
※元ネタ。当記事はパロディでありクリスペに関する正確な記述をしようとするものでは全くありません。
あるカードをめくり、クロサワ(17)はこう言った。
「熱風の兵団?HAHAHA!聖域のエルフより明らかに弱いじゃないか!」
~カード紹介~
熱風の兵団(赤)
ソルジャー 2/1/1
ターン終了時 1/1の熱風兵を1体出す。聖域のエルフ(緑)
フェアリー 1/1/1
召喚時 1/1の聖域のエルフを1体出す。
隣でデッキを調整していたKuri=Noelは笑って返す。
「確かにな」
カードを束ねて調整を終え、彼はそれを切り直した。
「それじゃあ、このデッキと一戦しないか?」
そう言った彼はその束へ、
これ見よがしに2枚の熱風の兵団を挿し込んだ――。
Noelは、クリスペのデッキタイプの一つ。デッキカラーは赤。
広義的には火力と軽量クリーチャーが織り成す高速ビートダウンデッキであり、
狭義的にはマナ1点、カード1枚を可能な限りダメージに変換することを狙う、
極限まで効率を突き詰めたデッキである。
〇Noelの誕生とその経緯
クリスペで猛威を振るっていたクリーチャーデッキは以下の三色。
即ち――
騎士道、集団戦の色であり、多くの優秀な小型クリーチャーや大型天使を有し、
ミネルヴァによる強化やアークビショップなどによるマナ加速、不利になれば大天使フリッカで仕切り直しをしながら戦う白
自然、成長、クリーチャーの巨大さを美徳とし、他の色が羨むようなスペックのクリーチャーを横展開、それらをパンプアップスペルでサポートしながら戦う緑
白と対になる悪のゾンビ・悪魔・堕天使を、得意の単体除去・全体除去でバックアップ。
それらを暗黒の儀式による一時的なマナデスや毒林檎を利用したスーサイド要素から展開、さいきょうユニットの無貌神ニャルラトホテプを擁する黒
――のいずれかであった。
残る色は青と赤だが、ドラリコやらボトル呪文やらで知られる青は当時から既に「LOと魔法研究最高!長期戦万歳!」という地位を確立しており、クリーチャー戦とは縁遠い色。
(余談だがそれから10数年後、クリーチャー最強は青だなどと言われるようになるとはこの時誰も知る由がなかった。)
そして残されたのは……
「赤?ああスコットたろうと大型ドラゴンの色ね。軽量クリーチャー?知らんな」
~カード紹介~
火焔術~煉獄~
スペル コスト6すべてのユニットに6ダメージ
ディバイン・ドラゴン
ドラゴン 7/13/5召喚時 全ての相手ユニットに3ダメージ
ディバインのような高コストなドラゴンとダメージ呪文。
活躍する赤単色デッキは、それらとどの色でも使える汎用カードを用いた、クリーチャー主体とは言えないものばかり……。
早い話が、赤の軽量クリーチャーはクズカード同然と思われていたのだ。
「おい、もっと良い構築しろよ」
しかし、Noelは赤の軽量クリーチャーデッキを作った。
見向きもされないクリーチャー達を使って。
冒頭のようなやり取りが本当に有ったかどうかは分からないものの、Noelがデザインし、Noelが使用した特徴的な、
いやはっきり言おう
ギャグ寸前としか思えないデッキがなんと公式大会予選突破を果たし、一躍話題をかっさらったのである。
当時、あまりにも斬新だったその戦術は表現できる言葉が見当たらず、使用者の名、『Noel』として広まったのだ。
こうしてNoelという、現在に至ってもなおクリスペを語る上で欠かせないデッキタイプが誕生したのだった。
○Noelの構築理論
Noelの戦術は『そのターンに出るマナをムダ無く使う。』
極端に表せば『使用できないカードは無駄』
ということになる。
これに関しては少々説明が必要だろう。これだけを言われても、
「いやいやw使えないカードなんてデッキに入れ無いっしょwww」
……とまではいかないにしても、
「言っていることは分からないでもないが、実感が沸かない」
と、なるだろう。
さて、では次のような場面を考えてみてもらいたい。
場面はゲーム開始直後、貴方の手札はこうだ。
手札:《リッチの犠牲》《魔導士クローディア》《天瞳ウシャ》《毒林檎》
4ターン目に《魔導士クローディア》を出し、5ターン目に《天瞳ウシャ》出して場を制圧する、という実に頼もしい手札だ。
3ターン目までは無防備な状態だが、そこまでの間にライフを削りきられることはまずない。
仮に追い詰められたとしても、アルハマートの黒雷を引いて流してしまえば相手は息切れ。
こちらは攻防一体のウシャで制圧することができるだろう。
対して、目を覆うような4コスト事故の末トリプルマリガンを選択した対戦相手の手札はこうであった。
手札:《フレイラの闇討》《魂なき兵士》《伏兵》《熱風の兵団》
ではこのデュエルがどうなるかを見てみよう。
~1ターン目~
相手の先攻。
相手は《フレイラの闇討》から《魂なき兵士》をプレイ。クローディアが闇討で弾かれたが、4ターン目にマナクリスタルからウシャを展開すれば問題ない。貴方は思う「こんな弱小カード使ってるなんて楽勝だな、と」
貴方のターン。貴方は引いたカードを見て天を仰ぐ。
なんと2枚目の《天瞳ウシャ》を引いたのだ。序盤少しくらいダメージを受けるかもしれないが、
《リッチの犠牲》と《天瞳ウシャ》2枚があれば勝てるに違いない。
もちろん貴方は《毒林檎》を置いてターンエンドだ。
~2ターン目~
相手は《魂なき兵士》で殴りかかる。1点のダメージ。正直蚊に刺されたようなものだ。
さらに2マナから《熱風の兵団》をプレイ。やれやれ、相手はこちらを舐めているのだろうか。
貴方のターン。貴方は自分の引いたカードに仰天する。
なんと《無貌神ニャルラトホテプ》!《天瞳ウシャ》を出して墓地を溜めて召喚すれば勝ったも同然。今日はなんてツイてる日なんだ!!
と貴方は何も行動せずにターンエンドする。
~3ターン目~
相手は《魂なき兵士》《熱風の兵団》《熱風兵》で殴りかかる。残りライフは21まで減ったが、軽い軽い。
どうやら相手は『そこそこ』引きが良かったらしく、《スカルネ大佐》を置き、《頑強なパラディン》と《稲妻の爪》をプレイした。
~カード紹介~
フレイラの闇討
クリプトスペル コスト0ランダムな相手の手札1枚を破壊する
貴方のターン。素晴らしい、引いたのは《冥府の番犬ケルベロス》。3コストでは破格の高スタッツユニットだ。
そのまま《冥府の番犬ケルベロス》を出してターンエンド。
~4ターン目~
相手は《伏兵》を打ち込む。
そして全員で殴ってきた。残りライフは0となった。
こうして《天瞳ウシャ》を出すまでもなく貴方は敗北した。
~カード紹介~
伏兵
スペル 4コストすべての味方ソルジャーを+3/0する
虫のいい話に聞こえるだろうか? いや、まぁ実際虫のいいように書いているのだから仕方がないとして、実は最初期のNoelの強さは上記の鮮やかすぎる勝利に集約されている。
無貌神ニャルラトホテプだろうが天瞳ウシャだろうがアルハマートの黒雷だろうが、唱えさせなきゃいい。強力なカードは得てして重いもの。そしていくら強力であっても使うことが出来なければ全くの無意味なカードなのだ。
もっと言うなら最悪撃たれようが出されようがお構いなく流れを変えられる前にプレイヤーのライフを0にしてしまえばいいのである。
そのために、自身は最序盤から唱えられる低コストカードばかりを採用し、
相手がカードを使い切れていない内に決着を目指すこと、それがNoelの基本理念であり、上述の『使用できないカードは無駄』の真意である。
そして、このNoelの強さの影には、「自分だけが殴れる時間」を作り出す《フレイラの闇討》の姿があった。
よくNoelの強さはNoelのマナカーブにあるとされ、
マナカーブへの着眼が弱っちいカードをトーナメントレベルにまで押し上げたと信じる人がいるが、それは半分正解で半分間違っている解釈といえる。
毎ターン余すこと無くマナを使えるように構築することで1ターンのカードの使用量や一枚あたりのカードパワーを少しでも高める、
つまり使用したカードパワーの総量で優位に立つのがマナカーブ理論の強みだが、
マナを全てダメージに変換してノーガードで相手を殴り殺す攻撃力には常に打たれ弱さが隠れている。
仮に最序盤を凌がれてしまい、十分なマナから出てくる高マナ強力カード達の連打をされようものなら、
ほとんどのカード使い果たし、マナカーブを実現するためでしかない低~中マナのローパワーのカードでは対抗することもできない。
場の弱小クリーチャーたちもまとめて蹴散らされて、残り5点を切るような極小ライフを削ることすらままならないであろう。
そのライフを削り切るまでの打たれ弱さを《フレイラの闇討》という手札破壊による魔眼戦術で補ったのがNoelの誇る革命の一つ。相手には出来る限り弱小クリーチャーを一掃する高マナ強力カードをプレイできない序盤、すなわちサンドバッグを演じてもらう必要が存在したのだ。
もちろんだが、赤そのものもクリーチャーおよび火力の質の向上とともにトーナメントレベルでも通用する絶大な強さを手に入れたのは周知の事実だ。
しかし、そのような進化の前にはこのような歴史があったこと、Noelの強さはマナカーブによるものだけではないという事をどうか念頭に置いておいてもらいたい。