではまだまだお金が足りなかったため、サービスの心臓部となるソースコードをOEM提供することでラインセンス費用と、移植のための運用費用を得ることでさらに延命処置も行った。

自分はエンジニアではなかったため、アプリ開発のプロジェクトリーダーを担当し、突貫工事によるサービスリリースを受け持った。もはや自社サービスへのシナジーなど言っている余裕はなく、つなぎ資金が口座に振り込まれるのを心待ちにした。

最後は、退職した社員が使っていたMacbookProを、10万円単位でお金になるので売却したりもした。

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こうなる前は「入社したら50万円まで、PCでも椅子でもなんでも購入補助します!」と言っていた日は遠い幻となった。


そんなときでも、既存事業だけはやめずに続けるというポリシーだけが最後に残っていた。


限界経費削減

バーンレート

毎月一体いくらのお金がなくなっていっているかを表す用語。

仮に費用として、人件費のみがかかっているとして月給50万円x5人の場合で250万円がグロスバーンレートだ。
ここで売上が50万円でていればネットバーンレートは200万円となる。

例えば上記のネットバーンレートだったとして、エンジェル投資家から1000万円を調達できれば5ヶ月もつ、といったように計算する。

つまりは、売上を伸ばすのに加えて費用をどれだけ抑えられるかによって、何ヶ月生き延びることができるのかが当然決まる。

光熱費を抑える、文房具の利用を控えるといった、そんな程度のレベルの節約では会社が持たない。

「安い物件のオフィスへ移転して賃料を抑える」

入社直後、勢いよく移転した100坪近い広さの渋谷オフィスはすでに閑散としており、明らかに余分な経費がかかっていた。

移転先の候補になってのはVCにつながりのある新宿と、社長とつながりのある六本木。後者に決まったかと思えば爆速で移転準備をすることに。

六本木への移転といえば栄転と囃し立てられたが、現実は引越し業者にも頼まず、1BOXのレンタカーを土日に社員自らが運転し、夜逃げ同然だった。

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移転先はこれまでの1フロアすべてが自社ではなく、複数の企業が同居するシェアオフィス。六本木で1席利用につきコミコミで月に3万円程度で借りられたのは破格だったが、良く言えば「WeWork」、悪く言えば「居候」のような佇まいだった。

今でも思い出すのは、複合機が共有になったことで、それまでに使っていた複合機を解約することになったのだが、長期のリース契約だったため解約には大きな違約金がかかる、と。

できるだけ、キャッシュアウトを抑えるように印字ドラムを抜いた結果、図体がでかいだけでなんの役にも立たない置物になった。


それでも笑顔を絶やさなかった

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毎月末、最終金曜日に開催していた締め会。送別会も兼ねていたので、1人、また1人去っていき、残るメンバーも4名+インターン生2名に。

それでも最後は一人あたり1,500円の予算まで削ってでも開催し続けた。

唯一、安らぐことが許される貴重な時間だった。

お互いが罵り合うようなことはなく、最後まで全力を尽くそうと腹をくくったメンバーが残っていた。


あなたの会社、大丈夫なの?

近頃、「嫁ブロック」というキーワードを見かける。

夫が転職したいときにチャレンジングな場合に妻が止めようとするアレだ。

自分の妻とはライブドア在職中に知り合っただけはあり、理解のある方だが、流石にこのときは住宅ローンあり、8歳の子供ありの家庭環境において

会社は大丈夫なの?」と聞かれて

いや・・・明日潰れるかもしれない」と簡単に話せる話題ではなかった。


でも、このときにもしも

もう、だめかもしれない

そう言っていたら、もう出勤する力がなくなってしまっていたのでは。そんな気がした。


神風

会社の預金残高を見る。
もう来月の支払いに耐えられるだけの金額が書かれていない。

仮に役員報酬と給与支払いをすべて止めたとしても、業務委託している講師(チューター)に給料を払う必要があるので、そこが止まってしまってはサービスが維持できなくなってしまう。

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「あ、、、これはもう潰れたな・・・」

自分は直接関わっていなかったが、CEOとCFOで多くの投資先を行脚していたのだが、なかなか条件がまとまらない。

出資は集められるときに集めておけ

市況に大きく左右されるのはもちろん、会社についての評価も時と場合による。

まさに「時価」総額


デットファイナンスにせよエクイティファイナンスせよ、資金調達というのは予定通りには進まないことを身をもって知る。


明日には会社がどうなってるか分からない。


そんな中で、ある事業会社から2.5億円の資金調達に成功したと社長から連絡が入った。

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助かった、、、というか、生きながらえた、というか、不思議な感覚。

事実は小説より奇なりという表現がぴったりだった。

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夢は終わらない

その後、調達した資金を使い、再度拡大を目指す。


しかし、その後、経営層の判断から大手企業の駿台へ売却(M&A)されることになり、私はそれを知らされる前に別のスタートアップへ転職した。

この資金調達の顛末で燃え尽きてしまったのだろうか。

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もうこんな目に合うのは懲り懲りだ。

次の転職先は大手にしよう。

そう思わなかったといえば嘘になる。


では、40歳を過ぎてからのスタートアップへの挑戦は失敗だったのか?

大手企業でおとなしくしているのが正解だったのか?


全くそうは思わない。なぜなら、そこでしか得ることのできない貴重な、プライスレスな経験ができたからだ。


人生における、成功や正解とはなんだろうか。

大金を得ることか?不自由のない生活をおくることか?果たしてそれだけか。

私にとってのそれとは「夢を持つこと」「それを実現すること」ではないかと思う。


そして、それを追い求めるために、今日もスタートアップでヒリヒリする限界の緊張感に身を置いている。


スタートアップ。それは唯一、その夢を見させてくれる環境。


新しい会社の新しいメンバーと、もっともっと遠くへ行くために

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公開日:2019/03/16
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  • 小林 佳徳(Yoshinori Kobayashi)
  • @xbee
大企業からスタートアップまで、正社員で12回の転職。得意分野は、ネット系新規事業、教育xIT/人材xIT https://twitter.com/xbeeing/
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